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ケチる貴方/石田夏穂

▫️あらすじ
どうして私は金太郎のようにガッチリ、ムッチリなのに、こんなにも寒がりなんだろう。佐藤は極度の冷え性だが、その見た目のため、同僚にバレないように暖をとって生活している。しかし新人社員の教育担当になった途端、身体が火照り始めーー?脂肪吸引がテーマの「その周囲、五十八センチ」も同時収録。

▫️感想
ずっと読みたかった石田夏穂さんの小説。やはり評判通り、いや評判以上に面白かった。物語の設定は去ることながら、全文に毒とユーモアがこれでもかと練り込まれており、文章に惚れ込むとはこういうことかと思い知らされた。
本書は163ページと読みやすい分量ながら、2編の物語で構成されている。どちらも身体にコンプレックスを抱えた女性が主人公である。表題作の「ケチる貴方」は、冷え性に悩む主人公の「私」が上司に新人の教育担当を押し付けられ、嫌々ながらも新人の教育に勤しんでいるとふとこれまで冷え切っていた身体が火照っていることに気づく。そして2編目は「その周囲、五十八センチ」。こちらは学生時代から太腿の太さに悩む女性が、社会人となり脂肪吸引に目覚める様を描いている。本書を読み、ここまで自分自身の身体に向き合えることを素直に尊敬した。自分にも「二重だったら」とか「もう少し足が細ければ」といった願いは存在するが、お金や時間をかけるほど自分に興味がない。彼女たちの真っ直ぐな想いと行動に感心する一方で、どんな理由であれコンプレックスが解消していくと、内面も明るく社交的になるという発見もある一冊であった。

▫️心に残った一行
P110 「脚の問題とは、これすなわち、人生の問題である。脚が太いと、ヒトの人生は、ものすごく難易度が上がる。」
P162 「「私」がいる職場では、「女」という箱に振り分けられたとたん「嫁」へと至るベルトコンベアに乗せられてしまう。そこから外れた女性は「あれ」ないし「何かヤバいやつ」、つまりは「腫れ物」としてまともな検分もされず雑多なものと一緒に詰め込まれ、しばらく経てば「偉くな」る男性たちをその場でただ眺める未来しか現状は用意されていない。そしてそんな空間は、旧弊とは言えてもすくなくともこの国ではけっして珍しくはないのだ。

▫️こんな人におすすめ
・何かコンプレックスを抱えている方
・辛口でユーモアのある文章を楽しみたい方
・さくっと小説を楽しみたい方

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