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【連載小説】トリプルムーン 13/39

赤い月、青い月、緑の月
それぞれの月が浮かぶ異なる世界を、
真っ直ぐな足取りで彷徨い続けている。

世界の仕組みを何も知らない無垢な俺は、
真実を知る彼女の気持ちに、
少しでも辿り着くことが出来るのだろうか?

青春文学パラレルストーリー「トリプルムーン」全39話
1話~31話・・・無料
32話~39話・・・各話100円
マガジン・・・(32話掲載以降:600円) 

※第1話はこちら※


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***第13話***


「もしもし、どうしたの?もしもし?」

「え、ああ、ごめん、もしもし、うん、」
「寝ぼけてるの?大丈夫?」


「ああ、いや、ごめん、起きてるよ、起きてる、大丈夫、おはよう。」
「おはよう、ごめんね、朝早くから電話して起こしちゃって。」


「ううん、いいんだよ、大丈夫だよ。どうしたんだ朝早くに電話なんて。」
「うん?だってほら、今日あなた誕生日でしょ、三十歳の。」


「えっ?誕生日?ああ、そっか、そう言えばそうだな、誕生日だ、三十歳の。」
「だから、一応おめでとうって言ってあげようかと思って。」


「おおそっか、ありがとな。」


 今日は俺の三十歳の誕生日だ。自分の年齢のことなど普段からまるで気にしていない俺は、電話口で彼女にそう言われるまで、そのことをすっかり忘れていた。
 何という事だろう、三十歳?俺が?というのが今の素直な心境だった。

 気付かないうちにカレンダーは順調に日々を進め、いつの間にかそんな人生の節目となる三十回目の誕生日を迎えていたのだ。
 こんな何の取り柄もない冴えない独り身の男が、この歳になるまで無事にすくすくと成長できたかと思うと、感動と感激で胸がいっぱいになり、思わず大きなあくびが漏れ出した。

 とうとう俺にもこんな日が来たのだ。否が応でも現実を突きつけられ、なりたくもないのに大人の領域へと押し込まれていく、そんな窮屈で息苦しい年齢域へと足を踏み入れることになるこんな日が。


「よく覚えてたな、俺の誕生日。」
「それくらい覚えてるよ。私、あなたと同じで友達なんて他にいないんだから、忘れようがないでしょ?」


「そうか?そいつはありがたいな。出来ればこれから先も友達は増やさないで、俺の誕生日をずっと覚えていてほしいもんだな。」
「えー、まあ、別にそれでもいいかな?あなたも友達増やさないなら、そうしてあげてもいいよ。」


 彼女は俺の唯一の友達で、俺も彼女の唯一の友達だ。二年ほど前に知り合ってから、そんな少し変わったライトでドライな関係をずっと続けている。
 時々こうやって電話で話をしたり、食事に行ったり買い物に行ったり、野良猫に餌をやったりしながら仲の良い友人として付き合っている。

 こんな関係を続けていたら、周りの人間からは付き合ってるんだろう?と言われそうなものだが、有難いことにお互いそういうお節介を言ってくれる友達がいないので、俺たちは穏やかに友人関係を続けることが出来ている。


「俺に友達が増える予定はこれから先もなさそうだから、しばらく誕生日はお前に祝ってもらえるかもしれないな。」
「本当?じゃあ四十歳の誕生日までは続けてあげようかな、バースデーモーニングコール。」


「バースデーモーニングコール?世の中にそんな風習あったかな?絶対にお前がいま作っただろう、それ。まあいいか、なんにしても嬉しいよ、ありがとうな。」
「なんか今日はやけに素直だね、節目となる歳を迎えてちょっと大人になったのかな?」


「きっとそうだろうな。お前も三十歳の誕生日を迎える頃になれば、いやでも自分で実感できるようになるさ。」
「そうかなあ、私はそんなことにはならないと思うけど。その時には私の誕生日も祝ってくれる?」


「うん?そりゃあもちろん、世界中のみんなが友人の誕生日にはバースデーモーニングコールをするのが習わしなんだろ?俺だってそれくらいの常識はちゃんとわきまえてるからな、その日が来たらちゃんとお前にも祝いの言葉をかけてやるさ。」



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