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焦がす【ショートストーリー】

 最後の運動会。午前の競技が終了した。お昼の時間だ。同級生たちはみんなグラウンドで、家族と一緒に食事をしている。わたしは一人教室に戻り、弁当箱の蓋を開けた。

 運動会が大嫌いだ。元々あまり運動は得意じゃないし、自我みたいなものが芽生えてからは、母のいない自分の家庭を同級生たちに見られるのが恥ずかしかった。普段の食事はお惣菜が多かったけれど、行事の度に父の作る弁当は、運動会のように豪華で食べきれないほど持たせてくれた。わたしはいつもそれが自慢だった。甘い卵焼きは少し焦げていて、他所のお母さんが作るものより不格好だった。いつか遠足の時に、それをからかわれてから、父の弁当が嫌いになった。


「お父さんのせいで、笑われたんだよ。もうあんな弁当作らないで。運動会にも来ないで」 

 それでも父は弁当を用意してくれた。一人で食べる弁当は何だか味気なかった。 

「お母さんがいないから、あの子は不憫だって言われたくないんだよ」

 それが口癖だった。何か悪い事をしたら必ず『あの子のうちは父子家庭だから』と言われるから、気をつけるように言い聞かされていた。わたしもそれだけは言われたくなかった。だからずっと、ずっとずっと良い子でいた。大人になってもずっと。いつの間にか、弱音も吐けない負けず嫌いになっていた。それは父譲りだったのかもしれない。


 わたしが作る卵焼きは見た目を気にして、綺麗な黄色を装っている。ただどんなに作っても、父の味にはならない。少し焦げて格好の悪い父の作った卵焼きを無性に食べたくなる時がある。もう少し父に優しくすれば良かった。今はもう叶わないことだけど。


文披31題Day29「焦がす」

ああ、本当は胸を焦がすほどの恋愛小説を書きたかった…。
恋愛してないからなぁ。
このお話は実話ベースです。

父は、食べきれないほどのお弁当をいつも持たせてくれました。
わたしは道東の帯広出身です。父の卵焼きは、砂糖が入っていて甘めです。わたしが作るのもそうです。北海道は、甘い卵焼きが多いような気がします。元夫の実家もそうでした。
赤飯も甘納豆で作るし、子供の頃は納豆に砂糖が入っていました。フレンチドッグ?アメリカンドッグ?にもケチャップじゃなくて、砂糖をまぶして食べていたので、札幌に来てみんながケチャップとマスタードを付けているのを見て、びっくりしました。

なんて、そんな話もいつか書けたら…。

いつもお読みいただきありがとうございます。



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