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彩り続く透明な街【simsiis】

3月9日にリリースとなったsimsiis2作目のEP【white hot】が期待を裏切らず、いや、期待以上に素晴らしい作品だった。

simsiisは、こちらの記事でも取り上げたが、昨年出会った仙台のバンドである。
(私の好きなバンドの大半は北海道や東北などの北方出身なのが個人的に面白いな、と思っていたりする。)

初めて『bygone』を聞いたときに受けた衝撃をいまだに覚えているし、『bygone』は改めて聞いてもすごく完成されている素晴らしい楽曲だと感じる。

この1曲と1stEPの【hale glow】を聴き、その5曲全てがどれも素晴らしく、私は完全にsimsiisの魅力にはまってしまったのだ。


「今後が楽しみなインディーズバンドと出会えた…!!!」
という喜びは計り知れないものだった。
そんなバンドの新譜。
もちろんリリース後すぐにSpotifyで聴いた。
(リリース後すぐ、ボタン一つ押すだけで聴ける、という便利さには本当に感謝しかない。)



simsiisの柔らかい音。歌声がゆっくりと広がるような空気。
そしてその中で刹那に響く、ハッと目が覚めるようなギターメロディ。
ゆっくりと歩みを進めるかのような曲の中で、楽器陣はその歩みを決して邪魔しないながらも思い思いにメロディを刻む。

その音だけを耳で追うと、忙しなく感じるそのメロディが、単調な歩みにスパイスを加えて、のんびり歩みを進めていたその足をより軽やかにしてくれるような、そんなバランスの良さすらも感じる。

ゆったりとした透明な世界に鳴り響く忙しない鮮やかなメロディ。
そしてそれを優しく包み込む歌声。


一見するとバラバラになってしまうような要素が、
絶妙なバランスで成り立っているsimsiisの音楽がたまらなく好きなのだ。


もちろん今作【white hot】も、
そんな私の好きな要素がぎゅっと詰まった作品だった。

1stEPの【hale glow】の時に感じていた心地よさや細かく動くギターメロディが印象深いところもそのままで、
その透明感をまとったまま内在する心の叫びが垣間見えるのが今作。


前作【hale glow】よりも、cinema staffやthe cabsのようなポストロック・エモを感じたりもした。

というのも、アルバム2曲目『cycling』でシャウトが入っているのだ。

今まで私が抱いていたsimsiisの世界観は先に挙げたように、
「優しい」とか「暖かい」という印象で、シャウトとはかけ離れた存在だった。

だからこそ、シャウトが入っている曲を聴いたときにとても驚いた。
そして驚いたと同時に、今までの曲にシャウトが入っていなかったのが嘘のように思えてしまった。
つまり、何の違和感もなくsimsiisとシャウトを結びつけることができて、
当然のように私の中では受け入れられることができた。


これがとにかくすごく不思議な感覚だった。

もともと私はシャウトが入る曲が苦手だった、というのもあるのだが、
simsiisの曲は、シャウトが入ることで、より優しさ・柔らかさが引き立つし、何より、柔らかくて透明な世界で生きる住人の刹那の叫び、のような緊張感を感じた。
このEPを通して、今までよりもさらにsimsiisの裏側、というか奥行きを知れたような感覚になった。


音楽ジャンルについては、そこまで詳しくないため、cinema staffやthe cabsに通じるジャンルが、”エモ”や”ポストロック”であることを、今回調べて知ったのだが、
皆さんは、音楽ジャンルの”エモ”について、どういうものか知っているだろうか?
正直、あぁ、私が好きになるのもわかるな、というような説明がなされていて、なるほどと納得してしまった。

メロディアスで感情的な音楽性、そしてしばしば心情を吐露するような歌詞によって特徴付けられるロック・ミュージックの1スタイル

「感情的な音楽性」
「心情を吐露」


私が音楽に求めている、「心の内側」「魂の叫び
まさにそれじゃないか、と思ってしまった。

綺麗な世界を構築しているメロディの中に現れるシャウトは、
まさに心情の吐露のようなものなのかもしれないと感じた。

(また、今回の新譜について書かれていたインタビューで、影響を受けたアーティストとして、cinema staff、the cabsの名前が挙がっており、私が感じた要素は間違いじゃなかったのか…!と少し嬉しくなったりもした。笑)



今回リリースされた【white hot】はEPというだけあって収録曲は4曲と少ないが、その4曲ともに魅力が詰まっているので、1曲ずつ紹介していきたい。

『yodachi』

MV公開もされている今回のEPのリード曲。
イントロ部分から、透明感のある声が広がり、すべての楽器の音の集合によって壮大さを感じる曲。
この曲に限らず言えることだが、simsiisの楽曲は休符の使い方が秀逸で、休符がまるで呼吸のようにも感じる。
そんな音が止まる瞬間に、歩幅を合わせるように一旦止まってくれているような安堵感を覚える。


『cycling』

「yodachi』が壮大さを感じる始まるの曲だとしたら、
『cycling』は、その先にある延長線上の日常のような曲。
特別な日じゃなくて、いつも通る道を歩きながら、いつもそこにある木や風や青空とともに在る音楽のような、大切な日々を思い返すような感覚。
サビに入っても大きなキメや変化がないからこそ、そう感じるのかもしれない。

そんな一見すると単調な曲だが、アウトロ部分にシャウトが入ってくる。

見つからないものを探すような
淡い苦いきみの記憶

歌詞から分かるように、この曲は過去を思う(憂う)曲だ。
それまで淡々と綴っていた過去の記憶。そして曲の最後に現れるシャウト。
シャウトはいわば心の叫びだ。
つまり、今までの単調な語りは、もしかしたら本心ではなく取り繕っている部分なのかもしれない、という考えが過ぎる。
最後まで聴いて初めて曲の全容が見えてくるという面白さを感じる曲だ。
(そしてこのシャウト部分は何て言ってるのだろうか…気になる……)


『chouchou』

simsiisの良さ・強みが一番ぎゅっと詰まっている曲のように感じる。
今回のEPの中では個人的に一番好きな曲。
イントロから特徴的なギターメロディが鳴り響いて耳から離れない。

私は曲を聴く時に歌に集中してしまいがちなのだが、(元々合唱をしていたので多分その影響)
simsiisの曲は、ギターが歌うようなメロディを奏でているので、歌が無い部分も、一切の物足りなさを感じず、初めから終わりまでずっと聴き入ってしまう。
今回のEPの中でもこの曲はギター含め楽器陣が自由に動き回っていて、それが顕著に表れている楽曲。
メロディが動き回っても決して煩く目まぐるしく感じないところもsimsiisの魅力の一つだろう。


『pageant』

物語の終わり、幕引きのような曲。
これまでの4曲と比べると驚くほどシンプルなメロディから始まる楽曲。
曲が進んでいくと、彩りをつけるように、これまで同様様々なメロディが鳴り響く。
しかし、それはどこか控えめで、アウトロではみんなが同じ旋律を奏でだす。
その様子は、帰り道をみんなで手を引いて歩いてるみたいな、少しの足取りの重さを感じる。

これまでの楽曲が自由に動き回るメロディが多かっただけに、この最後のユニゾン、皆が足踏みを揃えているメロディにどこか少しの寂しさを感じてしまう。
このEPの終わりを告げる曲だからなのか、
もしかしたらこの曲に、彼ら自身のことも少なからず投影しているのかもしれない。



これまでに発表されている楽曲が少なかったため、
1stEP時にはまだsimsiisの全容を掴めずにいたが、
この2ndEPを通して、simsiisのことをより知れた、というか、奥行きが見えた気がする。

心地のいいメロディと歌声のため、さらりと聞き流すのもよし、楽器陣の動きに着目して細かいメロディを聴き入るのもよし、と、思考を行ったり来たりさせながら曲に聴き入ってしまう。

そんな魅力溢れるsimsiisだが、3月末のライブを持って活動休止となった。
(white hotツアーの名古屋公演に行きたかったものの、公演中止となり結局生演奏を見ることはできなかった…。悔しい……)


歌声と各楽器隊の秀逸なメロディラインによって、
その世界観が見事なまでに構築されているsimsiis。

これからも私はきっとたくさんたくさん聴き込むし、
その度にその世界観に圧倒されるだろう。

素晴らしいEPをありがとう。
活動再開、気長に待っています。

彼らの曲たちが、これから私の記憶の一部になりますように。




きいろ。



▼先月のプレイリストまとめにも【white hot】のことを記載してます。



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きいろ。
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