第9回「最初の二行が大事」
雑誌の中の読まれない記事
たとえば皆さんが本を買う時、小説であれば自分が好きな作家の作品を買うでしょう。そうして買った本は、最初の頁から楽しみに読み進めていくと思います。まあこれは読書としては当たり前のことです。
さて、では雑誌の読み方を考えてみればどうでしょうか。一冊の雑誌の中には、実にたくさんの記事が詰め込まれています。連載小説や連載エッセイなどを始めとして、特集記事や単発記事など、どこから読めばいいのか迷うくらいです。この雑誌、おそらく最初の頁から最後まですべての記事を読む人はとても少ないと思います。たとえ一日中何もすることがなくても、すべてをじっくり読むことはしないかもしれません。
では、そんな雑誌のなかで、どの記事を読むのでしょうか。この記事は面白そうだな。そう思えば読み進めていきますし、何となくつまらなそうだなと思ったら、その記事を読み進めることを止めてしまいます。では、どうして読む記事と読まない記事はどこで決まるのでしょうか。
実は、読むか読まないかを決めるのは最初の二行で決まるのです。
”始めの二行”のオキテ
これは雑誌づくりの現場では常識となっています。私も雑誌の編集部にいたころ、多くの記事を書いてきましたが、いつも編集長から言われていたのが、始めの二行を大事にしろということでした。極端なことを言えば、編集長に原稿を見せたとき、最初の数行を読んで突き返されることもままありました。
「最後まで読んでもらえませんか」
と言ったところで、
「最初の二行を読めば、いかにこの記事がつまらないかが分かる。書き直せ」
と言われたものです。
誰に読まれたい文章なのか
書き出しでターゲットを絞る
それでは、どうして最初の二行が大事なのかを説明したいと思います。
たとえば、次のような出だしで始まる文章があったとします。
「私は昨日、渋谷に新しく開店した韓国料理の店に行きました」
この文章に興味を惹かれて読み進めるためには、「私」が有名人である必要があるでしょう。渋谷に開店した店。こんなありふれた話題 に飛びつく人は少ないでしょう。ところがこの文章を書いた人がとても有名な人物であったり、読み手がファンであったりすれば、この記事は読まれることになります。たとえその店が大した店でなくても、とりあえずは読んでもらえるものです。
では、有名人でも何でもない人が読んでもらうためには、出だしの文章を工夫する必要があります。とすれば、この文章のなかで「私」 と「昨日」は不要になります。さらに、どのような人たちに読んでもらいたいかを考えることです。たとえばいつも渋谷で遊んでいる女子高生に読ませようと思うのなら、
「渋谷に新しい店がやってきた!韓国料理が楽しめるよ!」
こういう書き出しであれば、渋谷で遊んでいる女子高生は、とりあえずはその先まで読み進めてくれると思います。あるいは韓国が大好 きな人をターゲットにするならば、
「韓国で流行の店が渋谷にオープンしました!韓流ファン待望の店です!」
という書き出しであれば、韓国好きにはピンとくるでしょう。同じ店の紹介記事でも、書きだしの二行で読者層や読者の数は変わってくるものです。
透明な「みんな」を追わない
逆に言うと、読者は書きだしの文章で自分が読む記事かどうかを判断します。自分には関係がないな、自分の興味以外の記事だな。ほんの数秒でそんな判断をするものです。これはあなたが書く側ではなく、読む側に立った時のことを思い出してください。きっとどんな文章も、始めの書き出しを読むだけで読むか読まないかを決めているはずです。
もちろんできるだけたくさんの人に読んでもらいたい。そう思うことは当然のことでしょう。そして多くの人に読んでもらうためには、 あまり読者を絞った書き方をしないほうがいい。ついそう考えてしまうことで、反対に文章がつまらなくなってしまうのです。
韓国が好きな人はもちろんのこと、韓国に興味がない人にも読んでもらいたい。そう考えるのも当然です。でもよく考えてみてください 。韓国に興味のない人は、どんな書き方をしても、韓国料理の記事など読まないのです。どうせ読んでもらえない人のことを考えるのではなく、興味のある人だけのことを考えて書けばいいのです。
「みんなに読んでもらいたい」と言いますが、その「みんな」って誰のことでしょう。実はこの「みんな」とは透明人間みたいなもので 、実在しない人のことを指しているのです。とくに今はSNSなどで発信する記事が主流です。そういった記事は短い文章でコンパクトにしなくてはなりません。となれば、さらに書き出しが大事になってくるということです。
文章を書く前に、まずは何を伝えたいのかを書きだしてみることです。キーになる単語をざっくりと書きだしてみます。その次には、誰に読んでもらいたいかを考えること。その二つの材料から始めの二行を導き出してみてください。始めの二行が書ければ、もう記事の半分はできたようなものです。
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