【ショートショート】『数学ギョウザ』
俺は、息子に父親らしいことはほとんどしてやれていない。
物心がつく頃には九九を覚え、6歳で高校数学の参考書を愛読する我が子は、正直、俺と妻の理解を超える存在だった。
唯一してやれたのは、ギョウザを作ることくらいだ。
一度問題を解くのに没頭してしまうと、何をしても数学の世界から戻ってこない息子も、ギョウザを作ったと言えば、子供らしい笑顔でギョウザを頬張ってくれた。
ある日、息子の理論が専門誌に掲載され、ニュースになった。
俺と妻の元には記者が押し寄せ、連日テレビやネットで放送された。
特に反響を呼んだのは、俺のギョウザのレシピだ。
今では「数学ギョウザ」と呼ばれ、ちょっとしたブームになっている。
コツは、全ての材料をグラム単位で正確に計ること。
ヒダの数や大きさを揃え、黄金比を意識して盛り付けること。
「父さんのギョウザはいつも美しいね!」
常に変わらぬギョウザの前でなら、あの子も子供の頃と変わらない笑顔を見せてくれるのだ。
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