【DX#3】日本企業のDXを阻害する、年功序列という呪いの話
日本企業の現状とDXの必要性
日本の企業文化は、長きにわたり上下関係や年功序列を重視する「タテ型社会」の影響を色濃く受けてきました。この垂直的な構造は、意思決定の遅れや新しい取り組みへの抵抗など、企業活動における種々の非効率を生み出す一因ともなってきました。一方で、ビジネス環境をとりまくグローバル化の波は、日本企業に対しても大きな影響を及ぼしています。
また、デジタル化の進展に伴い、ビジネスモデルの変革やイノベーションの加速が求められる時代を迎えています。こうした状況下で、日本企業がグローバル市場での競争力を維持・向上させるためには、デジタルトランスフォーメーション(DX)への挑戦が不可欠となっています。
DXとは、デジタル技術を活用して製品・サービス、ビジネスプロセス、組織・文化の変革を遂げることを指します。単なるIT化とは異なり、企業の根幹に関わる大変革が求められているのです。
しかしながら、日本の企業文化の特質は、こうしたDXの大きな動きを妨げる大きな壁ともなり得ます。タテ型社会に根差した発想や制度は、スピーディーな意思決定やイノベーションの芽を摘んでしまう恐れがあるのです。
日本企業が生き残りを賭けた変革を成し遂げるには、旧来の価値観からの決別が必要不可欠なのかもしれません。
タテ型社会の影響
日本の企業文化において、上下関係や年功序列を重視する「タテ型社会」の影響は看過できないものがあります。上座・下座の概念や、年長者への遠慮など、こうした価値観は企業活動の場に色濃く反映されてきました。その最たる例が、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントの横行です。
上下関係を重んじる企業文化の中で、上長や年長者による不適切な言動はたびたび看過されてきました。被害者が泣を見せれば、「上司を逆らうな」と一蹴され、問題の本質が覆い隠されがちでした。加えて、経営の世襲も大きな問題となっています。後継者の実力に関わらず、オーナー家族の次男坊主に経営権が渡るケースは少なくありません。優秀な役員人材が適切に登用されないばかりか、実力主義に反する人事は、社員の就労意欲を低下させる恐れがあります。さらに、タテ型社会は、企業の非効率性や生産性の低下にもつながりかねません。部下は上司の示した方針に盲従するため、現場発の合理化案が生み出されにくくなります。また、部門間で縦割り意識が強く、部署を超えた知の共有が難しくなり、新たな付加価値の創造が滞りがちです。
近年、日本企業は海外企業とのグローバル競争に晒されていますが、こうしたタテ型社会ゆえの非効率性が、競争力の足かせとなっているのかもしれません。
ダイバーシティの欠如も問題です。年功序列が残る企業で女性役員は少なく、活力ある組織風土の実現を阻害しています。多様な視点を取り入れることなく、斬新なイノベーションは望めません。
DXの障壁となる日本特有の問題点
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術を浸透させ、製品・サービス、ビジネスプロセス、組織・文化を根底から変革することを指します。日本においても、DX推進の重要性は理解されつつありますが、その実現には企業文化の特質による課題があります。最大の障壁となるのが、タテ型社会構造に根差した問題です。主に上意下達の意思決定スタイルが、DXの妨げとなっています。デジタル時代に求められるスピーディーな意思決定は難しく、新規事業の立ち上げなどで重大な機会損失を被るリスクがあります。
また、部門間の縦割り意識も大きな障害になっています。従来の組織分断的な業務態勢では、デジタル技術を活用した部門横断的な取り組みは事実上不可能です。データの活用や業務改革を進めるにも、障壁が多く立ちはだかります。加えて、年功序列に基づく昇進制度が、デジタル人材の確保と育成にとって大きなネックとなっています。IT企業などでは即戦力のある若手人材を積極的に登用しますが、日本の多くの企業では年功序列により能力本位の登用が難しく、デジタル人材の流出を招く恐れもあります。
新卒一括採用の慣行も障壁の1つです。マインドセットの異なる複数の年齢層が入社するため、デジタル組織文化の根付きにくくなります。イノベーションを阻害する古い発想の残存も避けられません。
さらに、上長への遠慮の文化も課題です。部下が上長の指示に従属する企業文化では、現場での創意工夫を生かしにくくなります。部署をまたいだデジタル改革の提案も難しくなり、イノベーションが起こりづらくなります。
変革への道
デジタル化の波に乗り遅れまいと、日本の多くの企業がDX推進に注力しています。しかし、旧態依然のタテ型社会構造が、DXの最大の障壁となっていることは間違いありません。真の変革を成し遂げるには、この構造からの決別が不可欠なのです。
まず、年功序列の解体が急務です。能力主義への転換なくしては、優秀な人材の積極登用や公正な人事は望めません。デジタル化に不可欠な即戦力の確保が難しく、DXは遅れに遅れがちです。また、若手のデジタル人材の就職口を増やすためにも、年功序列の見直しは重要な課題となります。
次に、部署を横断したプロジェクト推進が欠かせません。タテ型社会に根付く部門間の縦割り意識を打破し、部署の壁を越えたコラボレーションを促進する必要があります。デジタル技術の効果的な活用には、データの部署間共有や業務改革の横串を通すことが不可欠です。
さらに、上長への遠慮の文化からの脱却も重要です。現場の創意工夫やボトムアップの声を生かさずしてDXは成り立ちません。デジタル変革には、現場主導型のアプローチが欠かせません。経営陣は、従業員一人ひとりの発言を尊重し、失敗を許容する組織風土の醸成に努める必要があります。
こうした取り組みを通じて、タテ型社会の弊害から脱却し、デジタル時代に相応しいフラットな組織へと変貌を遂げることが可能になります。トップのリーダーシップと従業員の意識改革が不可欠です。経営陣は、デジタル変革に向けた明確なビジョンを示し、組織を主導していく必要があります。
一方で、従業員一人ひとりも旧態依然の価値観から脱却し、デジタル時代の変化に積極的に適応する姿勢が求められます。
DX成功事例と教訓
近年、デジタルトランスフォーメーションに成功し、変革を果たした企業が国内外で増えています。これらの企業に共通するのが、従来の企業文化からの決別と、新しい組織・ビジネスモデルへの転換を実現したことです。
彼らの実例から、日本企業が学ぶべき教訓は多くあります。海外で成功を収めた例としては、米国の小売り大手ウォルマートがあげられます。同社は約10年前から本格的にデジタル化に着手。膨大な在庫データの解析を通じて需要予測の精度を高め、サプライチェーン改革を実現しました。さらに、店舗とECサイトを連動させ、統合したオムニチャネル戦略でシェア拡大に成功しています。
デジタル化の流れに乗り遅れた企業はすばやく淘汰される一方、大胆にビジネスモデルを変革した企業は勝ち残っています。例えば、音楽業界のスポティファイやビデオ配信のネットフリックスなどが、伝統的なビジネスを破壊する立場にありました。
日本国内でも、世界に先駆けデジタル変革に果敢に取り組んだ企業があります。パナソニックは、コスト削減のためERP(全社業務システム)を刷新。
その過程で、業務フローの見直しと共有データベースの活用を実現したほか、組織の役割や報酬制度の変革にも着手しているといいます。
東京海上ホールディングスは、IT企業から副社長を招聘し、デジタル変革担当の専任役員を設置するなど、デジタル化を全社横断で推進。新バリュー創造を支える「デジタル・つくる責任者」の役職も新設しました。デジタル企業に追随を許さない体制を築き上げています。
企業による実例からも明らかなように、DXの成功には組織変革が必須です。単にITを導入するだけでは不十分で、組織とプロセス、従業員の意識改革まで踏み込まなければなりません。そのためには、経営陣のリーダーシップの下、適切な戦略策定と実行が欠かせません。
日本企業の未来への道
グローバル市場での激しい競争に晒される中、デジタル化への対応が日本企業の生き残りをかけた最重要課題となっています。しかしながら、これまでの分析からも明らかなように、DXを阻む大きな障壁が日本の企業文化の中に存在しています。タテ型社会に根付く価値観は、スピーディーな意思決定を阻害し、イノベーションの芽を摘んでしまいます。部門間の縦割り意識は、部署横断的な取り組みを困難にします。年功序列は、デジタル人材の確保と育成を難しくしてしまうのです。こうした旧態依然の価値観からの決別なくして、DXの完全な実現は望めません。まずは経営陣の英断ある決意が必要不可欠です。デジタル化への取り組みを経営の最重要課題と位置付け、自らリーダーシップを発揮し、全社をけん引していく必要があります。同時に従業員一人ひとりの意識改革も不可欠です。上長への遠慮の文化から脱却し、現場主導のイノベーションを起こすことが求められます。経営陣はこうした文化の醸成に努めなければなりません。失敗の許容や創意工夫への報酬付与など、従業員のモチベーション向上策も講じる必要があるでしょう。
さらに、年功序列の解体とデジタル人材の積極登用、部署を横断したプロジェクトの推進など、組織変革に向けた具体的な施策にも着手する必要があります。デジタル化に適した組織風土の構築に向け、施策の立案と着実な実行を図ることが重要です。日本企業が、タテ型社会という旧弊から脱却し、デジタル時代の潮流に順応できれば、競争力の回復とさらなる成長が十分に期待できます。グローバル市場での活躍の場は広がるでしょう。しかし、その先にある光明を掴み取るには、経営陣とすべての従業員が、意識改革と実行に向けて果敢に挑戦し続けなければなりません。日本企業再興への道は決して平坦ではありませんが、そこには日本の未来が賭けられているのです。