あまやどり出版 (自分出版社協同組合)

やっとのことであまやどりしても、雨や濁流に力及ばず流されることも。 必死にあっぷあっぷ…

あまやどり出版 (自分出版社協同組合)

やっとのことであまやどりしても、雨や濁流に力及ばず流されることも。 必死にあっぷあっぷしたあとに、ふと顔を上げた先に新たなあまやどりできる場所がある。 この出版社がそんな存在になればいいな。 自分出版社協同組合https://note.com/jibunsyuppan

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  • あまやどり出版 新刊のご案内

    • 15本

    あまやどり出版から出版されている本をまとめて見られるマガジンです。 最新刊が気になる方はこちらをフォローよろしくお願いします。

  • 編集者のありったけ!

    編集者として活動してきた筆者が、培った経験やスキルについてありったけ語るマガジンです。不定期更新ですが、役立つ情報を意識して書いています。よかったらフォローお願いします~。

  • 毎週水曜更新『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 1978

    1978年、中学2年生になった高藤哲治は勉強が大の苦手。受験戦争についていけない哲治は新しくオープンしたゲームセンターでインベーダーゲームと出会う…。 神経症の両親が作る「心をがんじがらめに縛り付ける家庭」で、条件付きの愛情しか与えられずに育った哲治が、外の世界で友情を培う中でどう変わっていくのかを、家族の視点を交えながら丁寧に描いていきます。 3部構成の第2部がついにスタート。毎週水曜日に更新する予定です。気に入った方はフォローお願いします!

  • 「自分出版社協同組合」新刊のご紹介

    • 22本

    「自分出版社協同組合」から発行された新しい本の紹介をしています。

  • 毎週水曜更新『Egg〈神経症一族の物語〉』第1部 1964

    1964年、アジア発の東京オリンピックが開催される中、高藤恵美は望まぬ男児を出産する。 我が子を愛せない恵美と、自分の父親に服従を強いられる夫の隆治。神経症持ちの二人が、高度経済成長を遂げる日本でいかに前世代のDNAを引き継いでいったのかを彼らの心理に寄り添ってとことん描きます。 3部構成の第1部。毎週水曜日に更新する予定です。気に入った方はフォローお願いします!

最近の記事

『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第三十三章(最終回です→第3部は9/25より公開)

 「はあっ! はあっ! はあっ!」  どうしたらいいのか、どこへ行ったらいいのか。何一つわからないまま、オレこと高藤哲治は人気のない暗い道を自転車で走り続けた。  「ああっ、うああああっ!」  お父さんとお母さんの顔を思い出すと、頭がハンマーで殴られたように痛くなり、発作のような感情が噴き出してくる。オレは大声でわめき散らし、さらに自転車をこぐスピードを上げた。  「があああああっ!」  心臓がバクバクして汗が流れ落ちる。構わず自転車を暗闇に向かってめちゃくちゃに漕ぎ続けてい

    • 『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第三十二章

       さっきまでお父さんだった「青鬼」は、ソファからゆらりと立ち上がり、オレこと高藤哲治と向かい合った。  冷気のこもった息を吐きながら「青鬼」が言う。  「哲治、お前はもうダメだ」  その言葉に思わずオレはびくりと震えた。その様子を見て「青鬼」が意地悪く笑った。  「頭が悪いだけなら、勝と同じだからまだ許せるんだよ。自分ができる精一杯を健気に頑張っているんなら、仕方がないと思えるからな。  だがな、勉強しろというと反抗して暴力をふるい、いい塾を探して通わせれば勉強もせずに繁華街

      • 『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第三十一章

         鶴川駅でオレこと高藤哲治はバイクで送ってくれた川上太一さんと別れた。  自転車に乗り換えて自宅に戻ると、お父さんが家にいて、お母さんと一緒にリビングでテレビを見ていた。さっさと2階に上がろうとすると、お母さんがオレに声をかけた。  「哲治、こっちに来て。話があるの」  オレは二人に近づいた。お父さんが鞄をしょったままのオレを見て言った。  「今日は随分帰りが遅かったな。何をしていた?」  「友達がケガしたから家まで送ってきた」  「塾の友達か?」  「違うよ。学校の友達にた

        • 『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第三十章

           「うわあ! かっこいいですね!」  国鉄原町田駅の線路沿いに止められていた太一さんのバイクは「ホンダエルシノアMT125」と言う。シルバーのタンクの上に太い青線が引かれ、タンクの前についている2つの丸いメーターも同じ色でデコレーションされたすっきりとしたデザインのバイクだ。  太一さんは右足でエルシノアのキックペダルを蹴りこみ、右手のハンドルをひねってエンジンの回転数を上げた。ブルンブルルルンというむき出しのエンジン音が辺りに轟く。  オレはバイクのエンジン音を間近で聞いた

        『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第三十三章(最終回です→第3部は9/25より公開)

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        • 小説『抹茶ミルク』脱稿版
          17本

        記事

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十九章

           スペースインベーダーでついに瞬間ランキング1位になったオレこと高藤哲治は、夜になってサラリーマンでごった返す人ごみの中を鼻歌交じりで町田駅に向かって歩いていた。  「今日はついに9面をクリアできた! 『SAL』さん、隣で悔しそうだったなあ……」  数年後に名古屋撃ちという名前で全国区になるスペースインベーダーの裏技の原型は、ここ2、3週間のうちにインベーダーに熱中している人たちの間ですっかり有名になっていた。  そのせいで最近は町田のインベーダーハウスでもランキングの変動が

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十九章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十八章

           一周忌から1年ほど経った、小学校の1学期の終業式の日のことだ。 夜遅くに帰宅して夕飯を食べてから、哲治と由美の通知表を見た隆治は、哲治の絶望的な成績に目が釘付けになった。  妻の恵美からは勉強ができなくて困ると聞いてはいたが、それでも今まではAやB評価も少しはあったのだ。しかし4年生になった哲治の通知表はすさまじかった。ほとんど全部が最低のCだったのだから。  「哲治! これはどういうことだ?」  隆治はリビングのテーブルに通知表を開いて哲治に声をかけた。遊んでいた哲治と由

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十八章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十七章

           そんな高藤組は高藤誉の一周忌を待たず、1974年に解散した。  跡取りである息子の隆治は組を継ぐ気は一切なかったし、妻のいちも自分の代でこの世界から足抜けしたいと考えていたからだ。  それで一周忌を節目として、実力のある連中に組を分割して渡し、高藤家は組の運営から完全に手を引いたのである。  いちは義理の娘の弘子と孫の正彦、小間使いの東海林勝、料理人の高橋や運転手、その他行き先がない者だけを数名自宅に残した。今後はバーを建て替えて小料理屋を経営すると言う。  前を向いて生き

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十七章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十六章

           「まだ若かったころ、儂は東京で歯医者の助手をやっていたんじゃ。  ちょうどお昼の時間だったと思う。突然地面がすさまじい勢いで揺れ始めてな。3度目の大きな揺れで病院が崩れそうになって、儂や医者や患者たちは命からがら外に逃げ出したんじゃ」  1923年9月1日。相模湾北西部を震源とする、マグニチュード7.9の巨大地震が首都圏を襲った。家屋倒壊や火災で甚大な被害が発生し、死者は10万5千人に上ったと言われている。いわゆる「関東大震災」だ。  誉が話を続けた。  「ほっとしたのも

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十六章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十五章

           「今日は命日か」  編集部でカレンダーを見ながら高藤隆治は呟いた。8月22日。五年前の今日は父である高藤誉が亡くなった日だ。  三回忌までは毎年22日に合わせて帰省していたが、去年からお盆に帰省して仏前に手を合わせることにした。おかげで盆明けの仕事が溜まることがなくなったのがありがたい。  隆治は受付の女性に  「打ち合わせに行ってくる」 と言い残して外に出た。残暑の日射しはコンクリートの照り返しでより一層ギラついている。あちこちで騒ぎ鳴くアブラゼミの声を聞きながら、隆治が

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十五章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十四章

           「そうそう。お向かいの佐藤さんの話、聞いてるかしら?」  私こと高藤恵美が、買い物かごを持ってそわそわしていることに一切気がつくこともなく、隣の奥さんは向かいの佐藤さんの夫婦仲が疑わしいだの、ごみ集積所のカラスの被害がひどいだのというくだらない話を延々とし続けた。  恵美は奥さんの話に適当に相槌を打っていたものの、本格的にイライラし始め、そもそもの話の発端になった息子の哲治の体たらくに心の中で怒りをぶつけ始めた。  ――大体こんな風に噂話のネタになるのも、哲治ができの悪い子

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十四章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十三章

           「そういえば、朝、哲治君が自転車に乗って出かけるところを見たわよ。塾に行っているの?」  「夏期講習なんです。勉強ができないから大変で……」  高藤恵美がため息をつくと、隣の奥さんが言った。  「そんなことないわよ。うちの息子に爪のアカを煎じて飲ませたいわ。『夏期講習には行かなくていいの?』って聞いても、『必要ない』の一点張りで」  「でも、息子さんは東大に続々と合格しているあの優秀な八王東高校に入学されたじゃないですか。受験が終わったばかりで少し休憩したいんじゃないですか

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十三章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十二章

           高藤恵美は台所で洗い物を終えて、うーんと伸びをした。  「よし、洗濯と掃除と洗い物はこれで終わりっと」  夏休みになって子供たちの学校がなくなり、いつもと違う日常がやってきた。私はカレンダーにぎっしりと描かれた子供たちの予定を確認する。  「哲治は塾の夏期講習だから夜まで帰ってこないでしょ……。そういえば、今朝は随分早起きして出かけていったけど、塾が楽しくなってきたのかしら? やる気が出てきてよかったわ……」  カレンダーを見ながら、私は愛用のマイルドセブンに火をつけて、苦

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十二章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十一章

           そんなオレだったけど、一度だけ女の子を好きになったことがある。中2のときに同じクラスになった、青山実子という眼鏡をかけた小柄な美術部の女子だ。 ・・・  中学生になったオレはクラスでほとんど誰とも話さず、休み時間には席で寝ていた。ところが席順が前後になった青山さんと、4月から始まった『未来少年コナン』というNHKの冒険アニメがきっかけで話をするようになったんだ。  とはいえ、このアニメは面白いんだけど、中学生にはちょっとこどもっぽい。だから中2にもなって見ていると言うの

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十一章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十章

           大体、オレこと高藤哲治が男子を好きになったのは、女子が苦手だということも原因だと思う。  小学校のとき、女子はでかくて偉そうでおっかなかった。オレは小学校までは前から2番目のどちびで運動音痴だったし、勉強もできなくて要領も悪かったから、しっかりものの女子たちからはしょうもないやつだと思われていた。  そして中にはオレをいじめる嫌な女もいた。 ・・・  小6の頃だ。  いつも何かとオレに嫌がらせをしてくる小林っていう女が、休み時間にオレが席を外した瞬間に、オレの消しゴムを

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第二十章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第十九章

           暗闇のベッドの中で、オレこと高藤哲治は何かにまたがっていた。オレの部屋でもない、ホテルのような場所で息を切らしてオレは上下に動いていた。オレの足元には浅黒い肌があり、オレの体を筋肉質の両腕ががっちりと支えている。そのたくましい腕の持ち主は……。  「太一さん!?」  オレはベッドからがばっと身を起こした。  「あ……夢……?」  つい昨日会ったばかりの川上太一さんが、まさか夢でオレのセックスの相手になっているなんて。  飛び起きたオレの体は、全身汗びっしょりになっていて、

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第十九章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第十八章

           嵐のような二人が去って、オレこと高藤哲治と川上直樹と唐沢隆は、はああっとため息をついた。  「あ~ビビったなあ! 緊張して汗だくだぜ」 と唐沢が汗をぬぐって言った。  「太一さん、大人っぽかったね」  オレはぼんやりと太一さんの容姿を思い浮かべながらつぶやいた。  「兄貴はかっこいいから、昔からモテるんだよ。今度の彼女はまたカワイイ人だったな」 と直樹が言った。  「今度の彼女は……って?」  オレが聞くと、直樹がにやっと笑って答えた。  「うちの兄貴、つきあっている彼女と

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第十八章