B級営業マン
出社しなくても良い。
聞きようによっては、夢の様な命令だ。
しかし、現実は甘くない。
一日中ネットで繋がっているし、四六時中スカイプをオンにもしている。
覚えたての、ズーム、ズームと囃し立ててくるのも鬱陶しい。
確かに、出社しても、ほとんどの業務がパソコン上で完結する事務作業が仕事なら、在宅はありがたいだろう。
通勤時間は減るわ、余計なおしゃべりに巻き込まれるストレスも減るわで、業務効率をグッと上げられた方がおられるかもしれない。
更には、通勤の必要が無いことで、ベース、粗塗り、中仕上げ、色だし、艶出し、総仕上げと、かなりの時間を費やしておられたお化粧タイム、季節ごとに膨らむ肢体を包み込むファッションコーディネートの時間も短縮となれば、毎日優に2時間以上の時間を手にされたのではないだろうか。
しかし、世の営業マン達は、決して在宅を楽しんではいない。
以前なら、存在しない朝の打ち合わせを理由に直行できた。
担当者との昼会食などが入っていれば、出社後、10時には事務所を出て行けた。
毎回、数時間程度ならどのようにでも言い訳の作れた至極のサボりタイム。
成績はそこそこ、B級の中~上、この辺りの営業マンなら、大概は先輩からその伝統芸を引き継いでいる。
会社や上司も、そんなことは百も承知で何も言わない。
「暗黙の了解」
これが、就業規則外の正規のルールとして存在しているのだ。
当然、給料を払っている側の会社が黙認してくれるのだから、堂々としていれば良かったし、当然、会社にもそれなりのメリットがあって黙認というバランスは保たれていたのだ。
黙認条件は、たった一つ。
「ノルマの達成」
これのみである。
B級営業マン達は、20日過ぎになると、大体目星を付けて来る。
・今月は、難しいと渋りを見せるが、確実に先の見えているやつ。
・今月は、ギリかもしれないと、落としどころを探るやつ。
・今月は、見込みが多いですから、ラストスパートです、とあきらめているやつ。
えーッ、月中15日頃には、目星を付けて置かないとと反論めいた感情を持ったあなた。
甘すぎる。
ひょっとすると、あなたは、エースを狙うトップランク、A級の下~中に座しているのではないだろうか。
間違ってはいけない。
あなた方は、目標ではあっても、大勢に影響を及ぼす存在ではない。あくまでも少数派だ。
分布的には、こんな風だ。
S級、3%
A級、10%
B級、65%
C級、15%
D級+E級、7%
これらの分布からも分かる通り、会社が期待するのはB級チームの安定性だ。
S級戦士は、ほぼ独立系で、如何に数字を作るかに統一性はない。
要は、他人に真似することが出来ず、再現性が無いからマニュアル外の存在だ。
加えて、外様系社員であることも多く、ほっとけばいい人達なのである。
それに比べて、A級組は、正直できるヤツらの集まりだが、鼻持ちならない奴も多く、統率性はない。
それぞれが、持って生まれたラッキーな才か、超・努力家か、いずれも凡人(C級以下)には真似できず、B級に同等の仕事を望めば、全体としてのパフォーマンスが落ちてしまう厄介者でもあるのだ。
A級は、そのパワーでC級クラスの補填をしてくれる存在と位置付けている管理職などいくらでもいるくらいだ。
だから、B級営業マン65%、これが上司の生命線、会社の宝物となるのだ。
B級組の最大の良さは、毎月、何とかギリっギリでノルマを達成してくれることだ。
そして、来月も、その次の月もだ。
実は、彼らが長年B級戦士で居てくれるおかげで、会社と言うものは年次計画や予算組が上手く出来るのだ。
大企業であろうが、中小企業であろうが、この事実は変わらない。
優良な会社は、トップクラスの営業マンをたくさん抱えているところじゃない。
大体、トップクラスはスグに独立したり、天狗になったりと使い勝手が悪く、先が読めないのだ。
文句が多いのも、A級営業マンの特徴だ。
更に言えば、B級の文句は、上司がコントロールできる過去問なのに対して、
A級の文句は、そこも優秀で、上司が返答及び解決できない極めて正論的な文句が多い。
上司にしてみれば、こんな奴らが可愛いわけがない。
下手すりゃ、自分のポジションも危ないお前の言うことを真面目に聞く方がどうかしている。
だから、大企業であれ、中小企業であれ、A級は褒め殺しが利く程度、少しダケ居てくれれば良いのだ。
企業経営で重要なのは、全体の労働生産性を数字にできることだ。
管理職としては、途方も無い数字など要らない。
例えば、達成率180%!
アホか、
こんなもの、見込み予測ができない奴と思われ、ポイされる危険極まりない数字だ。
来月に、半分回せよ。
ハッキリ言って、おじゃま君だ。
そういう意味では、営業成績中堅クラスのB級営業マン達が、サボったり、抜け出したり、出し惜しみしたり、、して、
数字を揃えてくれる。
最高じゃないか。
労働生産性を考える時、必要となるのは安定性の高いパフォーマー達だ。
加えて、仲間意識も強いから、チーム戦になった時に団結力を発揮し互いに助け合うという、通常の管理マニュアルには記載のない「互助の精神」を持っているのも強みなのだ。
自分に課せられたノルマを理解し、給料を貰うというゴールを目指す。
支えてくれるバックオフィス分の給料をも稼ぎ出し、尚且つ役員たちの報酬だって稼ぎ出しているのだ。
彼らの頑張りが、すなわち、その会社の力そのものなのだ。
いくら商品に自信があっても会社は成長しない。
B級営業マン、彼らの紳士的な営業努力に依存して売り上げを確立して行くのが会社なのだ。
それを、出社しなくても良いとは何事か。
まして、今、何している?
サボってるんじゃないか?
テレワークになったことで、会社の宝ともいうべきB級営業マンの自由を奪い、画一的な枠に嵌め込み、個性まで取り上げる。
世の社長諸氏よ、この後、世界は未曽有のマイナス成長の時代がやって来るゾ。
その時に、結局頼りになるのが、B級営業マンであることを肝に銘じておいてもらいたい。
だから、ちょっとスカイプ、オフにして良いかな。
コーヒーだ。