解剖記録 ラット-2023/08/03
僕は奥多摩合宿を早退した。その理由は、解剖。ラットの解剖をするためだ。僕は昨年の冬、白鼻芯の解剖実習を行った。そうして思った以上に楽しかったため、次回も参加することを決めたのだ。
今年に入って2つの選択肢があった。3月の話である。伊豆大島へと行くか、それとも深海魚を解剖するか。結果的に僕は伊豆大島へと向かうことを選んだわけだが、そこでは僕が男子の中で最年長だった。そして前からわかっていたことだが、深海魚の解剖は冬の解剖実習に参加している皆が大絶賛をしているのだ。
間違えた。そちらにすれば良かったと思うも後の祭り。こちらも楽しかったと思っても、そこは隣の芝が青く見える。伊豆大島から帰ったとき、僕は解剖がしたくて溜まらない少し危ない中学生になっていた。
そんな中、6月に入って「ラットの解剖実習をする」との通知が来た。僕は驚喜した。必ずやこれには参加しなければならない。ようやく巡ってきた機会なのだから。
そうしていよいよその日を迎えた。前日に戻ってきてから睡眠時間を極力確保した僕は、その日既に睡眠不足を解消。万全な状態を整えて実習に挑んだ。
そうしていざ教室に入ってみて驚いた。人がいない。その後開始までに全員が揃ったが、それでも4人。たった4人。冬の解剖実習での30人とは雲泥の差がある。しかしそれは実習がやりやすくなったのだと良い方に解釈して、実習を受けた。
最初の講義はすぐに終わり、解剖に時間の多くを割くこととなった。所要時間は3時間。しかしラットが小さいこともあって、皮膚を切り開いたときには予定の数倍の時間が過ぎていた。
今回解剖したラットはアルビノで体長20cmほど。尾を含めるとその2倍にも及ぶ。最初は解剖ばさみも使いやすく上手く腹部の皮を切り開く事ができたものの、次第に血にまみれたはさみに毛が付着して切れ味がおちてくる。その度に拭って切り直すのだが、1度そうなってしまうと再度切れ味が鈍るまでにかかる時間はそうかからない。
それでもなんとか全員が皮を切り開くまでにそう時間はかからなかった。僕が担当したラットは雌。誰かが担当した雌には赤子を抱えていたものがあると人づてに聞いたが、その真偽は定かではない。
肋骨を切り開いて内臓を摘除する。心臓肺臓は比較的簡単に取り出すことができたものの、胃や腸の段階になると途端に厳しくなる。内臓脂肪が一面にこびりついて取り出すことができないのだ。
それを考えると、冬の解剖は楽だった。対象がでかいために解剖も易しく、冬であり直前まで冷凍されていたために内臓脂肪は固まって一気に切除することができた。
それに比べてどうだ。なにも良い場所がない。加えて夏であるために血の臭いがむっと辺りに立ちこめている。そんな状態で解剖が順調に進むはずがない。もしそうなったならば、すわ狐狸妖怪の仕業か、と勘ぐってしまうだろう。
予定時間を40分も超え、それでいてなお解剖を終わらせた者は誰もいない。ついに皆諦めた。これは終わらない。皆が口を揃えて言う。結局今回腹部の内臓の摘除は実現されなかった。だが、これによって動物の解剖法はある程度は身についたと考えられるため、この冬の解剖実習を楽しみにしている。白鼻芯は前回解剖したため、来るのは狐か狸か。過去あったという兎は興味があるが、はたしてそんなとんとん拍子に話が進むだろうか。
僕としては、できれば狐を解剖―狸は内臓脂肪が多く面倒くさいと、向こうで知り合った中学生が解剖後にぼやいていたため―してみたい。