持続可能な宿経営を目指して〜環境負荷とお客様視点でアメニティをいま一度考えてみる〜あめつちメルマガ【vol.18】
インバウンド観光が増える中で、「環境配慮」は当たり前の時代に
今、日本には世界各国から多くのインバウンド旅行者が訪れています。
JNTO(日本政府観光局)の調査でも、2024年6月の訪日外客数は3,135,600 人で、単月としては過去最高を記録したことが話題に。
昨年3月に策定された第4次観光立国推進基本計画においても、「持続可能な観光」、「消費額拡大」、「地方誘客促進」の3つの柱に基づいて、国として訪日旅行プロモーションに取り組んでいく方針が、明示されています。
こうした流れの中で私たちがとりわけ注目しているのが、高付加価値旅行者(訪日旅行1回あたりの総消費額が1人100万円以上の旅行者)の動向です。
なぜかというと、高付加価値旅行者が旅行に求める価値に、
「本物の体験ができるかどうか」、「価値に見合った価値が受け取れるかどうか」といった、従来のラグジュアリーの基本要件に加えて、
「地球環境に配慮しているか」、「訪問地に悪影響を及ぼさないか」という、利他的要素が含まれているからです。
世界の中でもとくに欧州、豪州はサステナブルな国が多いことで知られていますが、これらの国々から訪れる旅行者のさりげない立ち居振る舞いを目にするたびに、環境配慮の意識の高さに感心させられる場面が多くあります。
彼ら彼女らにとって環境負荷のないモノを使ったり、サステナブルなアクションを起こすことは決して特別なことではなく、ごく自然なこと。
むしろ環境への配慮は、すでに日常の中で当たり前に実践しているマナーであり、ライフスタイルであり、生き方そのものなのだろうなぁと実感しています。
そして、そんな時にふと頭をよぎるのが、
日本の宿において、サステナブルな取り組みはどこまで進んでいる?
という問い。
前述の通り、日本では今「持続可能な観光」を目指すべく、サステナブルツーリズムを促進する動きがあることは確かでしょう。
実際に現場レベルにおいても、すでに多くのビジネスホテルでは連泊するお客様に対して客室クリーニングの要不要、タオルやシーツ類の交換についても同様の意思確認が当たり前になりつつあります。
この他にも、化粧水やクリーム、レイザー、シャワーヘッドアンドのアメニティ類に関してはエントランス付近に専用バーが備えられているところも多く、「必要とするお客様が自由に持っていく」スタイルが、すっかり見慣れた光景になりました。
確かにこれらは環境に配慮する取り組みの一貫であることには違いなく、
一昔前に比べると、ずいぶん進化しているように感じられます。
でも、【使い捨て】や【ムダ】、【見えていない廃棄物】は、まだまだ多い…。
欧州、豪州の人々のサステナブルに対する意識に比べると正直、未だ遠く及ばない…というのが私たちの率直な意見です。
弊社で行ったリサーチ結果から見えてきた、お客様の行動と本音
このように感じるには、もちろん理由があります。
最近、弊社とご縁のある宿泊施設様に対して、アメニティ類に関する意識調査を行ったところ、
「宿泊客の多くは、ホテルや旅館にあるアメニティ類をほとんど使わず、普段愛用しているものを自宅から持っていく」こと
さらに、
「備えつけのアメニティはもったいないから自宅には持ち帰るが、結局そのまま使わずに廃棄してしまう」
という回答結果が、多く見られたからです。
この結果を見た時、「ああ、やっぱりそうか!」と、これまでなんとなく感じていたことが確信に変わるとともに、
と思ったのです。
サステナブルに対する意識の高さに感動した、ある宿のエピソード
そんな課題感を感じていたタイミングで、あるお宿様から環境に対する取り組みについて非常に興味深いお話をお伺いしました。(ポイントのみ要約してお伝えします)
この貴重なお話に私たちは大変刺激を受けるとともに、深く共感する部分が多くありました。
なぜなら、環境負荷に対する課題感を抱えて嘆くばかりでなく、
「宿としてこの先、どのような行動を起こしたら良いのか。何がお客様にとって、最も喜ばれることだろうか?」
と、課題の本質に目を向けられ、具体的なアクションを起こそうとされていることが、伝わってきたからです。
この観点からよく考えてみると、一見環境に配慮して設置しているように見えるアメニティバーさえも、本当は必要ないのかもしれません。
今はまだ、「お客様がいざという時にないと困るだろうから」という理由で置いている施設が大半だと思いますが、「宿にアメニティは一切置かれていない」が浸透していったとしたら。
宿にない場合、お客様は欲しいモノを「購入する」が、近い将来当たり前の光景になるかもしれません。
弊社が行った調査からも見えてきたように、お客様の多くはご自身で日頃愛用されているアメニティを宿に持って行く傾向があるばかりでなく、アメニティ類を持ち帰っても破棄してしまうことがわかりました。
であるならば、
【宿にアメニティ類をそもそも置かない】
という選択肢があってもよいはずです。
そして、従来のタイプのアメニティバーを設置しないという選択をするならば、その代わりに本当に良いものを置くーー地元の生産者がつくった良質なモノや、やや敷居が高くて普段はなかなか手が出ないもの、憧れのモノやサンプル提供することで、【購入】という流れをつくることもできるのではないか?と考えています。
(価値あるものを販売提供すれば、付帯収益を得ることにもつながるため、宿にとってもお客様にとっても良いことであるはずです)
そして、このことは宿にとっても、お客様にとっても、地元の生産者様、さらには本当に価値あるモノづくりをしているメーカー様にとっても良いことで、全体がハッピーな好循環を生む流れにつながっていくと、私たちは考えています。
習慣脳を抜け出せないのは、メリットよりもマイナスを恐れる気持ちが先立つから
サステナブル推進、SDGsへの取り組みに対する意識は、かつてないほど今、業界全体で高まっていると思います。
しかし、そのことを頭で分かっていながらも、今ひとつ実行に移せていないとしたら…。
そこには、(前回お伝えした)習慣脳が大きく影響しているかもしれません。
たとえば、先に触れたアメニティ類に関していうと、「宿泊施設には当たり前に設置されている」がこれまでの業界の常識とされていた中で、この慣習から脱却すること、つまり思い切って撤廃することは、もちろん勇気がいることだと思います。
そこには、
・近隣の宿がみんな置いているのに、うちだけなくすのはどうなのだろう
・アメニティをなくすことで、お客様からのクレームはないだろうか
・完全になくしたら室料を下げることになって、結果、利益が減るのでは
・客離れにつながらないだろうか
など、そこからもたらされるプラスの効果よりも、想定されうる様々なマイナスインパクトを恐れる気持ちが潜んでいるからなのかもしれません。
もちろん、これまで通り習慣脳を使っていけば、これまでと同じオペレーションで進めていくことができますし、その方がずっと楽であることは確かです。
しかし、実はあまり使われることのないアメニティ類を置き続けていることは、お客様にとっても、宿にとっても、もちろん環境負荷の観点から冷静に考えてみても、決してプラスではないとしたら…。
どこかで決断すべきタイミングはやってくると思います。
以前メルマガでお伝えしたように、ここでもやはり貴宿の経営理念やビジョン、ミッション、ゴール(VMG) に今一度深く、深く立ち返り、それらに基づいてどのように環境負荷に対する取り組みを行なっていくのかを検討すること。
その上で、やるべきこと・やらないこと(やめること)を見極め、実行することが重要になってくると思います!
ぜひ、貴宿のお取組みにお客様が共感し、ご協力頂けるようなカスタマージャーニーマップを作成してみてください。
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