【は】働き方改革

#あいうえおコラム

先日、うちの会社で震え上がるようなショッキングで、センセーショナルな事件が起きた。

事の発端は、4月からわたしが面倒見ていた後輩（20代半ば）が「会社を辞めたい」と言い出したことからだった。
彼女は1年ほど前にうちの会社に中途で入って以来ずっと別の部署でデザイナーをやっていた。しかし、他のメンバーとうまくいかず休みがちになっていたので、では雨飴に任せよう！となって、4月1日に突然わたしの横の席にやってきた。
突然、と言っても実は入社半年くらいから仲が良く、彼女にとってわたしは辛いときに話を聞いてくれるお姉さん的存在だった。メンヘラフィルターを通すと鬼に変換されてしまうらしい部署の人たちに囲まれて暮らしている彼女をなんとか持ちこたえさせるためにも、全面的に肯定するようにしていたから、きっとわたしはとても優しい先輩だと思われていただろう。
とはいえ、わたしだって自分の部下となったら話は変わる。わたしはOJT的なアレとして彼女の責任を取らないといけないから、ここぞという日に遅刻をすれば注意したし、人前で不機嫌丸出しにするのは良くないと説いたり、もちろん仕事のアドバイスもした。自分を育てるためのビジョンがないと嘆いていたから親身になって将来像を考えたり、1人でこなしていた仕事を2人で分けたことにより仕事が足りなくなったので、頑張って慣れない企画営業的なこともした。
しかし、わたしの愛情はこれっぽっちも伝わっていなかった。
GWが明けてしばらくしてから「前の部署の人たちが陰口を叩く。それに耐えられるメンタルがないから辞めたい」と。わたしは心の中で、みんな君のことなんて眼中にないぜ……とか結構冷酷なことを思いながら、優しい言葉でオブラートに包み諭した。まだ、1ヶ月じゃん！これから変わるよ、と。
しかし結果として、彼女は社長に直談判の末、その日のうちに会社を辞めた。
これまでのあれこれはすべて嘘でしたと告げ、最低限の荷物だけをまとめ、定時より1時間以上前にバッチリメイクをして、みんなに挨拶もせずに（実際には社長が止めて挨拶したけど）、各所に地雷を仕込んで去っていった。わたしは外出でその現場は見ていなかったけれど、これには結構がっかりした。

しかし、事件はその翌日に起こった。
社長が開いてくれた慰め会で、前部署の旧OJTも含めて深夜2時半まで飲み明かした翌朝、10時くらいだったろうか、LINEの通知が上がった。それは彼女がタイムラインに投稿したという知らせだった。小さな会社でみんなLINEはつながっているから、今までありがとう、的な文章かなと予想しながら開くと、そこに書かれていたのは聞いたこともないような汚い言葉だった。
上司に言われていた通り、結局わたしは火のついた爆弾を大切に毛布に包んで抱いていたのだと悟った。

この1ヶ月半でわたしは、人によって働くことに対しての想いって全然違うんだなぁと思い知らされた。
もちろん、わかっちゃいた。優秀な人とそうでない人がいるように、やる気がある人もいれば、ない人もいる。それがどんな風に表に出るかの差だって、人によってだいぶ違う。
けれど、わたしにとってはオフホワイトくらいで平和に働いている大好きな会社は、彼女にとってはブラック企業だったのだろう。わたしはその後すぐに削除されたタイムラインのスクショを眺めながら、きっと彼女はうちの会社のことを飲み会かなんかで最低な会社だったと詰るだろうと思った。もともと社内ですら嘘ばかり言っていた彼女のことだから、枷のない外ではもう言いたい放題だ。

と、そんな事件をみんながランチや飲み会で話し尽くして、もう彼女の名前さえ話題に上がらなくなった6月29日、働き方改革関連法案が可決されたというニュースが入ってきた。高度プロフェッショナル制度にデザイナーが入らないことだけを祈りながら眺めていたこの審議。可決かぁ、うん、まぁ、うん。

「働く」って世代によって全然違う考えを持っていると思う。
うちの会社の社員だけじゃなくて、これまで働いた3社の人たちも、関わっている他社の人の愚痴を聞いていても、働き方が問題になってから就職した20代と団塊の世代やバブル世代に育てられた40代では標準値がものすごく違うなと思う。距離にして1000万キロくらいの乖離がある。

例えば、土日に仕事のメールを見るか問題がすごくわかりやすい。
20代は、休みの日になんで仕事をしないといけないんですか？　見ろと強制するのはパワハラですよ？　くらいのスタンスで来る。
一方40代は、土日に何かあったらすぐに対処しなくちゃいけないんだから、見るのは当たり前。無責任な仕事をするな、というスタンス。
30代のわたしはそのどちらにも共感できるし、どちらもそれって過剰じゃね？　とも思って、基準がぶれっぶれになった。

何が正しい「働き方」なのか。それがわからない。
日本人は働きすぎと言われて久しいし、実際に仕事のせいで過労死したり、自殺する人もいる。だから40代の昔はこうだったあぁだったシリーズは、もうそろそろ自宅のタンスにでも仕舞っておいて欲しいし、プライベートや健康だって大切にして欲しい。
その反面、20代が言う「プライベートを大切にする」という名目で、残業よりもデートを優先する働き方は、あまりにも浅はかだと思う。自分の担当している仕事をしっかり全うするのは最低限のマナーだと思うし、それを結果的に先輩が尻拭いするのなら、人に迷惑をかけてまで大切にするプライベートっていったい何？　と思ってしまう。

それぞれがそれぞれを「あいつらおかしい」と言っているように、板挟みの30代もやっぱり「あいつらおかしい」と思っては、いる。世代格差はきっとずっと埋められない。
ベストな働き方は人それぞれ、暮らしの形によって違うとは思うけれど、政府が目指す働き方改革を終えた日本は、いったいどんな風に働いているのかな。

とにかく、体に出るちょっとした不調が全部「原因：ストレス」である現状だけは、なんとか変わってくれたらいいな、と謎の呼吸浅い病を患いながら切に願う。