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フリースクール活動日記 2023/09/14-東久留米

 今日の行き先は東久留米。ここには両親が昔住んでいた事があり、僕も生まれてから少しはここに住んでいた事がある。そんなこと、記憶には残っていないが。
 今回も相変わらずこの暑い中を「三笠を見る、三笠を見るんだ」と叫び続ける僕だったが、さすがにそれが通るはずがない。だから龍角散と組んで高尾山へ登ろう、雨天でも良いぞなどと言っていたのだが残念な事にそれは通らず、川遊びをしようという事になり―でも溺れられたりするといけないということで―東久留米の落合川へ向かう事になった。
 当然川に入るのならば着替えは必要。そう思ってウォーターシューズ、靴下などの替えを鞄に入れているといつのまにか時間ぎりぎりに。このままでは遅れてしまうと思い駅に駆け込むも、残念な事に目の前で電車が出てしまった。もう駄目だ、などと思ったものの急いで電車を乗り換えていたのが功を制したのか急いで新秋津ー秋津駅間の乗り換えを済ませてみると、なんと目の前に電車が来ている。ちらっと行き先を見てみると、所沢方面。
 たしかイマンモは、「東久留米は所沢のそば」と言っていた。ならば、この電車であっているはずだ。そう思って電車に駆け込み、さっそく停車駅を見て見るも何処にも「東久留米」とは出ていない。そんなに遠いのか?せいぜい1,2駅だと思っていたが。そんな事を考えていると扉が閉まる。何の気なしにあちこちみていると、ふと「東久留米」という言葉が見えた。慌ててそれを見てみると、既に灰色になっている。つまり、停車済みという事だ。
 それを知って驚き、所沢で電車が止まるのと同時に扉から駆け出る。すぐさま反対方面へ向かうホームを探して階段を駆け上る。すると、見知った後ろ姿があった。けれども、小さい頃スーパーで迷子になり、母だと思って近づくと他人だったという経験があるため声はかけない。しばらく眺めておそらく本人だという事が分かったため声をかけてみると、やはり本人。ヨッシーだ。そのうち電車が来るまでにイマンモとヒナッピーにも合流できたため、置いて行かれる事はないという結論に達して安心した。が、未だわからない。ひょっとすると既に他のメンバーと共にレイセンは出発しているかも知れない。
 そう思っていたのだが、東久留米駅に着いてみると彼らはそこにいた。何故?すでに集合時間は過ぎているはずだ。そう思って時計を見てみると、現在時刻10時23分。はじめ予定していた到着時間だ。予定の電車を逃した時点で「もう駄目だ」と思ったのだが、どうやら秋津での乗り換えの間に結構な時間を取り戻したようで、乗る電車を何度か間違えても当初の予定通りに東久留米に到着する事が出来たのだ。
 さて。到着してからしばらく。10時30分になっても幾人かがやってこない。emmanmoと龍角散だ。彼らが遅れてくるのはほぼいつも―そうでないときだって、もちろんあるが―のことで、皆慣れている。とくにemmanmoは多摩川で化石を取りに行った際、見事に置いて行かれたにもかかわらず、草が生い茂った河原のなか見事僕たちに合流した実績がある事から、一時は置いていってしまおうという案が出て―むろん、出したのは僕だ―一時はそう決まりかけた。
 けれども。多摩川の時と違って、emmanmoはここに来た経験が少ない。おまけに今回はレイセン曰く「ちんちくりん公園」なる場所を経由して行くというのだ。おそらく彼らはとくに龍角散は来た事もない以上僕等と合流する事は不能と行っても良いだろう。
 そんなとき、ふとバッグの中を覗いてみたくなった。なんでかはわからない。けれども見てみると、やはり本が多い。このまま着替えの再チェックを行ったのだが、その話は後で。
 そんなわけで僕の提案した「時間を有効活用する案」は却けられ彼らを待つ事となった。末。ひたすら待つ。まだ来ない。来ない。
 漸く来た龍角散達と共に東口を出て、レイセンの案内でまずはその「ちんちくりん公園」を目指す。第2小学校前を通り、ひたすら歩き、遂には踏切を越えて……?なぜ、そうする。踏切の反対側だというのならば西口が近いのではないか。
 よくわからない。しかもそこを越えるに従ってだんだんと道に迷い始める。そのため先行して探していたのだが、ふと気がつけばあたりにイマンモ達がいない。おかしい。ちんちくりんの字は何処にも見えていない。何処へ行った。あちこち探し回っていたとき、ふと目の前に「竹林公園」の文字が。
 これか?「ちんちくりん公園」の正体は。耳を澄ましてみると、龍角散の声が風に乗って聞こえてくる。その声を聞きながら進むと三叉路に出た。竹林のせいで道の向こうを覗く事は出来ない。おそらく右だ。そう思って進んでいると、彼の声が聞こえなくなってきた。
 まずい。こちらではなかったのだ。慌てて戻ろうとしたのだが、ふと思いとどまり、踵を返して再び前方へと歩き始めた。公園というものは基本的にぐるりと環状に道が繋がっているものだ。そもそもの主体は道ではない事からこうなるわけだが、道が繋がっているということはどちらに進もうが何れは彼らのところへたどり着けるというわけだ。

「ちんちくりん公園」

 だから、前に進んでいく。竹の隙間から見る限りでは道はずっと続いて反対側まであるように見える。だから大丈夫だ。トコロガ。思ったよりも道は長い。歩けども歩けども終わりがない。そのくせようやっとたどり着いた出口には、皆がいなかった。
 そこからさらに歩いて歩いて漸く皆と合流できたのだが、そこで息を休める暇もなくすぐに出発。「筍採るな」と書かれている看板を横目に見ながら。そのくせあちこち掘り返されている公園を歩いて落合川を目指す。
 暑い。けれどもこの猛暑の中龍角散達はとても元気だ。彼らはこの後川に飛び込んで潜水して……などとするつもりらしい。けれども僕は知っているため、彼らに対して憐憫の情が湧いた。落合川はそんなに深くないのに。   はたして。川めがけて走っていた彼らはその目的の「落合川」を一目見るなり膝から崩れ落ちた。

暑さに喘ぐ

 「なんだ、これ?」彼らの第一声はそれだ。多摩川ほどの深さと広さ―そんなことがあるはずもない―を求めてきた彼らにとってはここなど川とすら思えないのだろう。
 けれども。その「川未満」の川へと入った途端皆が生き生きとしてくる。やはりどんなところであっても川は良い。8月の27日、奥多摩でも龍角散らは地形が変わってしまっているというのに片手にいなり寿司を持ち、どうやったのかクロール泳法もどきで対岸まで泳いでいった。彼はその2日前。蓼科へフリースクールで旅行したとき―ぼくはちょうどこの「8月25日」には奥多摩合宿していたため行けなかったが―にうっかり客室からΧαοσらを閉め出してしまうほど疲れていたにもかかわらず、だ。
 そんなわけで急に元気を取り戻した龍角散は、カッパくんと肩を並べて川を上流へと遡っていく。これはレイセンが言い出した事なのだが、僕も彼らに共感し、後を追った。
 といっても。龍角散、カッパくんらはいい。なにも気にする事なく川の中を走って行けるからだ。僕は駄目だ。つい先ほど「着替えのチェックをした」と僕は書いた。
 その時、決定的なミスを確認したのだ。ウォーターシューズは入っている。靴下の替えもある。ズボン、Tシャツともに一つずつ入れてある。
 それだけだ。どこを捜しても、パンツが見当たらない。つまり、パンツが濡れてしまっても着替えがないという事だ。ズボンやTシャツならば良い。今回のために乾きやすいものを着てきている。だが……パンツは駄目だ。
 そんなことを再確認したが、それでも川には入りたい。そこで思い返したのが多摩川に化石採集に行った時の事。あのときは腿まで水につかりながらもそのまま電車に乗って帰る事が出来た。つまり、パンツを濡らさなければ問題がないという事だ。
 そう思って僕は龍角散らと一緒に川へと入った。しかし。川は浅いとは言っても脛は常に水の中。深いところでは膝までつかる事もある。そんなところで走っては、水飛沫が上がってたちまち全身濡れ鼠と化すのは至極当然の事である。
 だから彼らの巻き添えを食らわないように少し離れて。走って行く彼らを目で追いながら一歩、一歩着実に後を追っていると一気に開けた場所に出た。
 これは家に帰って父に聞いたことだが、この場所は長年子ども達の遊び場として存在していたらしい。少なくとも10数年間ずっと。毘沙門橋の下から先は川に入る事すら出来ないのだが、その直前の場所はため池のようになっており、僕や龍角散でも泳ぐ事が出来るほどの深さがある。そこに僕たちは昼食頃まで居着いた。
 けれど、はじめの頃僕はあまりそこには居たくなかった。いつ河童と化した龍角散や‘カッパ’くんに水の中に引きずり込まれるかわからないからだ。しかし。10分ほど経った頃にその悩みは解決した。
 すでにズボンもパンツもびっしょりと濡れてしまっている事が明らかになったからだ。それならばもう、いくら水に濡れても問題がない。むしろそうしなければなんで濡らしたのかわからない。泳ぐ事も出来ずただ濡れただけで1日を終わって帰るというのは、嫌だ。
 そう判断した刹那、大きく水しぶきが上がった。龍角散やカッパくんが飛び込んだのだ。僕も、こうしては居られない。そう思って彼らの後を追ったのだが、踏み込みが浅かったのか腰を打ってしまい、そのままずるずると滑り落ちて左肩を強打した。

無理な体勢から飛び込む事で体を水面に叩き付けた龍角散
右方にて乾かされている赤い服は、後述するように空中でキャッチするために用いた衣服
誰のものかは知らない

 けれども。さすがに何回か飛べば慣れてくる。そのうちに跳びながら龍角散の投げた衣服を空中で捕る事が出来るようになった。もっとも、それを捕ってしまった後は体勢を立て直す事が出来ずに水面に叩き付けられるというオチが待っているが。
 まずい。このままでは正面から激突する。そう思って体を勢いよく左側に傾けた。右側に傾けなかったのは龍角散に当たってしまう可能性を考えたからであるが、何とも予想外な事に目の前に居るΧαοσも同じく左に体が傾いでいる。
 そのせいで僕の伸ばした右腕は空を切り……そのまま左から水面へ。それも、浅くコンクリートが水面近くに見える最悪の場所へと体が傾いている。あわててそれを止めようと伸ばした左腕を1番下にして、僕は水面に叩き付けられた。それとほぼ同時におなじような音が3つ。
 水面に落下するときに見たかぎりでは、無事龍角散とカッパくんは右手を伸ばし、衝突進路をとっていた。その後なにかが破裂するような音があり、その後彼らも僕と同じように水面へと墜落した。
 さて。今回「ため池の両側から同時にジャンプ、空中で右手と右手を叩き合わせる競技」は第2回目。一回目は僕の前にいたΧαοσがとばず、本来であれば僕とΧαοσ、龍角散とカッパくんが個々に相手とタッチするはずだったのが、Χαοσが跳ばなかった事によって僕と龍角散、カッパくんによる三つ巴の形となって空中にて危うく衝突しかけたのだ。
 そうして迎えた2回目。正面衝突に対する不安から、僕とΧαοσは共に衝突進路を回避してしまい、左半身を下にして水面に叩き付けられた。その際に左手を軽く切ってしまった―おそらくコンクリート製の角で切ったのだろう―のだが、そんなことはまだ序の口。
 龍角散。彼はまたもや深刻な事態に陥っていた。僕とΧαοσが衝突進路を懸命に回避しようとしていたとき。同じ頃、カッパくんと龍角散は無事衝突進路をとっていた。
 このまま行けば無事に両者共に手と手を叩き合わせ、問題なく着水するだろう。けれども。最近怪我ばかりする龍角散。彼の行動の結果がこんなことですむはずがない。
 事実、ほぼ同時に彼らは反撃の準備を調えた。どちらからともなく右肘を突き出し、‘攻撃を受け流し、相手に一撃を加えるために’そのまま衝突進路を維持したのだ。どうなったかは言わずともわかるだろう。
 その結果、彼らは正面から衝突し、水面に激突したと思われるのだが、同じ頃僕は左半身を下に水面へ墜落していたので実際のところどうなっていたのかを知る術はない。
 だが、唯一確実な事は彼らの攻防戦ではカッパくんが勝利したという事である。僕が右手に軽傷(切り傷ではあるもののそこまで規模は大きくなく血もそこまで出ていない)を負ったとき、彼も迎撃のため突きだした右肘に裂傷を負ったのだ。
 意外にも深く切れた肘だったが、その直後に水面へと落下したために血は全て流れ去り、またその際に加わった力によってその後彼の腕が血を流す事はなかった。
 けれども。彼らはそんなアクシデントでめげたりはしない。その後龍角散は昼食のため水分補給のため何度も何度も根拠地に戻ったが、その際に着替えを忘れて(?)当初の僕のようにそこまで深く水に入ろうとしないemmanmoを追い回していたことからもそれは明らかである。

根拠地たる落合川下流の木陰
のどかに見える光景だが、この少し後emmanmoと頑なに彼女を追い回す龍角散によって
このなごやかな光景はかき乱されることとなる。

 そして。あまりに暑いので昼食すらも川に浸かりながら食べた僕は、決断を迫られていた。再び上流のため池の場所へと舞い戻るか、このまま下流にて木陰で涼むかを。下流では弁当を食べているときですら突如現れ襲い来る、怪人・龍角散の猛威!に悩まされたものだが、上流は上流でいつ誰に背中を押されてため池に突き落とされるかわかったもんじゃない不安もある。
 しばしの間悩んだ僕は結局、下流に居着くことにした。だが、陽向にいては暑いだけだし、出来れば川の中にいたいことだがこの浅いところではなにも出来ない。
 その後Χαοσとヨッシーと石を積み上げて川の真ん中に土台―その他にもあちこち水面下に石の壁を作っている。何とも迷惑なことである―を造り上げたりもしたのだが、やはり何ともしっくりこない。

 結局、上流へと向かうことになった。けれども、川の中で鬼ごっこをやった挙げ句Girlsから一方的に攻撃を受け―しかも、龍角散の巻き添えを食らっただけで、僕はなにもしていない!―挙げ句の果てに避難した高所にて足を攣ってしまい降りるに降りられなくなって、(しかも僕の隣に龍角散がいたために、彼の余波を喰らって)集中砲火を浴びることとなった。先ほどの虫の知らせは見事当たっていたというわけだ。
 結局、僕のパンツは乾かなかった。Girlsや龍角散に先立って帰ってきたときにようやっと思いだし、ぬいで陽の下に広げ、皺を伸ばして乾かしていたのだが結局乾くことはなかった。僕がこんなことをしていた理由は偏にパンツをはいて帰りたかったからに他ならない。たまたま持ってきていたタオル二枚を腰に巻いて急造褌としたが、かなり短いものであるためにすぐに分解してしまう。
 せめて電車の中でだけでもと思い、皆が集ってきて着替え、そうして帰るために東久留米駅まで向かう間ずっと落日の下に晒し続けていたわけだが、それでもパンツは乾かなかった。また急造褌もいつ崩壊するかどうか知れたものでなくなったため、結局僕の帰りはノーパンだ。
 電車に乗るときも極度に神経質となり、ちょっとした動きにさえも反応して終始ビクビクしていたが、幸いぼろを出すことなく無事帰宅することが出来た。
 そのまま風呂に入り、パンツをはいたときにこれまでにないような安心感がおしよせてきて、椅子に深く沈み込んだ。なお、何故か知らないが龍角散もこの日の帰りに「ノーパン」だったという噂が広まっている。けれどもこれに関して言えばいつも必ず流れている流言飛語の類いと思って接しなければならないだろう。

‘今日持っていった本’
栗本薫「グイン・サーガ54 紅玉宮の惨劇」
 〃 「グイン・サーガ55 ゴーラの一番長い日」
 〃 「グイン・サーガ56 野望の序曲」
 〃 「グイン・サーガ57 ヤーンの星の下に」
吉村昭「桜田門外ノ変 上巻」
谷崎潤一郎「春琴抄」

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