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旅行記録 2024/08/28-上賀茂神社

 さて。この日は遅れるわけにはいかない。予定通りにバスに乗り、上賀茂神社へ向かう。正直言って、これまで上賀茂神社という名前を聞いたことはほとんどなかった。知っているのは殆どが下鴨神社について、加茂建角身神についての数少ない情報だけ。よって、この日向かうときも現地の情報について僕はそこまで知らないというのに、楽観視していた。予定通りにいかなかった場合の対策を、微塵も考えていなかった。
 けれども、それが足を引っ張るのはもっとあとのこと。ひとまずは、上賀茂神社に到着したあたりに話を戻そう。
 この場所についての知識は、前述したように一切持っていなかった。だから、ここが京都でも有名な場所だと知ることもなかった。実際、この神社を見てもそういう印象は持たなかっただろう。世界遺産にも認定されている「古都京都の文化財」の一つではあるが、同じく構成する中の一つである清水寺と比較すれば、人気がないに等しかったからだ。
 雰囲気は、とても良い。前日に行った赤神山阿賀神社の簡素な鳥居もまた良かったが、平地に作られている分この神社の朱い鳥居もそこまで眩しくは見えない。白砂を敷き詰めてあるからか、朱色がだいぶん和らいで見える。
 そして、敷地内を流れる賀茂川だ。川のせせらぎ、鳥のこえ。風にそよぐ木々の葉擦れ。とても快適な神社であるのだろう。白と赤で彩られたこの神社は、たとえば夜に来ればとても神々しく輝くのだろう。だが、それらを台無しにするのが燦燦と降り注ぐ陽光。そして、この暑さだ。のちに東京へ帰ってみて東京よりも京都のほうが暑いということが判明したが、それでもここ2,3年の暑さは異常だ。昨年など、東伏見付近では紅葉の全盛期が12月上旬であったぐらいの……
 こんな暑い所にはそれほど長くはいられない。参拝してすぐ退社するつもりであったが、そんなときにとあるお守りが目についてしまった。それは、カラスの形をしたお守り。そして、その横には「カラス神籤」なるものの姿も。カラスは、僕の大好きな鳥。その目は買えと、買わなければと、強く訴えかけてくる。衝動に負けて買ってしまった。
 それにももちろん、ちゃんとした理由がある。今年の初めに引いた神籤は、かなり辛口の内容であった。特に、学問のところにはこう書かれていた。「怠けると危ないです」と。まったくもってその通りと思わず手を打ってしまったのだが、できれば安心して受験に臨みたい。「怠けると危ない」ではなく「このまま続けていけば大丈夫」のような内容にしてほしかった。そういうわけで、今度こそはよい神籤を曳きたい。前回の大國魂神社では「中吉」。願わくば、「大吉」よ来いと願いを込めて広げてみれば。大変喜ばしいことに、大吉が出た。
 しかしながら。その結果は以下の通り。

心浮かれ過ぎず身を引き締め、先のことまで考えよ。

 油断すると、失策に転じるのだという。だが、「学問」については進みて良いそうだ。「相場」のところにはっきりと「手を出すな」と書かれていることが気になるが……僕はもともとそういったことをしていないのだから心配はない。残念はことに、確証は得られず……これまで通りに地道に努力してゆけばよいか。
 日がだんだんと中天に差し掛かる。それに伴って気温も上昇し始めた。例年よりも涼しいとはいえ、暑いことに変わりはない。動けるうちに、下鴨神社まで行かなければ。そのことを改めて確認し、覚悟を決めて歩き始める。なあに、せいぜい20分ほどの距離。すぐに、着くさ。
 しかして時間が過ぎれば、足を進める僕たちはまるで幽鬼のよう。それに対して辺りの景色は、美しい。その落差で余計に自分が疲れているように、錯覚してしまう。おかしい。どうしてこうなった。
 初めのうちは、とても楽しかった。上賀茂神社を出てすぐに橋の下で篠笛を練習している人を見かけ、しばらく歩くとトビとカラスが空中で格闘戦をする姿が見える。賀茂川を挟んで東側は、洛外であったような気がするが、川を一つわたるだけで、京都市内のあの喧騒が止むというのはおそろしい。一昨日見た人混みの大半は、やはり観光客であったのだろう。とても静かで、気持ちの良い川辺であった。

 とはいえそれはもう過去のこと。日が雲から顔を出せば、たちまち辺りはうだるような暑さに。空を飛んでいた鳥たちもいつの間にか水辺に集合する。これは、まずいかもしれないと思い近場に駅を探すも、そんなものはどこにもない。では、バス停は?残念だが、歩いたほうが早いだろう。では、タクシーか。そう思って探すも、僕たちが通りに出たとたんにぴたりと往来が止む。待っていても、仕方がないのか。やはり、自力で歩くしかあるまい。
 そうして、ようやく。下鴨神社に、到着した。とはいえもう参拝する気力もない。一直線に出町柳駅を目指し、特急電車で四条へ。ここで、祖父に勧められた中華料理屋と入ったのだが、時計を見てみるとすでに2時になろうとしている。ラストオーダーは2時30分で、閉店が3時ちょうど。注文が遅れれば急いで料理を腹に収めるといったことになりかねないので、急いで料理を選ぼうとする。が、そんなにすぐに決まるはずもなし。一番手っ取り早くに、コース料理を頼む。それと、サイドメニューでチャーハンと蒸し鶏。ほかには6組ほどしか客はおらず、だからか若干急いで料理が出される。それらを美味しく完食したのが2時40分ごろ。とても良い店だったのだが、だが、できれば、次はもう少しゆっくりと過ごしたい。来年こそはと固く決心した。来年こそは、もっと早くに家を出て、上賀茂神社から下鴨神社へと歩ききってみせる。

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