第百八夜 『バイオハザード』
「今年は例のアレは仕込み始めましたか。」
私は意図せずジムで遭遇した彼に、今年1番の懸念を投げかける。
「まだです。」
彼は今の今まで忘れていたかのように答える。
私と彼の仕事を遂行する上で、高水準のパフォーマンスを維持するためには、宿敵との戦いを繰り広げなくてはならないのである。
この程、彼はトライアスロンにおける新たな目標を掲げて、肉体改造をしている。
その肉体改造に余念なく。そう余念をなくしすぎて、きたる敵がそこまで近づいていることに気が付かなかったのである。
奴らは前触れもなく飛来し、我々の自由とパフォーマンスを奪っていく。
我々のパフォーマンスが落ちるということは、会社のパフォーマンスが落ちるということである。
これは非常にまずい。
「すぐに対策を打たないとですね。」
翌朝、彼は「カッコイイ男を演じるのはもう辞めだ」を実行している報告を我々に入れる。
略すと朝活というらしいが、略すという言葉の根本を覆している気がして違和感が強い。そういうマーケティングなのであろう。
閑話休題
私は彼にカウンターのように写真を送る。
「敵を迎える準備をしております。アレを仕入れてきます。」
「良いですね。」
「あなたもしっかり準備してください。」
「もちろんです。花粉と暑さは私のパフォーマンスを下げる要因なので、早急に対応します。」
私と彼の毎年恒例の戦いはこうして粛々と始まったのである。
物語の続きはまた次の夜に… 良い夢を。