神様が通るみち

伊勢神宮外宮の北御門から続く裏参道と、月夜見宮を結ぶ道がある。
月夜見宮のご祭神である月夜見尊が、外宮のご祭神である豊受大御神のところへ通ったという神話から神路通(かみじどおり)という名がつけられたそうだ。

外宮を出た我が家族は、吸い寄せられるように神路通りを歩き、月夜見宮を参拝した。
帰り道に遊具のある公園があり、小学五年生になった息子が寄りたいと言う。
親の都合で勝手に伊勢まで連れて来られて、「もう疲れた」「いつ帰れるの?」と不服満載の息子にとって、自由に遊べる公園はストレス解消の場にもってこいである。

水を得た魚のようにはしゃぎ回る息子に、夫が付き添うように見守る。
私は少し離れた場所に腰掛け、快晴の空をぼんやり見上げる。
良い天気で、良い気候やな。
すると神路通りから自転車に乗った小学生男子がやってきて、公園にそのまま入る。
年の頃は、息子と同じくらいか。
暇そうに公園内を自転車でゆっくり回っている。
奥の遊具で遊んでる息子と夫の存在を明らかに意識している様子。
その距離はどんどん縮まる。
息子と夫の周りをガン見しながらぐるぐる回り続ける少年。
彼は別にメンチを切ってるわけでもないし、邪魔をしようとしているわけではなさそうだ。遠くからでも動物と同じようなピュアなエネルギーを感じる。

息子と一緒にいると、たまにこういう少年と出会う。
いつだったか、息子と大丸京都の屋上で休憩していたら、すうっと知らない少年がやってきた。
息子とその少年はその場にあった遊具で何となく遊び始める。
少年は一人きりで、側に保護者らしき姿は見当たらない。
「君、お父さんかお母さんは?」と話しかけると、「買い物してるねん」と答えた。
退屈だから屋上へきたのか。
息子と次第に仲良くなり始めた時、少年は思い立ったかのように、
「ただいま!地球は青かった!」と叫び、もう行かなきゃ、と小さくつぶやいて走り去っていった。

一瞬ポカンとしていると、息子が真顔で、
「人類初の宇宙飛行士、ガガーリンの言葉や」と言った。

「ただいま、地球は青かった」
その言葉が場内に浮遊して、少年の余韻を残した。


今目の前で、自転車に乗った少年はぐるぐると回っていた。
話しかけたら一緒に遊べそうやな、と思っていたが、息子も夫も彼に話しかける様子はない。少年は話しかけられるの待っているのではないか。私は3人を観察する。
いや、やっぱり私があの場所にいたら、あの子に話しかけるよなあ、なんで夫は話しかけへんのや?絶対、一緒に遊びたいって思ってるはずやろ、ヤキモキしながら見守る。

しばらくすると、少年は巡回の距離を広げ、すうっと元来た神路通りに出た。
少年は映画のワンシーンのように、神様の通る道へ静かに姿を消したのだ。

ひとしきり遊び終え、息子と夫は戻ってきた。
公園の入り口に、神路通りの由来が書かれた看板があることに気づいた夫は、それを読み終えて、しまった、という顔をしながらこっちを見た。

「この道の真ん中にある黒い線、神様が通る道で、人間は端を通らなあかんらしい。さっき普通にど真ん中歩いてたわ!」

あの少年は神様の使いだったのだろうか?
そんなことをぼんやり考えながら、目の前の夫を見ると、黒い線が引かれた真ん中でなく、端っこを意識して歩き出していた。






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たみい
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