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過去のこと

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過去のことを思い出して転げ回りながら書いています、読んでもらえたら嬉しいです。
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#性

生えてくると思っていた——性自認にまつわるひとりずもうの記録 1/2

0.出生 わたしを妊娠していたとき、母はおなかの子を男児と認識していた。  それは直感的なもので、なにも家に嫡男を欲していたとか女の子を育てるのが嫌だったとか、そういうことではないらしい。少なくとも意識的には。「お腹のなかにいるのは男の子」という強固な思いがただ母をとらえたのだという。  占いをする知り合いが「生まれてくる子は男の子」と請け合ったことも彼女の直感を確信に近いものへと押し上げた。  夫婦は生まれてくる男の子のための名前をじっくり、時間をかけて考えた。真剣に候

生えてくると思っていた——性自認にまつわるひとりずもうの記録 2/2

9.転機 男性器が生えてくるという強迫観念を、手放す……とまではいかなくとも、いっこうに様相の変わらない性器のようすにひとまず安心してよさそうだと思えたのは、高校2年生のときになってようやくだった。  その年にはじめて彼氏ができた。彼との恋愛を通して女性器を使った性行為ができると確認できたのはとても大きなことだった。わたしの中には男性の芽がひそんでいるかもしれず、それでも恋愛対象である男性とはどうやらセックスができるらしい。そのことはわたしに大きな安堵をもたらした。妊娠はで

子猿のゆううつ、楽園の出口(1)

 わたしの通っていた小さな幼稚園には小さな園庭があった。たいして多くもない園児たちを集合させることもできないほどだったから、園庭というより個人宅の庭くらいの趣だった。それもそのはずで、その小規模な幼稚園は実際、園長一家の自宅の1階部分だった。  2階の住居スペースと1階の幼稚園とは、外階段ではなく普通に屋内の階段でつながっていたから、屋内遊びをしているときなどに園長の娘たちが降りてくることがあって、そのたびに驚かされた。彼女たちは小学校に通っていたが、園の開いている平日昼間