【随筆】古書店が身近にあるということ
先日、祖母の家のある郊外へ、都内近郊にある自宅から車で向かった。その途中、せっかくの遠出だから、祖母の家の近くに古本屋があれば行ってみたいと思い、古本屋さんが近くにないかネットで検索した。するとその道中には、古本屋はブックオフしかなく、いわゆる古書店のようなものはほとんどなかった。
私の家の近く(徒歩約20分)には素晴らしい品揃えの古書店があり、電車で10分ほどで行ける場所では毎年、年に4回程古本まつりが行われる。また、電車で1時間ほどかければ神保町や吉祥寺など古書店の多い場所に行くことができる。
古書店の素晴らしい点は現代の作家の本だけでなく、近代に流行った作家の本に出会えることである。また、近代から現代にかけて興隆した民俗学や精神分析学、心理学などの本が古書店にはたくさんそろえてある。例えば私は古書店で、瀧口修造や花田清輝、山口昌男などに出会った。
現代でもなおどこの新刊書店でも買える近代の作家だけが素晴らしい作家というわけではない。当時の雑誌を読めば、瀧口修造や花田清輝、山口昌男は様々な方面から高い評価を受けていたことがわかる。だが、現代の人々にはほとんど忘れられてしまったといっても過言ではない。その証拠に、瀧口修造や花田清輝、山口昌男の新刊で買える本はほとんどない。
また民俗学や精神分析学、心理学が現代に与えた影響ははかりしれないのにそれらの本が新刊書店には極端に少ない。新刊書店には現在流行っている即物的な本ばかりそろえている。
そんな作家や分野の本に出会えるのが古書店である。品揃えの豊富な古書店に行くと新刊書店では出会えない作家や分野の本がずらりとあり、目がくらむ。その中から、あなたにだけきらめいて見える本にきっと出会えるはずである。その本を手に取ってみる。そこからあなたの読書の世界がぐんと広がる。
地方には古書店が極端に少ない。地方に住む人は上記したような本との出会いの機会は皆無であり、近代の作家といえば教科書に載っているような人たちだけだと思っている。それはとてもかなしいことである。
だが、実情を考えると地方に古書店を増やすことは難しい。だって、新刊書店でさえ苦しんでいるというのに。
私のように都内近郊に住んでいる人は恵まれているとつくづく感じた。行きたいと思ったらすぐに古書店に行けるのだから。そして、古書店に行くことでしか味わえない恍惚とした感情を身に染みて知っている。
地方にいる読書好きの方には、ぜひ都会に来て古書店がたくさんあるところに行き、目が回るような体験を古書店でしてみてほしい。きっとあなたの人生が変わるような本、作家との出会いが待っている。
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