愛も苦しみをも含む選択を。
湯木慧 『選択』横浜1000CLUB
心の防護服である音楽を湯木さんは届けたいとそう言っていた。
Vo.Gt湯木慧 Cho. 楠美月 Pf.ベントラーカオル Perc.ヒロシ
という編成で行われた今ライブ。
アレンジはもちろん随所に音楽的に魅力的な要素が散りばめられた演奏だった。
会場はコロナウイルス感染防止のため1000人というキャパシティを200人かつ着席にしての公演。
開演前には鈴虫の声が鳴り響き、彼女の故郷とする阿蘇野の景色を想起させる。
ステージには破れたキャンバスが並びそれはスモークのMVでの燃やされたキャンバスに通ずる何かを感じさせた。
鈴虫の声が一層鳴り響き、客電が抑えられると演者の入場。拍手により迎えられた4人が最初に演奏したのはAnswer。音楽のような打ち込みを排除し、楠美月さんによるメロディラインの歌唱より曲が始まる。
湯木さんの声は曲調も相まってフラットな歌声。
ヒロシさん、カオルさんのたしかな音楽センスによる演奏がダンサブルなチューンをバンドサウンドに落とし込む。
二曲目は、網状脈。Answerに引き続きフラットな歌声が続くが、パーカッションの響きがより確かにダークなキーボードが鳴る。
『動き続けては22年』
これが初めて歌われたのである。
そして、不協和音と不穏な響きから極彩。高度な次元の音楽が演奏されグルーブが生み出される。
MCをはさみ、一転して存在証明。
メッセージ性の強いこの曲は湯木さんの語りかけるような歌い方が心をえぐる。
そして、サポートメンバーがはけてからの弾き語りコーナー。
一曲目からいきなりの一匹狼。
芯のある確かでひとを魅了する歌声の真骨頂が伺える一曲であり、ギブソンの固いストローク音が歌声に力を添える。
追憶では静かにそして、切なさと哀愁の残る歌声が涙を誘う。
ハートレスは弾き語りならではのひりついた緊張感とともに『どうか生きて』と繰り返されるメッセージが確かに心に水を与える。
そして、今回試験的に入れられた贅沢なコラボ。湯木さんとサポートメンバー1人ずつのコラボ。
これには舌を巻いた。選曲、アレンジともにサポートメンバーの強みを活かす圧倒的なものだったからだ。
まずはヒロシさんとのヒガンバナ。
ご存知の方もいるだろうか、彼が湯木さんのサポートとして間もない頃からそのヒガンバナの圧力は言い尽くせぬものだった。
今回は、湯木さん、ヒロシさんともにますますの演奏力と表現力の相性で凄みが増した。
そして6月の配信ライブよりサポートメンバーになった楠美月さんとのコラボは金魚。
原曲もコーラスが活きる曲だが、ギターと湯木さんボーカル、コーラスのみという自由度からテンポを落としてのミッドチューンに。
楠さんの高音が湯木さんの歌声と入り混じり畏敬の念さえ抱く素晴らしいコラボだった。
そしてこれも初の試みカオルさんとのコラボは、キーボードと歌声のみという贅沢なバースデイ。
湯木さんが手を自由に動かせることから演劇にも似たその表現力が開花する。
ここで換気のための休憩。
と言いつつ楠さんVo.の小音でのコラボ。
Answerと一匹狼だったが、カオルさんのジャジーなピアノアレンジ、楠さんの艶のある歌声、ヒロシさんの小音でも確かに刻むドラムが素敵なコラボだった。
換気が終わりおどろおどろしいイントロから始まるのは万華鏡。この曲もカオルさんのキーボードがとても効果的に入り静謐な歌声が不気味さを増す。
そしてMCが入り次の曲であるスモークへの思いを湯木さんが語る。
わからない、あいまいを許せるようになった。歌いながら泣きそうに初めてなったと。その眼差しには確かに生命が宿っていた。
スモーク
その全てを許容するような歌声に自然と涙した。
そして、本編最後の曲は初公開となる
選択
である。
実はファンの間でこのライブタイトルにもなっている選択という曲が歌われるのではないかというのは話題になっていた。
しかし、僕自身も曲調は予想外のもので全体的に明るい、アンセムのような曲だった。
これから生きていく私たちのしるべとなるようなその曲はある種悟りの境地から生み出されたそれなのではとも思わせる。
これにて本編終了だが、アンコールである。
キーボードにマイクが設置され、来る曲はやはり
狭間
音が鳴っている、歌声が聴こえるのに、この心に水滴が落ちるような静けさはなんだろう。
『生きる強さもなくて死ぬ勇気もないね、あたたかさを忘れられないままで』
そんな僕たちの手を引いてくれるこの曲は、湯木さん自身が湯木さんを救うために産み出した曲なのかもしれない。
ただひたすらに、生きづらいこの世の中でピンホールの穴からのぞくような確かな強い光のようなライブだった。
Cf.わしつさんセトリツイート