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【ショートショート】『君に贈る火星の』
「これは火星の石なんだ」
男は女の薬指に指輪をはめた。
「君の燃えるような瞳によく似合うよ」
女はその指輪を見つめて思う。
ああ、もう駄目なのかもしれないわ、と。
「今、火星への移住計画があって、投資者を募っているんだ。君も投資を……」
ああ、やっぱり。
女はそこで男の声を聞くのをやめた。
「来たわ、おばあちゃん。ここが火星よ」
少女が祖母の形見の指輪にそう話しかける。
祖母はいつも言っていた。
『昔、ひどい男を好きになってね。その人がくれた指輪なの。火星の石ですって。笑っちゃう。いつかこの指輪を火星に捨ててやりたいわ。あんたは本当にひどい男だったって言いながら』
「アンタは本当にひどい奴だった!」
少女はそう叫び、指輪を火星の大地へ投げ捨てた。
そして、指輪の話をする祖母の、あの燃えるような瞳を思い出す。
たぶん、あれが愛なんだろうな。
いつかは自分も出会ってしまうのかな。
指輪の代わりにかすかな期待と不安を抱え、少女はふわりと踵を返した。
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