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『Egg〈神経症一族の物語〉』第3部 第二十二章

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私は海水浴に行って食べる日清のカップヌードルが好きです。

今回はクリスマスシーズン!ということで、ヨッシーさんのアドベントカレンダー企画に参加しました。
カレンダーの画像が可愛いですよね。詳細は以下のnoteでご覧ください。

アドベントカレンダーから私のnoteに来てくださった皆様へ。
この小説は連載小説になっています。
今配信しているのは第3部です。それぞれで物語として完成しているので、第3部から読み始めていただいて問題ありません。

第一章は以下から読めます。

また、前話はこちら。

では第二十二章スタートします!




 「ただいま」
 夕方になり、人気のない自宅のリビングに帰ってきたわたしこと高藤由美は、ポストに大量に入っていた督促状をテーブルにバサバサッと放り投げると、荷物や上着をぽいぽいと床に投げ捨てた。

 「わたしって、自分勝手なのか……」
 さっき岡田葵ちゃんに言われた言葉が胸を刺す。言われてみれば、わたしは西島秀樹ことギャラの気持ちを無視して、自分に都合のいいように接していたような気もする。
 でもそれはわたしがギャラに安心していたからなのだ。

 普段のわたしは人と話すときにとても緊張する。葵ちゃんに「お高くとまっている」と言われたけど、どっちかというと逆で、どんな自分を出したらいいかがわからないから、相手が望む自分を出しているのだ。
 友達がしゃべっているときはそれこそ全身耳のようになって話を聞くし、面白いときは一生懸命に面白がった。たとえ退屈な話でも絶対につまらなそうな顔を見せなかった。
 そしてわたしは基本的には聞き役だ。自分から話題を提供してどんな反応をされるのかが不安だし、そもそも沈黙されるのが怖いから、相手に気持ちよく話してもらうことばっかり考えている。それこそ毎分毎秒、そんな緊張感をもってわたしは他人と接しているんだ。
 
 でも、ギャラは違った。
 ギャラと二人でドライブしたあの夏の日、わたしは普段よりおしゃべりだった。だって、ギャラとしゃべるのがとても楽しかったんだもん。
 ギャラはわたしがどんな態度をとっても絶対嫌がらないし、むしろ嬉しそうで、退屈な話でも喜んで聞いてくれた。
 それがわかったから、わたしは安心して自分をさらけ出すことができたんだ。
 
 甘えちゃっていたのかな……。
 かつてお兄ちゃんと仲良く話していた「わたし」を思い出す。
 あのころはお兄ちゃんにずけずけと言いたい放題していたけど、それでもお兄ちゃんはわたしを許してくれる、と信じて疑わなかった。
 ギャラは年下だけど、わたしにとってはお兄ちゃんみたいな存在なのかも。わがままをたくさん言ったし、そもそも自分より下に見ている気がする。だからこそ横柄な態度を取れたのかもしれない。
 葵ちゃんはギャラが好きだから、そんなわたしの態度にイライラしていたんだろう。
 
 ごめんね、葵ちゃん。ごめんね、ギャラ。
 こんな風にしか人と接することができないわたしでごめんね……。
 
 ソファに寝転がって白塗りの天井を見つめたまま、わたしは静かに涙を流した。
 すると、玄関からガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえて、お母さんが家に帰ってきた。
 
 「おかえり」
 わたしは袖で涙を拭うと、慌ててソファに座りなおした。
 「ただいま。はー、今日も疲れたわ」
 化粧と香水の匂いを漂わせて、お母さんが帰ってきた。
 「今日は何を買ってきたの?」
 わたしはげんなりして、お母さんの両腕にかかっている重たそうなスーパーの袋を見た。
 「これ全部りんごよ」
と言って、お母さんが袋の中から赤くてつやつやしたりんごを次から次へと取り出した。わたしはびっくりして聞く。
 「量多すぎじゃない? 何個あるの?」
 「うーんと、ちょうど20個ね」
 「ちょっと待って! なんでそんなにたくさん買ったの?」
 お母さんが嬉しそうな笑顔で答える。
 「ダイエットのためよ!」

 バブル期に買ったシャネルのハンドバックから出てきたのは、今大流行している「リンゴダイエット」の本だった。受け取ったわたしは表紙をしげしげと眺めた。
 「『3日間リンゴ食べ放題で、3キロやせて美肌になる』? これって本当なの?」
 「本当らしいのよ! テレビでも紹介されていたんだもの。効果を試してみたいじゃない?」
 ルンルン気分のお母さんはさらに言った。
 「今日から3日間、私はリンゴしか食べないから、お前は何か適当に食べてちょうだいね」
 「え!? リンゴだけ?」
 「当たり前よ。ダイエットするんだから」
 言いながらキッチンの流しでリンゴを洗ってむき始めたお母さんの後ろ姿を見て、わたしは大丈夫なのかな? と疑わしく思った。
 だって気がつけば、お母さんはいつもダイエットをしている。わたしが思い出せるだけでも、紅茶きのこダイエットに、こんにゃくダイエット、ハトムギダイエット、あと、かえって太っちゃいそうな、ゆで卵ダイエットなんてのもあった。
 最近では、「まずーい、もう一杯!」というCMで一気に全国区になった、死ぬほどまずい「青汁」を、ダイエットのためにと1年以上飲み続けていたっけ。
 でも全然痩せたようには見えないし、むしろ貫禄が増しているんだよね。お母さんにはゼッタイ言えないけど……。
 
 こんな風にテレビから最先端のダイエット法や健康情報を仕入れて実践するのは、なにもうちのお母さんに限った話じゃない。主婦の間では今や『ジョーシキ』的な行動なんだもの。
 だからテレビが「きなこで痩せる!」と言えば、スーパーの棚から一瞬できなこが消え失せるし、「ドクダミ茶がいい!」と言えば、聞いたことがない名前の通販会社で、ありがたそうな効能付きのドクダミ茶が数万円で売られることもある。
 でもさ、テレビが新しいダイエット法を流行らせるたびに、次々と乗り換えてしまうのは、テレビが流す情報に効果がないことを証明していると思うんだけど……。
 一度、お母さんにそう言ってみたら、
 「たまたま私に合わなかっただけで、やせた人もたくさんいるのよ!」
と、芸能人の名前を次から次へと上げて、わたしの言うことを全否定してきた。
 そんなお母さんを見ていると、
 「みんながやっていることが絶対に正しいんだから、私だけ乗り遅れるわけにはいかない!」
という強烈な思い込みを感じる。このやり方でずっと成功していたってことなんだろうな。わたしだって大学受験で失敗して、みんなの流れに乗れなくなるまでは、同じような気持ちだったけど、いつまでも輪っかの中を走り続けるハムスターのようでいいのかどうか、もはやわたしにはよくわからなくなっている。 
 
 そして、そんなこと以上に一番困るのは、「美容にいいから」という理由で、わたしにもこの手の健康食品やサプリをどんどん進めてくるところだ。しかもお金はお母さんとわたしではんぶんこ。借金があるのに、なんでここにお金をつぎ込むのか、わたしにはさっぱり理解できない。
 一度、1万円以上するアメリカのサプリを買おうと誘われたけど、本当にお金がないから断ったら、へそを曲げられてしまった。
 「いいわよ! お前にキレイになってほしかっただけなのに! そんなにお金お金ってうるさく言うなら、もっと安い方法にするわよ!」
 
 それで最近のお母さんは、スーパーで若さと健康を買おうとしている。今回はリンゴだし、3日間だけだって言うし、わたしは巻き込まれていない。コンビニバイト中にお弁当を買えばいいのだ。
 大皿の上で山盛りになっているリンゴを見ながら、
 「バイトに行ってきます」
と言って、わたしは外に出た。



次の話はこちら




はい、これで無事に7日目を投稿終わりました。
実は23日がまだ空いています。どんなnoteでも大丈夫なので、よかったらどなたかご参加しませんか? 興味があったら他の参加者のnoteもチェックしてみてくださいね。

さあ、カレンダーはあと17日分残っています。次はどんなnoteが登場するのでしょう。
これからますます楽しみです♪

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