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【連載小説】トリプルムーン 12/39


赤い月、青い月、緑の月
それぞれの月が浮かぶ異なる世界を、
真っ直ぐな足取りで彷徨い続けている。

世界の仕組みを何も知らない無垢な俺は、
真実を知る彼女の気持ちに、
少しでも辿り着くことが出来るのだろうか?

青春文学パラレルストーリー「トリプルムーン」全39話
1話~31話・・・無料
32話~39話・・・各話100円
マガジン・・・(32話掲載以降:600円) 

※第1話はこちら※


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***第12話***

 暗闇の中で俺はひとり立ち尽くし、上も下もなくどこかへと移動しながら、どこへも辿り着けずにぼんやりと佇んでいた。
 暗闇の中に立っているのか、浮かんでいるのか、飛んでいるのか、それすらも分からない虚無の中に俺はいた。

 恐怖や不安の気持ちが湧き上がらないほどに何もなく、深くも浅くもなく、重くも軽くもないただの闇がそこにあるだけだった。

 暗いな?どうしてこんなところにいるんだろう?そう思った瞬間、俺の周りを取り囲むようにいくつもの鏡が立ち並び、闇の中に浮かぶ俺を無数の影分身でも作り出すように映し出した。

 鏡はまるで黄金比で柱を建て並べたパルテノン神殿のように、美しく均等に並んでいる。そこに歪みや紛れはなく、厳然たる秩序をもってそこに並び、何か強い意志を表明するかのように俺を映し出していた。

 どの鏡にも、平等に分け隔てなく俺は映し出されていた。しかし、暗闇の中に映る鏡の中の像は、俺であると同時に他の何者でもありえるように見えた。

 俺の顔が映っているようにも見えるし、誰の顔も映っていないようにも見えた。どの鏡を見ても、全て均等に像を結んでいるはずなのに、そのどれもが違った虚像を描き、無表情に俺のことを見つめている。


 試しに鏡の一つに手を伸ばそうとすると、どこからともなく流れ星が飛んできた。流れ星は真白な光を連れてきて、鏡の一つに正面からぶつかると、鏡は万華鏡のように無数の色を放ちながら粉々になって消えていった。

 別な鏡に手を伸ばそうとすると、また流れ星が飛んできて鏡とぶつかり、極彩色の輝きを放ちながらバラバラに砕け散って消えていった。
 そんな美しい現象を目の当たりにした時、俺はふと夜空に浮かぶ月のことを思った。


 そういえば月はどんな色だっただろう。確か、こんな綺麗な色をしていた気がする。


 そう思ったが、なぜだか俺は月の色が思い出せなかった。今まで幾度となく見上げた月の色が、なぜか遠い昔の記憶のように思い出すことが出来なかった。

 鏡に触れれば思い出せそうな気がする、鏡に触れなければ。そう思って目の前の鏡に手を伸ばし、飛んでくる流れ星よりも早く鏡に触れたとき、世界の均衡を保っていた何かが弾け飛んだ。


 辺り一面は白く染まり、未来が過去を追い越していくかのように、圧縮された全ての光が一気に俺の体を通り抜けて行った。




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