自選短歌30首+1首の第3弾です
雨虎俊寛(あめふらし としひろ)です。平成と令和をまたいだ2019年までの自選30首+1首で31首です。今回で2016年より前に詠んだ歌を選びませんでした。本腰を入れた2016年からの歌たちです。
ポンプ車が遠のくときに告げてゆく鎮火したぞと二打の警鐘
薄雪はまだ踏まれずに側道の消火栓の蓋ここにあるはず
真夜中の赤信号を徐行してドクターカーは右折していく
寝そべっていた高架橋 武庫川を越えてしばらく空を仰いだ
むくつけき万年主事が手を止める山吹色の時刻を迎え
少しずつ令和が馴染みはじめてる業務日誌の日付を打てば
銀色の月の滴の形したベンチに座る 靴がぶつかる
もう少しこの小節に居たいけどD.S.から※へ飛ぶのだ
*D.S.ダルセーニョ *※セーニョ
もう誰も連れてこないと決めていた片男波へと連れだしている
赤茶けた融雪道路からはずれ雪のところをふたりは歩く
ふたりでも食べきれないとジャムにした瓶の中身はあと少しだけ
汗かきと決めつけていた ただきみが歩幅の違い埋めていただけ
「サ..ヨな.ラ...」に気づいてるのに切れかけの蛍光灯をそのままに去る
ぼんやりと写真の奥で浮いているポートタワーに触れてみる夜
橙に滲むタワーを振り返ることができずにもう三ノ宮
砂時計をくるりと返すそれだけで時はきみごと戻る気がして
ハルカスが見おろす街をすまんへん通りまっせとチンチン電車
改札できみを見送る日々だった七道駅をまた通過する
降りてすぐ深呼吸した あのころと変わらない風、駅名標も
凌霄がぼくの指から伸びてゆきつたえたかった言葉をはなつ
真っ白い股引き姿の若衆に菖蒲の浴衣ラムネを渡す
大川は奉納花火に照らされて犇めく鮒のように船渡御
林檎飴たったひとくちかじったら「もういらんわ」と空に飛ばした
助手席はいつものようでいつもとは違う角度に戻されている
皿そばのお薦め店を聞きながら出石城下を俥夫に曳かれる
水無月の闇を照らして五分咲きのあじさい電車はしずかに登る
海沿いの展望台は遠くまで見えすぎていてふたり黙った
青葦の八幡堀をめぐる舟「また乗ろうね」が果たせぬままに
哀しさ悔しさ寂しさ愛しさのどれを選ぼう 雲が過ぎてく
ぬくもりが伝わるような触れかたを記憶の中のきみはするのに
ワイパーがきかないくらい打ちつける雨とライオン橋を渡った