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地球にちりばめられて/多和田葉子

▫️あらすじ
留学中に故郷の島国が消滅してしまった女性Hirokoは、大陸で生き抜くため、独自の言語〈パンスカ〉をつくり出した。テレビに出演したHirukoを観て、言語学を研究する青年クヌートは放送局に電話をかける。意気投合したふたりは、世界のどこかにいるはずの、自分と同じ母語を話す者を探す旅に出る。

▫️感想
物語の内容も文章も初めて出逢うものばかりで、ワクワクしながら読み終えてしまった。内容は、何らかの理由で日本が消滅してしまい、人々の記憶からも抹消されてしまった世界が舞台である。“日本”という言葉は一切登場しないが、登場する言語の節々に日本語の特徴が表れており、なぜ日本は消滅してしまったのか、また日本出身であるHirokoは同じ母語を話す人々と出逢うことはできるのかたくさんの謎が生じる小説である。そしてもう一つの魅力が、「美しい比喩に出逢える」ということだ。様々な国に出逢え、また自分の語彙力では表現することができないキラキラした比喩に巡り合うことができる。こちらの物語は三部作のため、あと二作も楽しめるのはとても幸せなことである。

▫️心に残った一行
P84 「味というものを知覚して、これまでの経験と照らし合わせて、美味しいという言葉に繋いでいくという作業は脳で行うわけだから、それに見合った表現があってもいいだろう。それなのに、このピザは美味しいとか不味いという言い方しかできないのは文明の貧しさかな。」

P204 「彼のいいところは、がっかりしても怒っていても電気がついたままの部屋のようで、いつでも入ることができることだった。」

P214 「沈黙には、湿った沈黙と乾いた沈黙がある。」 

▫️こんな人におすすめ
・様々な国が出てくる小説を読みたい方
・言語、言語学に興味がある方
・美しい比喩に出逢いたい方

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