映画『パターソン』/数えきれないくらいの美しいもの
足の靭帯の手術とリハビリのため(もうこれ聞いただけでアスリートかと思う)、二週間入院するママ友に、「とりあえずアマプラ三昧にしようと思ってるから、おすすめの映画があったら教えてほしい」と言われ、即了解したものの、ハッとした。20代前半の頃深夜のツタヤに通い(深夜のツタヤに若い女が行ってはいけない、ということをこの時学んだ)、今は無き京都サブカルの聖地みなみ会館(塚本晋也監督の『鉄男』を観たのもここだった、全く理解できずポカンとした)、京都シネマの会員になって足繁く通い、たくさん映画を観てきたはずなのに、パッと思い浮かんだものが、ジム・ジャームッシュの『パターソン』くらいだったことにゾッとした。もうまずタイトルが出てこない。すげーいい映画、観てたはずなのに・・メジャーでもないミニシアター系の映画ばかりだから?そういえば無印のアルバムに映画のチケットをスクラップしていたのに、捨ててしまったし・・なんで捨てちゃったんだろう・・頭を抱える。
もう過ぎたことは仕様がない。とりあえずママ友に、『パターソン』と最近録画してよかった映画をリモコンで探し、思いつく限りの映画タイトルをLINEに送った。このママ友とは芸術、文化的な話を同じテンションで盛り上がれる、貴重な人である。「パターソン、気になってた!」と返事がきた。ほっとした。
しかしこのままではせっかくの思い出がおじゃんになる人生、すごく切ない。おすすめの映画は?と聞かれてパッと答えられる人でいたい。
なので、noteにマガジン機能があるのだからここへ保管していけばよい、と考える。思いついたら映画の記録をちょこちょこ残しておきたい。
とりあえず一作目。
『パターソン』(2016年/ジム・ジャームッシュ監督作品/アメリカ)
『ダウンバイロー』や『コーヒー&シガレッツ』を若い頃に観たが、静かになんとなく続いていく物語を観ると途中で寝てしまう、という得意技を持ってるわたしは、うっす〜いジムの世界観しか理解できないまま年をとってしまった。
36歳の時、この映画のチラシを京都シネマで手に取り、「・・みたい!」と静かに興奮した。鑑賞後は、静かに、じわじわと、感動して帰ってきた。
バスの運転手として毎日変わらない風景の中出勤し、実は彼は詩人で、合間に詩をしたため、仕事終わりに犬の散歩がてら近所のバーへ寄ることを日課とし、自由奔放で無邪気な妻を愛し、平凡な暮らしを大切に生きる男、パターソンの日常の映画。
今年公開されたヴィム・ヴェンダースの『パーフェクトデイズ』っぽい感じではあるが、それよりはもっと軽く、若さを感じる。若さの中に芯が通った何か。大切だと思うもの、妻、愛犬、近所の人たちとのやりとり、安定した収入、合間に自己表現、全てが揃っていて、目の前にあることやものを大事にして生きている、という一見当たり前のことが、胸に響くのだと思う。
映画監督のライアン・ジョンソンが「12時間以上見続けていられる。この世界にずっといたい」とコメントしていて、ああ、まさにそういうかんじ、と同意する。派手さがあるような何かきらきらしたものでは全くないけど、じんわり心を突くような。
個人的には、静かで地味な男パターソンの隣に、自由で無邪気で個性的な妻ローラの雰囲気がとても合っていて、すき。