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【DX#41】アメリカ小売業におけるリテールテック視察はマインドを重視せよ

 筆者は長年アメリカ現地視察のツアーを行っておりますが、アメリカの小売業におけるDXやリテールテックの進化は、私たち日本小売業にとっても学ぶべき多くの示唆を含んでいます。しかし、こうした観察や視察をする際に「成功しているかどうか?」という視点だけにとらわれてしまうのは、往々にしてもったいないことです。むしろ、その過程や企業がリテールテックをどのように捉え、取り組んでいるのか、そこに宿る「マインド」に注目することこそが、現地視察から最大限の学びを得るための鍵となります。

①なぜ「成功」への執着がリテールテック理解の妨げになるのか?

 成功を追い求めること自体は悪いことではありません。しかし、「この技術は本当に成功しているのか?」といった即時的な判断を急ぐことは、複雑なリテールテックの全貌を見誤ることにつながります。テクノロジーの導入は往々にして試行錯誤を伴い、その効果が完全に現れるまでには時間がかかるものです。特に、顧客体験や物流、バックオフィスの効率化といった多岐にわたる分野で技術革新が進んでいる小売業界では、あるプロジェクトが成功するかどうかを短期的に評価することは難しいです。アメリカの小売業が実施しているリテールテックの取り組みは、まだ途中段階であることが多いのです。

②プロセスから学ぶことの価値

 リテールテックにおいて注目すべきは、アメリカの小売業者たちが新しい技術をどのように導入し、運用の中で改善しているかという「プロセス」です。たとえば、AIを活用した顧客データ分析の取り組みでは、どのデータを優先的に集めるべきか、またどうやってプライバシー保護と利便性を両立するかといった試行錯誤が見られます。このようなプロセスには、すぐに成果が出ない中で技術を育てる姿勢や、顧客を中心に据えた設計への配慮が感じられます。

 また、リテールテックの導入は単なる効率化や売上向上だけでなく、従業員の働きやすさや企業全体の持続可能性も視野に入れた包括的なものである場合も多くあります。こうしたプロセスの中から、日本の小売業が参考にできるアプローチが数多く見出されるのです。

③マインドに注目することの重要性

 アメリカの小売業者がリテールテックに取り組む際には、「実験的な姿勢」「変化を楽しむマインド」「失敗を恐れない文化」が根底にあります。例えば、WalmartやTargetなどの大手小売チェーンは、テクノロジー導入の成功を即座に求めるのではなく、試行錯誤を繰り返しながら市場に適応する姿勢を大切にしています。また、業務の一環として小規模な実証実験を行い、改善を積み重ねている企業も少なくありません。このようなマインドセットが、リテールテックの革新を支える重要な土壌となっているのです。

④視察を通じて得られる本質的な学び

 アメリカのリテールテック視察で得られる最大の学びは、特定の技術が「成功したか否か」ではなく、彼らがいかにして未来を見据え、持続的な発展を目指しているかという姿勢です。新しいテクノロジーを積極的に導入する中で、失敗も含めた経験を活かし、次の一手を模索し続ける企業文化から、私たちも多くを学ぶことができるでしょう。

 これからの日本の小売業がアメリカのリテールテックを見習う上で大切なのは、結果に焦点を当てることではなく、その過程を理解し、学び取ることであり、その背後にある「マインド」をいかにして自社に取り入れるかという視点を持つことです。

余談

 日本小売業者に対し、アメリカのDX成功事例や取り組み内容をレクチャーすると決まって返ってくる質問は「このサービスは成功しているんですか?」が圧倒的に多い事実があります。進化をしようとしているという過程こそが大切であることをこれからも発信してまいります。

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