胡桃辺縁系海馬体
くるみはヒトの脳に似ている。
言われてみれば全くその通りなのだが、頭をかち割るところから想像するのはやめておこうと思う。
そこから関連してか、くるみの花言葉は知性、優れた能力。
古代ではくるみを食べると頭がよくなると信じられていたそうだ。
そして実際に科学的検証も近年されているという。
特別かしこくなりたいというわけではないが、単純にくるみが好きだ。
パンでもお菓子でも雑貨でも、何でもくるみとついていると自然とときめいてしまう。
でもたしかにこれが健康に悪い食べ物だったら好きにはならないと思うので、やはり栄養というのは大事だ。
コープにいつも、くるみチーズというパンが売っているのだが、おいしすぎたので食べるのは半年に一回にしようと思う。
中学生まで体操教室に通っていたのだが、そこの先生が休憩時間にくるみを時々くれた。大きなジップのついた袋から一掴みずつ配ってくれる。
塩分チャージのときもあったが、くるみの特別感に勝るものはない。
ひとつ印象に残っている出来事がある。
その日もいつものようにくるみが教室でふるまわれた。
想像に容易いと思うが、くるみというものは歯にくっつきやすい。
挟まるわけではないものの、ちりぢりになった胡桃屑が奥歯から離れたがらない。
それでもポテチやフランスパンに比べれば害はないので私はそのまま休憩時間を終えようとしていた。
ところが友人はやはり気になるらしく、こう言った。
「誰か歯ブラシを貸してほしい」と。
私自身、潔癖とはかけ離れた人間だし、こういうことは気にしない方だったが、それでも周りはみんな気にするのだろうと生きてきたので、この発言には驚いた。歓喜したといってもよい。
彼女は一つ上でいつもしっかりしているお姉さん的存在だったので尚更だった。
彼女のような人でも窮地に陥れば人の歯ブラシを使うのだと、勝手なところで私は勇気をもらったのだ。なんのかは知らないが。
こんなこと覚えていてほしくないだろうし、大した出来事でもない気はするのだが、やっぱり死ぬまで覚えているんじゃないかと思う。
私が潔癖でない理由は、忘れることができるからだと思う。
留学先で夕食に大量のグリンピースが出てきたときも、3粒ほど床に落としてしまい皿の隅によけておいたのだが、いざ食器を片付けようとすると、なんとびっくり皿の上の豆は一粒残らず平らげられていた。
3秒ルールよりもむしろ3分ルールである。
人間の長所が忘却力とはよく言ったものだ。