アニメ『冴えない彼女の育てかた』感想

前に友達に教えてもらったアニメの一つ。
1期と2期を両方観た。映画は未見だけどとりあえずアニメの感想を。


同人ゲームサークルが舞台で、仲間たちと一緒に作品完成を目指す青春?物語。
部活動で大会優勝を目指す物語と似た種類の感覚があると思う。ただ、創作に溢れた日常が描かれるというだけで俺には入り込む余地しかなかった。
面白いゲームに必要な要素の話とか、クリエイターあるあるな苦労話とか、現実的な面も描かれてるのが好きだし、勉強になる。
才能あるクリエイターに対する嫉妬心や劣等感なども描かれててリアルだった。
1期は主にサークルという居場所の大切さやキャラクターの可愛らしさが描かれてて、2期は人間ドラマが濃密だった。俺的には2期のが好き。
それぞれが創作の志を持って進んでいく、とても勇気をもらう素敵な物語でした。
自分もこんな風に情熱を燃やしてモノを作れたらなあ、なんて思えて、観るだけでモチベーションになるところがあった。



以下、詳細な感想。ネタバレあり。


・セリフ回しに癖を感じた。ラノベ原作ならではかわからないけど、突っ込みどころを客観的に解説してくる感じ、ちょっとおもろい。
胸や脚のアップが多いのは、そういうのが好きな人向けだろうと割り切ってはいたけど、それでもちょっと個人的にはくどいなと感じた。これ観てるのを家族に見られたくないな、と背後を気にしてしまった。

・倫也、どんなにボロクソ言われても諦めないで情熱を燃やすところが素敵。予算確保のためにバイトも頑張ったりしてかっこいい。
それでいて〆切が迫っててもだらだら過ごしちゃうところには共感する。

・加藤さんが好き。ミディアムショートだし。萌えキャラっぽいくどさが控えめで一番フツーな感じが。
作中でも倫也が言ってたけど、他の子に比べて地味で目立たない子だからこそ、フォーカスが当たった時に何を考えて生きてるのか垣間見られる瞬間がより際立って、そういうところが魅力的に癇感じられる。発するセリフとか、アップで映った時の表情とか。
そんな倫也と加藤さんの二人のやりとりがとても好き。どっちもボケだしどっちもツッコミ。距離感は近いのに全然噛み合ってないのが面白いし、可愛らしい。

・ただ、えりりや詩羽先輩の内面や過去が深く描かれ始めると加藤さんがまた本当の意味で目立たなくなっていって、実際、冬コミ後にすれ違ってしまうのも切なかった。
けど復縁できてほっとしたし、「明日になったら今の私、忘れてね」に対する倫也の「わかってる(やなこった)」が好きすぎる。そこに遅れバレンタインでブラックサンダー渡す加藤さんも最高。



こっからちょっと長いっす。
一番語りたいのが、えりりという人物の描かれ方。

えりりは「叩かれて伸びる者」の象徴だと思う。
昔から“復讐”こそが彼女の創作における動機であるがゆえ、裏を返せば「悔しい思いをしなければ力が発揮されない」という性質を持っている。
それが何とも悲しくて、というか可哀想で。力を発揮するためには誰かに叩かれ、否定され、罵倒されなきゃいけなくて、その度に悲しくて悔しくて涙を流す姿を見なくちゃいけない。何より倫也との距離が離れていなくてはならない。
それでしか彼女の創造力のエンジンがかからず、彼女の成長における必須条件となってしまっていて。なんて残酷な運命なのだろうと思った。

1期9話で、えりりと倫也が気持ちをぶつけ合うシーン。
あそこは観た時、どうしてももやもやしてしまい気分が晴れなかった。
仲直りしてサークル崩壊の危機を救うために彼女に駆け寄ったはずが、どういう心の動きか、倫也は溜まってた恨みを言いたい放題。
もはや仲直りなど諦めてて自らサークルを崩壊させに行ったようなものだし、あれだけ周りを巻き込んで情熱を傾けてたゲーム作りを全部なかったことにしてしまうようなものだ。
「才能も努力も知ったことか。お前は足りない、劣ってる」などと明確にぶちまけただけでなく「どうしたらいいかは自分で考えろ」「俺の一番なんてどうでもいい」などと完全に突き放すようなことまで。
なんでそこまで言うのか……可能性によっちゃ絶縁どころか彼女が創作を辞めてしまったらどうするんだって。
彼女は彼女で、過去の件に関して頑なに謝ろうとしないし……色々言い合った挙句、何一つ解決してない。まあそもそも仲直りのシーンではないからね。
しかし、彼女の本質を理解した今ならそのシーンが理解できた。
「お前の一番になる」と這い上がる覚悟を示してくれたのがその答えで、倫也ももしかしたら「逆に貶してやれば彼女はバネにして燃えてくれるかも」と一か八かでそうしたのかも知れない。
なんか奇跡的に結果オーライでサークル崩壊を免れました~めでたし、ではなく、ちゃんと筋が通っていることがわかる。
……というのも、この喧嘩シーンより、えりりの本質がわかるのが後だからね。最初にこの喧嘩を見た時はただお互いの汚いところだけを見せられた気分で、倫也の意思をどう尊重すればいいのかわからなかったw

2期5話では、詩羽先輩が“成長”という単語を明確に口にする。
俺はこの回の詩羽が特に嫌いだった。喧嘩シーンよりも気分が悪くなった。詩羽自体が嫌いなわけじゃないが、この回の彼女はマジで何を考えてるのかわからなかった。
えりりが納期に間に合わないことを心配(叱責)していて、「クオリティにこだわりすぎて空回りしてる」とまで見えてたのに、純粋にいつも通りの仕事を求めてるのかと思いきや、急に先がないとか成長がどうとかそういう話になって。論点のズレしか感じなかった。
納期には遅れるな、クオリティにこだわるな、ただし試練を乗り越えて成長しろ? 無茶苦茶言ってるじゃんこの人。一体何を求めてるの?って。
同じ作家の立場とはいえシナリオと絵とじゃ世界が違うし、ただでさえ人として抱えてるバックボーンが違うのに、その領域も背景も無視して、まるでえりりの何が欠けていて何が必要なのか全部お見通しみたいな。
主観的に彼女を嫌ってるだけなのに急に客観的に正論ぶって優位に立とうとしてるように見えて。ディレクターでもないお前が価値観押しつけんなよ、と。

しかし冬コミを終えたあたりに、どうも詩羽のそれは一時の感情ではなく、詩羽自身が創作をする上での信念みたいなもので、えりりを認めている(えりりとまた組みたい)からこそ、彼女にもそれを期待しているのだとわかった。
実際、大物作家に蔑まれて初めてスランプを乗り越えられたことが、詩羽の考え方に説得力を持たせている。



このえりりの成長ドラマは、「作家として成長するためには苦しみが必要だ」みたいな一つの論理を示している気がする。
人は苦しみがなければ成長できない……と。
その通りかも知んないけど、俺からするとちょっと根性論チックというか、どこかブラック企業気質に思えてしまって、作品の面白さとは別にテーマ自体は好きになれないかな。
これは俺自身が過去に色んな人間から、こっちの事情を全く考えない上から目線の正論をかまされまくって心が傷だらけなせいだ。架空の物語やキャラであっても、そういう立ち回りを見せられるとちょっとアレルギー反応が出てしまう。
乗り越えて進んでいくえりりは強いと思ったし、応援したいけど。

納期に追われながら、ライバルの存在を意識しながら、作風も葛藤しながらモノを生み出し続けるなんて、それだけで心と頭に大きな負担がかかってるはず。筋トレで言えば、もうこれ以上はキツイって状態。
そんな状況の中をただやり過ごすだけでも立派なトレーニングになる。もし結果的に納期を破ってしまったとしても、その失敗が今後必ずどこかで活きて、進化に繋がるはず。
それもまた”成長”といえるんではないかな。俺はそういう考え方のが好き。
一歩ずつ、半歩ずつ、少しでも自分を褒めて……とかね。何も否定しなくて済むから。
結果的に成功か失敗かだけで人の進化を判断するのは残酷過ぎる。商業的に考えれば結果は重要だけど、人の成長を見るなら結果なんてどーでもいいと思うのよ。
成長の機会もペースも本人が選べばいいし、選ばなくったって無意識に成長するし。
えりりの苦しみはえりり本人だけのものであって、誰にも干渉できるものじゃない。勉強なしで成績トップの天才である詩羽であっても、干渉できるはずもない。
そういう意味じゃ、納期直前で倫也がかけた「お前のやりたいようにやれ」は、彼女にとってベストな言葉だったろうね。


少し話が逸れたけど、以上。
いいお話でした。
 

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