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第22回「エッセイは色合いをまとめる」

「文章の書き方」編集&ライティング歴40年ほどのフリーライター。120冊以上の書籍化でライティングを担当。このnoteでは、誰でも文章が上手になるコツを伝えようと思います。特に順序立てて書くわけではありませんので、どの回から読んでいただいてもかまいません。また何回のコーナーになるかも決めておりませんので。暇な時に拾い読みして、参考になる部分だけを実践してみてください。


短いエッセイは1テーマ


 たとえば2000字くらいのエッセイを書くとします。単行本の様に原稿用紙で数百枚という作品は別として、原稿用紙数枚の原稿を書くときには、原則としてワンテーマに絞った方がよいでしょう。
 書き進めているうちに、どうしても話があちこちに飛んでしまうことがあります。あれこれと思い出したり、書きたいと思うことが次々と浮かんできたり。筆が進むに任せて書いていると、いつの間にか自分がいったい何を書きたいのかが分からなくなってします。書く方が何を書きたいのかが分からないのですから、読むほうにしてみれば「この人はいったい何を言いたいのだろう」と思います。そんな文章に興味はもってくれません。


出だしと最後にテーマを書いておく


 テーマは一つに絞って書くことです。そしてその「テーマ」は、文章の出だしの一行目と、最後の一行に書いておくと分かりやすいのです。

☝︎

 たとえば会社に出勤する日常を書くとします。
 「その日、会社に行く私の足取りは重かった」という書き出しがあるとします。この文章で描きたいのは自身の心情です。具体的な仕事に関することなどではなく、あくまでも気持ちを描きたいわけです。
 さて、会社に行く足取りが重かったその日。いつもと同じように仕事をこなしているなかで、嬉しい出来事がありました。憧れている隣の部署の人とたまたまエレベーターで一緒になります。ほんの数分ですが、ふたりきりで話すことができた。こんなことは入社してから初めての事でした。たった数分の出来事ですが、重たかった自分の気持ちが一挙に軽くなりました。
するとこのエッセイの最後の一行は「その日、会社から帰る私の足取りは軽かった」ということになります。

 「その日、会社に行く私の足取りは重かった」という一行で始まり、「その日。会社から帰る私の足取りは軽かった」で終わる。この二行でテーマがハッキリと読み手に伝わるのです。
 たとえば同じ「その日」を描くにしても、「その日、私は初めて憧れの人とエレベーターで二人きりになった」という一文で始まれば、文章のテーマは「憧れの人」や「恋心」になってきます。このテーマで文章を締めくくるとしたら、「きっと私は今夜、夢の中でエレベーターに乗っている」あるいは「その私が見た会社の風景は、これまでとは違って輝いていました」のような締めくくりになるでしょう。


書き手も読み手も心地よいエッセイに


 ☝︎で紹介した例ほどの統一感は必要がありませんが、やはり最初の一行と最後の一行は同じ色合いにしたほうがいいでしょう。文章のなかでいくつかの展開はあったとしても、最後にまたテーマに戻ってくる。そういう文章は読み終わった後で心地よさを覚えるものです。

 自分がその文章のなかで何を描きたいのか。何を伝えたいのか、文章を書き始める前に、そのことを考えることです。
そして頭の中で文章のイメージができたら、一行目と最後の文章を書きだしてみてください。その二行を見ることで、自分自身の頭も整理されるのです。

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