フリースクール活動日記 2024/12/13-町田
今月初めに、投票があった。その内容は、五つの選択肢を提示して多数決によって行き先を決めるものであった。第一週の行き先は狭山湖、そして第二週の行き先は町田リス園と、半ば押し切られるようにして投票は終了した。正直言って、私は町田リス園へ行くことに対しては消極的反対の姿勢を崩さなかった。昨年度、そして一昨年度の苦い経験が、私の胸の奥底に巣食っているのである。
私がこのフリースクールへ来たのは二年ほど前のことであるから、入ってすぐのころのことであろう。その日は既に町田リス園へと向かうことが決定していた。私たちのような新入生組は、リスとの触れ合いを求めていたのだが、不思議なことにある程度のベテランたちはむしろリスを忌避するような動きを見せた。
町田リス園のリスは、おそろしい。この考えが定着したのはいったいいつのことであるのだろうか。おそらくこのフリースクールが始まって以来、代々脈々と受け継がれてきたものであるのだろう。
リス「と」カットなどと呼ばれる被害を被った経験のあるカッパくんは、結局この日やって来ることはなかった。原因は風邪だというが、リスに味わわされた苦い経験を思い返してしまったことをきっかけに、風邪をひいてしまったのではないだろうか。間接的であろうと、被害者意識を持つものには容赦しない。さすがは、町田リス園のリスだ。
この日、町田駅での集合時間は10時30分。10時45分のバスに乗るため、少しだけ余裕を見積もった時間が集合時間に設定されていた。バスは20分に一本程度であるため、当然この時間に集合しなければ置いていかれてしまう。とはいえ、「絶対に遅刻するな」ということは出来ない。電車の遅延や乗り換えの失敗などで遅刻するメンバーが多いためである。現にこの日も、南武線が遅延していた。そしてそれとは何の関係もないのだが、遅刻の危機にさらされているメンバーもまた、幾人かいたのである。
そのうち一人は、最寄り駅でのメンバーたちとの集合に失敗したメンバー。そしてもう一人、最後の一人はこの私であった。乗り換えに失敗してしまったために新百合ヶ丘駅に着いたのが10時33分。集合時間は既に過ぎており、皆から置いて行かれていることは周知の事実となっていた。皆はきっと、私がバスに乗ることは出来ないと思っている。しかしながら、新百合ヶ丘で快速急行に乗りかえれば、10時40分ごろには町田駅に着くはずなのである。バス停の位置は確かめずとも知っている。私の勘が間違っていなければ、発車時刻までにバス停に到着することは決して不可能ではない。
その決意を胸に秘めて、私は町田駅を走り抜けた。幸い、道に人は少ない。ひたすらに走って行けば、前方にバスらしきものの影を認めた。人がバス停に並んでいるのだから、発車していないことは確かである。幸いにもそのバスは目的としていたものであり、私は皆と合流することに成功したのだ。
その一方で、不運なことにも合流に失敗した者がいる。彼はイマンモ達と共に、10時30分には町田駅に到着していた。そして、バス停へと移動する。普通ならば、遅刻することはありえないような状況だ。しかし、彼は道半ばにして謎の失踪を遂げる。不審に思って振り返ったメンバーたちが見たものは、土産物屋に吸い込まれて行くその姿。声を掛けどもその足は止まらず、その姿勢は微動だにせず、ただただ前に進んで行く。彼が小学生であれば、年少メンバーだと認識されていれば、対応は変わったかもしれない。しかしながら、彼は年長メンバーの一員なのである。よって皆は無常な判断を下した。いくら呼ぼうとも彼はこちらにやって来ない。そして、もう少しでバスは発車してしまう。彼を呼びに行く時間はないのである。皆は泣く泣く、彼を置き去りにした。そのうえでバスから連絡を取ろうとするも、うまくいかない。結局彼が置き去りにされたことに気が付いたのは、既にバスが発車した後であったという。
そして11時を少し回ったころに、バスに乗ることのできたメンバー達は、無事に町田リス園の門をくぐった。今回参加のメンバーの半分以上は、「リスとカット」の恐怖を知らない。故に彼らは、意気揚々と園内に進んだ。リスの猛攻など気にも留めないと、そう言い残してのことであった。
皆は入園するなり三々五々、思い思いの方向へと散っていく。モルモットやウサギに餌をやるメンバー、哺乳類など見向きもせずに亀などの両生類を観察するメンバー、そしてすぐさまリスとの触れ合いに動くメンバーなど。残念なことに一昨年とはだいぶん毛色が違っている。あの頃にいたウサギやモルモットは、もうほとんどいないように思える。その一例をあげるならば、一昨年度我々から人気を博していたモルモット「シャンクス」は、体調を崩してしまっているとのこと。非常に残念なことである。
しばらく時間を過ごした後、この園の目玉である放飼場へと皆で向かうことになった。新しく入ってきたメンバーは嬉しそうに、対して古参のメンバーは顔を強張らせて、進んで行く。今年は誰が犠牲者となるのか怯えながらである。
よって、この度のリスの大人しさには皆瞠目した。昨年度は餌を求めて飛びかかってきたリスが、今年はそこまで凶暴ではないのだ。昨年度・一昨年度共に行ったのは一月・二月のことであるから、未だ十二月中旬のこの日は暖かく、餌をそこまで必要としていないのであろうか。
そういうわけで、幸いにも我々は久しぶりにリスとの触れ合いを満喫することができた。手袋に種を載せて差し出しても、何匹も一斉に飛びかかってくることはない。近くにいた一匹が飛びついてきて、餌を食べるだけ。それもすぐに食べつくしてしまうのではなく、場合によっては掌の上で食べてくれることもある。
そんな「可愛い」リスたちとの触れ合いも終えて、昼食を摂るために薬師池公園へと移動する。この土地は都心よりも気温が高いのか、未だに美しい紅葉を見ることができる。水車小屋などと相まってとても美しく見ることができる。そんな場所で昼食をとり、食後にはいつものように散歩をしたり、「缶蹴り」をしたりして遊ぶ。
このようにして時間は流れていき、ついに解散の時間となった。問題は、ここで起きた。
とあるメンバーが体調を崩したため、スタッフであるレイセンが彼女を抱いてバス停まで行くことになった。その彼女の荷物をemmanmoが、レイセンの荷物を同じくスタッフであるUTAさんが持ち、歩いていく。当然レイセンを中核とするメンバーたちの歩みは遅く、前を行く元気いっぱいの年少メンバー達との差がどんどんと開いていった。もしもこの状況で隊列が完全に寸断されてしまえば、前を行くグループは子供たちだけで孤立するであろう。そういったことがあってはならないと、慌ててUTAさんが彼らを追いかけていく。もちろん、レイセンの荷物を持ったままだ。
そして、何を思ったのであろうか。年少メンバーたちは、到着したバスに乗り込んでいってしまった。そして、彼らとはぐれないために、UTAさんも急いでバスに乗り込んだ。レイセンの荷物を、持ったままに。バスが、発車した。あとに残されたのは、荷物を持っていかれてしまったレイセンと、自余のメンバー達である。団体行動以外を悪く言うつもりは毛頭ないが、団体行動をとることができなければこういった事例を引き起こすのであるということを、我々は身をもって知ったのであった。