フリースクール活動日記 2024/03/14-奥多摩
この日、奥多摩古民家に集合したのは10名。いつもよりも若干多いのは今回がいつもとは一味違った活動であるからだ。
きっかけは、ささいなこと。ずいぶんと前からヨッシーたちの要望によって1泊2日程度の少し遠出の活動をすることが決定していた。もっとも金額や日程の調整などが難しかったため結局それは果たされないまま終わってしまっていたのだが。その代替案として、奥多摩古民家に1泊する案が出てきたのだ。ここであれば、宿泊費は安く済むし旅費もそれほどかからない。決定したのがかなりギリギリであったがために参加人数はそれほど多くはなかったが、そんなことは脇に置いておき準備は着々と進められていた。
まず今回の活動では料理よりも体験を重視することに決定し、食費がそれほどかからない料理を作ることに決定。初日の昼は各人弁当を持ち寄り、夕飯には焚き火でバーベキューとなる。そして翌日昼は簡単に作れるであろうカレーライス。それらの材料や、他にも焼き芋用のサツマイモを5本、ふかし芋のためのジャガイモ10個などを追加して食材代は全員で2万円分まで削減。その分活動範囲を広くすることが叶うため、初日の活動目的地は日原鍾乳洞へと決定した。
くわしいことはだいぶん省くが、バスで行くとなるとバス代電車代ともに嵩み、加えて電車遅延などによる被害も大きくなると判断されたためにイマンモ家、および珊瑚荘に常備されているファルコン号による輸送に決定された。まあ、今から思えば本当に見事な机上の空論と呼ぶべき代物。失敗した時のことを何一つとして考えていなかったのだから。
そうして時は流れ当日。もちろん集合した約10名の全員が古民家に泊まるわけではない。チーくん、御嬢、シャコシャコなどは初日で日帰り。また2日目に来るトッキーも初日には来ない。
そうしたわけで初日帰りのメンバーはイマンモ家の車に便乗して帰るのだが、ここで最初の事件が発生した。
はりきって車に乗り込んだレイセンから、いつまでたっても音沙汰がない。不審に思って見に行くと、不思議なことにエンジンのかかる音が少しもしない。どうやらバッテリーが上がってしまったようで、前回ダイナマイトが窓を半開きにして(?)しまっていたのが去年の夏だから大体9か月ぶりか。数十分間車と格闘していたもののエンジンはついにかからず。仕方がないのでしばらく話し合った結果、唯一残ったイマンモ家の車によるピストン輸送をすることに決定した。
第一陣へと選ばれたのは、僕・龍角散・ドクロ仮面など。車に体を詰めて乗り、たまたま置いてあった猫の仮面を後部座席のメンバーは着ける。もちろん、あとの1人はドクロ仮面だ。
この状況でしばらくしてから後ろを振り返ったのだが、不運なことに後ろには1台の車が走行していた。幸いその際に信号で止まっていたからよいものの、下手をすればこちらの顔に驚き暴走して突っ込んでくる可能性もあった。
その後車内でしりとりなどをして暇をつぶす。ただ遊ぶだけではつまらないので、それぞれ制限を付けることにした。例えば僕は「神話」制限。あんこやシュークリームなどは使ってはならず、それぞれ「アウクソー」や「シュブニグラス」などのみを使わなければならない。そうなると自ずと選択肢も限られてくるわけで。しばらく経つとあっという間に日原に到着して居た。
ただちに降車後弁当を喰い、鍾乳洞入場用のチケットを買う。そのまま入場しようとしたのだが、イマンモに止められ断念した。ここで皆との合流を図るという。
皆がこちらに来れる時間というと、片道30分ほどとして1時間後だろうか?さすがにそれまで何もしないでいるのは退屈なため、鬼ごっこをすることにした。公道は歩行のみ可能、遠くへは行き過ぎないというルールで。
しかし、大切なことを忘れていたことに後から気が付いた。歩行のみ可、ということは走行は不可なわけで、そうなれば最初からかなりの距離をとってしまっている以上けっして捕まることがないといえるわけだ。そんなことに業を煮やした鬼・emmanmoが不意に雪を取り投げつけてきたりもしたが、幸いそれほど被弾はせずに乾いた服のまま後続の皆を迎えることができた。
そうして集合後、チケットを買った面子で中へと入っていく。僕としてはさっさと見終えて次へ(水琴窟などの見応えのある場所へ)進みたかったのだが、なんとこの鍾乳洞過去に行方不明者が出たとかなんとかいう都市伝説があるとか……
そんなことを言われてははぐれるわけにもいかずに素直に皆についてあちこち回ることにした。地獄谷やら弘法大師学問所などと仏教にゆかりのありそうな地を巡り、そのうち自分が失敗したことに気が付いた。
十二薬師や賽の河原などを少しだけ時間をかけて見ていたのだが、その少しの間に皆、先へ進んでしまったようであたりにいるのは後続組のソース・イマンモ・レイセンのみ。そのまま彼らと留まっていても良かったのだが、写真や動画を撮る都合上、周っていくのが非常に遅いだろうと考えより先に進もうと彼らが通ったであろう道を追いかける。幸い、知った顔ではないが人が幾人か前を歩いている。彼らについていくことにした。
そのうち鍾乳石の隙間から聞き覚えのある声が聞こえてきたため交信をとってみると、やはりドクロ仮面や龍角散。少なくとも迷子に放っていないだろうと判断して後を追うのだが、困ったことに続いているのはひたすら上へと上がる階段のみ。どこにも皆の姿は見えず一人途方に暮れていたころ、前の人たちのずっと前にシャコシャコらしき人影を発見した。よし。皆に追いついたと思ったのだが、不思議なことにあれほどうるさかった皆の声は全く聞こえない。
不審に思っていると前の方から不意に「どうしたの?迷子になっちゃった?」などという声が聞こえてくる。まさかと思い声をかけて前の人たちを抜かして先へ急ぐと、シャコが見知らぬ初老の男性女性に声を掛けられていた。
慌ててその会話に割り込んだのだが、どうやら出口を教えてくれていたようで特に心配するようなことは起こっていなかった。安心したためかお礼を言うのを忘れたと気が付いたのは洞窟の出口に近づいてから。自分の失態に顔をしかめながら出てみると、既に集合していた皆が一斉にこっちを見て口々に何か叫びだす。
彼らの視点で見てみると。一緒にいたはずのシャコシャコが不意に疾走し、どれだけ待っても出てこない。そして困ったことに彼らはここで行方不明者が出たという話を聞いてしまっている。はぐれた時刻は定かではないが、おそらく地獄谷のあたりではないだろうか。そして、その都市伝説で行方不明者の死体が出たとかいう場所も、地獄谷の「三途の川」と呼ばれる場所の付近である。
それはそれは心配したことだろう。しかし、こちらにも疑問がある。なんでシャコが最後尾を歩いていたんだ?僕が最後に見たときは真ん中のあたりにいたような気がするのだが……
その後出てきた先ほどの老夫婦にお礼を言うことができた。そして、「イマンモ達が出てくる前に鍾乳洞内でバナナを食べる」という野望が皆とはぐれたことによってきれいさっぱり忘れ去られていたことを思い出して再突入しようと図ったのだが、残念なことに直前でマコ姐らに止められてしまった。バナナは、その後イマンモ達が出てきたときにいじけて食べた。
ちなみに、2日目の話になるが龍角散たちに僕から見た今回の事件概要を説明した時に龍角散・ドクロ仮面・ヨッシーらが新たな意見を提出してきた。曰く「自分たちはそんな老夫婦は見かけていない」とのこと。いや、おかしい。僕は2度も会っているし、何であれば皆も出口付近で会っているだろう。最初は彼らの記憶力を疑い、次に自分の目を、五感を疑ったが周りで聞いていた面子の「え?会ったじゃん。お前ら覚えてないの?」などの声を聴いて安心することができた。あの老夫婦は、ちゃんと実在したのだ。
以下、日原鍾乳洞内の写真いくつか
イマンモ達と合流し、車に戻る。ここでも乗車順についてのトラブルはあったがそれも乗り越え、一番に帰るグループとともに、AYACOさんの運転する車に乗り込んだ。
この日は幸い3月で日の入りも遅い。まだまだ夕暮れ時の兆候を一向に示さない空に感謝しながら裏山に昇り、さっそく火を起こすことにする。どうやらしばらく前に天候が悪化していたようで、そこらの枝は湿っている。ほくちにも使いづらいため倉庫内の木くずや紙切れをヨッシーに燃やしてもらい、何度も何度も火をつけなおしてようやく夕飯が食べられる状態となった。ちなみに、この日の夕飯はバーベキュー。もしも火が起こせていなかったならば囲炉裏や薪ストーブでちまちまと焼くしか道がなかった。
ここで火を起こせたことが良い方向に働いていたのだろう。そのうち第二陣が帰ってくる頃になって一気に暗くなったが、そのころにはすでに夕食が始まっている。もしも火が起こせなかった時の備えにこっそりとイワシ缶(とても旨い)を持ってきていたのだがどうやら使わずに済みそうだ。
豚トロを焼き、またふかし芋にバターとチーズをまぶして食べる。焼くのに時間がかかるのが難点だったが、その分味は折り紙付き。かなり寒くなってきたので早めに屋内へと戻ったが、その間に一人10枚ぐらいは食べているのでないだろうか。
その後、火が下火になるのを確認したマコ姐と龍角散が下りてきてしばし休息。囲炉裏に火をおこし、マシュマロを焼いているメンバーもいる。8時ごろになってきたために寝る準備を始めた。
理由は多々ある。ひとつは、大人組が一斉に酒を飲み始めたのを警戒してのこと。また、皆の目がだんだん爛々としてきたのを見て無性に恐怖を感じてしまったからだ。今ならまだ逃げ出せる、そういう予感があった。だが、結局その目論見は中途半端にも崩れることとなる。
あれは夜深く(街灯も何もないため非常に暗く見える)なったころだったように記憶しているが、あるいはもう少し早かったまたは遅かった時間帯であったかもしれない。メンバーの誰かが不意にUNOをやろうと言い出した。なんとなく怖いと思ったが既に昼間にトラに向かっていいよと言ってしまったために逃れることはできない。
それに、まさかここで仕掛けてくるだろうというようなことは夢にも思わなかった。たかがゲーム、そう思って油断していた節もある。だが、その失策に気が付いた時にはもう遅かった。最初の犠牲者は僕だ。だが、僕だけで済まそうとする皆のその態度、無性に腹が立つ。こうなったならば皆も引きずり込んでやる。そのために多少の無理はするだろうが、毒を食らわば皿までという格言もある。どうせあいつらだって同じ穴の狢だ。覚悟しておけ。
この日、何があったのかは言うことができない。と、いうよりも言いたくないのだ。あんなことを当時の僕がしたというのは笑い話にこそなれ決して褒められるような話ではないから。万が一あれが流出した際に一番被害を被るのは、間違いなく僕だろう。
そんなことはさておいて、いつのまにか9時をとっくに回っている。さすがにそろそろ寝ようと思い、寝袋にくるまっていざ就寝と思ったのだが、ここで予想外の強敵が立ちふさがった。
それは、一応噂には聞いていたものの全くのノーマークだったイマンモのことである。噂だけはずいぶんと前から聞いていた。曰く「大怪獣の唸り声」、曰く「サイタマさんが思わず部屋から逃げ出して廊下で一夜明かした」、曰く「寝ぼけた龍角散に部屋から閉め出され布団に入ることを熱望していたχαοσとカッパくんが回れ右して廊下の椅子に戻った」。まさかそんなことはあるまいと高をくくっていた付けがこんなところで回ってきてしまったのだ。
それはまるで大怪獣のような唸り声。こんな鼾は聞いたことがない。だが、彼らと違うことが一つだけある。僕は、これに耐えることができるのだ。昨年の夏に彼らは一睡もできないといっていたそうだが僕は違う。2時間ほど眠れない時間が続いたものの般若波羅蜜多心経を心の内どころではなく口頭で小声で発声することで安眠へとたどり着くことができたのだ。心の内で般若心経を聞きリラックスできる状態にした後、口頭に変えてイマンモの鼾に被せることで鼾の被害を最小限に抑え睡眠することができたのだ。
翌日眠い目をこすりながらも誇らしかった僕に、無情にも現実が突き付けられた。曰く、夏の旅行の後に手術を受けたからあのころの十分の一ぐらいの威力だよ、と……
なお、この際僕以外で起きているものがいたならばイマンモの鼾、花粉症で呼吸困難を覚えていたレイセンの咳、そして眠りの世界へと自らをいざなおうとする僕の読経が絶えず耳に入ってきてとても不気味な状況であったろうことは容易に想像がつく。もしもそんな人がいたならば申し出てほしい。後できっちりと謝れば、僕の気が済むから。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?