【小説】誘惑電車〜痴漢はご注意 (性的描写有)
ホームに電車が滑り込んできた。18時40分。電光掲示の到着時刻の横で電車のマークが点滅している。目の前で、耳の下で切りそろえたストレートの髪の毛が風で乱れた。制服のスカートがバルーンのように膨らんで揺れる。その女子高生は、片手で髪を押さえて、軽く俯いた。
制服が結構クタビレてるから一年生ではないな。
大塚は黒の書類バッグを肩から下げ、女子高生の後ろに近寄って、ごくごく自然に見える絶妙の位置に立った。今日は客に暴言を吐かれた。強烈に気分を変えたかった。
電車が停まり、ドアが開いた。車内に吸い込まれていく女子高生の後を追って、大塚も無表情に吊り広告に目をやりながら奥へと進む。仕事が終わって帰宅する者、外回りが終わって社に戻る者、学校帰り塾へ移動する学生。後ろからどんどん人が続けて乗り込み、押される。その流れを上手くコントロールしながら、大塚は女子高生を奥側のドアの角に自分の胸で押し込んだ。この時間帯には女性専用車両はない。そして防犯カメラはまだ付いていない。あと2ヶ月後には防犯カメラが全車両に設置される事が決まったとネットの裏アカの情報交換で知った。
今のうちだ。機会は十分に利用すべきだ。
大塚は息を静かに吸って女の首もとから立ち上がる臭いを嗅いだ。シャンプーの香りに混じって、わずかに汗をかいた肌の匂いがする。左手の甲をわずかに動かして、女の尻に沿わせる。弾力がある尻の肉の輪郭をそっとなぞった。女はごくわずかに俯き、ストレートの髪の毛からはみ出している耳がピンク色になった。感度良好。
大塚はみぞおちの辺りから酸っぱい感じが迫り上がってきた。今日は当たりだ。女は固まったようにじっとしている。手の平を返して尻の丸みに指の腹を沿わせた。女は更に深く俯いた。電車の揺れに合わせて体全体を女に押し付けた。その流れで手を尻の割れ目を辿るように股の間に差し入れた。女は足に力を入れて閉じ、抵抗を示す。女の耳は益々濃いピンク色になった。差し入れている手の指を上に向けて曲げて、細かく動かす。女は大きな動きはしないが、僅かに腰を動かして大塚の指から逃れようとするが、多少向きを変えても大塚の体の範囲から逃れる事ができない。大塚は息遣いが荒くならないよう抑えた。心拍が上がり、血液が一箇所に集中し始めている。
女がゆっくり肩越しに顔を向けた。顔を見られると思い、一瞬大塚は手を止めた。おずおずと振り返った女の顔は頬が紅潮し、目が潤んでいる。陶器のように美しい肌。大塚は目立つ美人は狙わない。今日も目立たない容姿の大人しそうな女を狙った。ホームで見た時は正にぴったりのターゲットだった。だが、今振り返って自分の肩辺りに視線を置いた女は、グラビアに出てくるくらい可愛い。女はそのまま動かない。今日は大当たりだ。大塚は更に体を押し付けると、スカートの中に入れた指でまさぐった。股の間はじんわりと湿っている。女は大塚の肩に置いていた視線を少し上げて、大塚の目を上目遣いに見上げた。その目は潤んで、何かを求めているように揺れている。
電車が停まり、反対側のドアが開いた。その瞬間女は大塚の脇をすり抜けると、開いているドアに向かって動いた。と言うより、人の波に乗って流された。降りる瞬間大塚を振り返った。その目は潤んで、やはり何かを求めているように見えた。女は階段へ向かう人の流れの中に紛れた。
大塚は気がつくと電車を降りていた。人の流れの中を縫うように移動しながら女の背中を探した。女は階段の途中辺りを列の一員として下りていく。家までつけて行ったら、また違った楽しみが増えるかもしれないな。大塚は見失わない程度の距離を保ちながら女の後をつけた。
女は改札を抜け、駅出口へ向かう。手にはハンカチを握りしめ口元に当てている。ショックで具合でも悪くなったか? 大塚は口角が引き上がりそうになるのを必死で抑えた。
駅出口を出ると、女は右折して細い道へ入っていく。電車の高架下は店舗が入っているが、6、7分歩き続けるとスチールネットが張られた資材置場がいくつか現れ、その先は公園になっている。ベンチが2つ、子供が座って遊ぶだけの動物の形の遊具が2つ置かれている。ベンチも遊具も塗装が剥げてみすぼらしい。
その公園の一番奥に公衆トイレらしき小さな建物が見えてきた。女は浅く振り返ると、足を早めた。大塚もスピードを合わせて同じ距離を保った。女はトイレの前まで来ると、急に走ってトイレの中に駆け込んだ。それも男性トイレの方に。
大塚はそっと振り返って周りに人がいないか確認したが、その通りには人ひとりいない。今日はどうしたんだ。ツキまくってるのかもしれない。あの女は誘っているんだ。本当はもっとして欲しいと思っているんだ。
大塚はもう一度周りを見回して人がいないことを確認すると、男性トイレに入っていった。2つある個室の1つはドアが半空きで中は空。もう1つのドアは閉まっている。大塚はドアの前に立った。心臓の鼓動が耳のそばで聴こえる。手をドアに当て、そっと押すと、ドアは鍵がかかっておらず、すっと開いた。個室の便器の横に女が俯いて立っている。ハンカチを握りしめ口元に当てたまま。
大塚は個室の中に入ると、後ろ手に鍵を閉めた。すると、女は顔をゆっくり上げて、ウルウルした瞳で大塚を見返した。やっぱりそうだ。この女は誘っているんだ。大塚は書類かばんをドアのフックに掛けると、女の手首を掴んで引き寄せた。女は一瞬抵抗したが、もう一度強く引き寄せると、女の額が大塚の胸元に当たり、髪が揺れ、シャンプーの香りが鼻先で強く香った。
大塚は左手で女の腰を掴んで自分の体に密着させると、右手で女の制服のブラウスをスカートから引っ張り出した。ボタンを外し、露わになったブラジャーを眺めると、肩紐を片方ずらしてブラジャーのカップを下に押し下げた。柔らかく丸い乳房が現れ、大塚はそれを鷲掴みにして手の平で感触を味わった。さて、何から楽しもうか。大塚の頭の中が沸点に近づいていた。
乳首を親指で転がしていると、ふと女の頭が自分の肩に乗っているのを感じた。さっきは額が鎖骨の端に当たっていた。爪先立って背伸びしているのか? そう思った瞬間に女が大塚の首元で口を開いた。口の中が赤く、糸切り歯が見えた。それは、今まで見たどの肉食獣の口よりも大きく開かれ、糸切り歯に見えた歯は、アムールトラの犬歯のように長く、唾液でたっぷり濡れている。次の瞬間その犬歯が喉笛にズブッと喰い込み、同時に肩に激痛が走った。視界にはトイレの天井にある薄汚れた蛍光灯が見える。なぜ蛍光灯が見えるのか、必死で状況を把握しようとしたが体が動かず頭も回らない。ゴキッと鈍い音がして、女の頭が斜めに捻れ、大塚の視界は真っ暗になった。
ヒロは、鉄製の階段を軽やかに駆け上がって二階の廊下を通り、一つのドアの前で立ち止まると軽くノックした。中から返事はない。ドアの右にある小さな窓の硝子についた水滴に目をやると、ポケットから鍵を出してドアを開けた。
中に入ると左手には台所のシンクがあり、安アパートに似合わない大型冷蔵庫がその奥に置かれている。ヒロは靴を脱ぎ、台所の奥の居間の引き戸を開けた。誰もいない部屋は、足を折りたためる小さなテーブルと、本棚が一つ、プラスチック製の衣装ケースが3段、畳んだ布団が一組置かれている。
「キリ? いるんだろ?」
ヒロは居間から台所へ戻り、浴室のドアを開けた。
「キリ、お前、その腹すごいな。その格好でどうやって戻って来たんだ?」
浴室の質素な浴槽から二本の足が飛び出して、足の踵が壁にもたれ掛かっている。そう大きくない浴槽に張られた湯の中に、骨ばった体つきの男が両腕の肘を浴槽のフチに掛け、目を閉じて横たわっている。胃の辺りから下腹部にかけて異様に膨らんでいて、まるで喉を膨らませた蛙のようだ。
「妊婦服着て戻って来た。頭いいだろ?」
キリと呼ばれた男は、目も開けずに答えた。
浴室の隅にはバケツが置かれ、中に服が漬けこまれている。水は赤く染まっていて、側には小さな洗剤容器が置かれている。
「また狩ったのか? お前だんだん間隔が短くなってないか?」
「食欲爆進中なんだよ。でもあのトイレ取り壊しが決まったらしくてさ。誘い込み易くて便利だったんだけどな。人通りも少なくて。どっか別の場所探さないと」
キリは眉間にわずかに皺を寄せた。
「その腹なら、現地で全部食ったのか? 後処理は?」
「現地で食った方が鮮度がいいからな。骨だけ持って帰って来た。今日の奴、結構肉付き良くてさ。太もも一本残してるから、お前食っていいぞ。で、その後骨の処理手伝ってくれれば」
「そっか。じゃあ遠慮なく」
キリは足を湯船の中に戻して、ザッと音を立てて立ち上がり、浴槽のヘリを跨いだ。浴室のドアの内側のフックに掛けられたタオルを引っ張り、髪を拭き始める。
「ヒロは相変わらず牛肉で我慢してんのかよ。食えばいいじゃん。こんなにたくさんいるんだし」
ヒロは浴室内でキリが体を拭き上げる気配を背中に感じながら、冷蔵庫へ向かって移動した。
「俺はお前みたいに擬態がうまくないから。最初は大人し目の普通顔女子高生で、振り返ったらグラビア並みの可愛い顔に修正なんて神業、俺には無理だよ。俺がどう擬態しても女には見えないし。男の格好のまま女を狙うにしても、二人きりになるまでが面倒だし。それに牛肉って馬鹿にするけど、グラスフェットの牛は結構美味いんだぜ。値段は高いから毎回は買えないけどさ」
ヒロは冷蔵庫のドアを開け、衣料用圧縮袋に入れられた塊を手に取った。袋の内側に付着した赤い液体が指で触ったところから逃げて動く。ヒロの口の中に唾液が溜まった。
「美味かったか?」
キリは浴室から出てくると裸のまま居間へ行き、衣装ケースからボクサーショーツとTシャツとジーンズを出したが、腹を撫でて、Tシャツだけ頭からかぶって着た。
「中年の男が一番美味いね。脂がのってるし、肉の量が多い。腹一杯になる。内臓は足が速いからいつも持って帰って来ないけど、動いてる内蔵は美味いぞ」
「そっか」
「最近は男狙いのおっさんの痴漢もいるらしいぜ。まさか自分が狩られる対象とは思ってないから簡単に捕まるんじゃねぇの? 痴漢する奴ってそもそも冷静な判断失ってるから」
「ふぅん。そうだな。試してみるかな」
ヒロは衣装用圧縮袋を台所のシンクに置くと、居間へ歩きながらカットソーと綿パンを脱いで軽く畳み、居間の床に置いた。トランクス一枚で台所に戻ると、圧縮袋を開け、片手で塊を取り出した。首を伸ばしてシンクの上で圧縮袋に残った血を口に流し込むと、塊を手に持ったまま後ろにいるキリを振り返った。
「じゃあ、いただきます」
読んでいただきありがとうございました! (^_^)/~