属人的な説明と募る不安
こんなに教科書通りの「反面教師」も珍しいと思った。
ある先輩社員はかなり頑固で、他者の意見を受け入れず自分の頭のなかで考えたことのみが正しいと信じ込んでいる節がある。
以前、先輩が抱える案件を担当しているスタッフに確認したいことがあり、先輩に仲介をお願いした際、「そんな質問、恥ずかしくて聞けない」と言われ断られたことがあった。何が「恥ずかしい」のか、レベルの低い質問だと先輩が勝手に判断したのか、不明だったため、質問を拒む理由を聞き出そうとしたが納得のいく説明もなく、ただ「恥ずかしい」の一点張りだったので、私たちはその言動に閉口した。
その先輩社員が担当する案件に、新しく入社2年目の社員が着任することになり、先輩より業務説明が行われた。
私も音声会議にて参加したが、周囲の同僚や上司も対応に頭を悩ませている存在である先輩だったので、今回の説明にも不安があった。
案の定、説明が始まると、先輩の話は相変わらず要領を得ず、内容が頭に入ってこない。資料を画面共有しながら説明されていたが、既に運用停止している事務作業についても触れていたりと、どの項目が必要であるかも曖昧な状態で進めており、おそらく本人もそこまで資料の内容を把握していない状態で説明しているようだった。
資料は新規着任者向けに作られた既存のガイドブックだったが、先輩自身が把握しきれておらず、説明時に初めて目を通しているのではと思うほどで、資料の内容が咀嚼できていないことだけは伝わった。
続いて、案件で使用する管理台帳の説明に移ったが、ここでも不明瞭な展開が続いた。先輩は「この管理台帳は自分しか把握していない」と少々誇らしげに説明していた。
ただ、それは先輩が周りに台帳作成時にレビューを受けず、更新時にも周知するといったことを怠ったことにより、他の誰もが内容を把握できない状況になったに過ぎないだけだった。
そのような属人的な状況になっていることに、先輩自身がまったく無自覚なことに説明を聴きながら静かに驚いていた。
極めつけは、説明中に突然始まったクイズ形式の質問だった。どう考えてもクイズ形式である必要がない場面なのに、後輩に知識を誇示したい意図があったのだろうか、何がしたいのかわからず困惑していた。
後輩が実際業務をするうえで理解しやすいように要点をまとめ、「何をしてほしいか」「何に注意してほしいか」を明確にするべきだったが、説明の目的や背景が曖昧で、参加者全員がどこに向かっているのか分からず迷子になるような状態が続いた。本当に不毛な時間と言わざるを得なかった。
業務説明終了後、念のため後輩には個別チャットでフォローを入れておいたが、今後もこのような状況が続くのではと不安が募った。結局、今回の業務説明は後輩に安心感どころか不安を与えるだけに終わり、先輩自身がこの状態に無自覚でいることが、私のなかの不安を増幅させ絶望へと格上げさせた。
もはや彼は「逆のお手本」として参考にするしかないほど、あらゆる面で踏み外している。反面教師としてしか自分の糧にできないのではないかと思うほどだった。