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【連載小説】トリプルムーン 2/39

赤い月、青い月、緑の月
それぞれの月が浮かぶ異なる世界を、
真っ直ぐな足取りで彷徨い続けている。

世界の仕組みを何も知らない無垢な俺は、
真実を知る彼女の気持ちに、
少しでも辿り着くことが出来るのだろうか?

青春文学パラレルストーリー「トリプルムーン」全39話
1話~31話・・・無料
32話~39話・・・各話100円
マガジン・・・(32話掲載以降:600円) 

※第1話はこちら※


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***第2話***

 歳は俺より二つほど下だが、童顔のせいか実際の年齢よりもずっと幼い印象の顔立ちをしており、小学生や中学生に間違われることもよくある。

 彼女は人間があまり好きではないから、という理由で今まで男性と付き合いをしたことは無いらしい。友達だってろくにおらず、話し相手は近所の野良猫と自宅の観葉植物くらいと言っていた。

 製薬会社の研究室で働いている彼女は、数人の同僚たちと毎日が社会的引きこもりのような閉鎖的な環境で仕事をしているという。

もちろん人間嫌いの彼女にとっては、それは最高の職場環境という意味の褒め言葉らしい。俺もつまらない人間関係や上下関係などは苦手だから、その感覚は通いなれた自動改札をくぐるくらい容易に理解できた。

「告白ってことになるのかな?」

自分でその言葉を口にしてみて、思わず吹き出しそうになってしまった。
意中の女性に付き合ってくれと言うのだから、それは告白以外の何物でもないじゃないか。

自分で自分の鈍くささに気付くのは、これほどまでに滑稽なものかと思うほど、妙なおかしさが込み上げてきた。それと同時に、俺は彼女のことが好きなんだなと客観的に理解できた気がした。

 朝食はいつも通り薄っぺらいトーストと、薄味のブラックコーヒーだ。俺はバターを塗ったトーストを齧りながらコーヒーを飲み、もやもやとした気持ちの混じったため息をついた。

「そっか、俺あいつのことが好きなのか、そうだったんだ。」

 自分で自分の気持ちを口にするほど、気持ちは上の空になっていき、ポンコツで壊れかけたロボットみたいに体の挙動がぎくしゃくとしてきた。
 馬鹿みたいな独り言を呟き、ぎくしゃくとした動作で朝食を食べる俺を見て、窓辺のサボテンは呆れてそっぽを向きはじめている頃かもしれない。

 そうとは分かっていても、自分の気持ちに気付けば気付くほど、居ても立っても居られないそわそわした感情が、胸の中に次々と溢れかえってきた。
 少しでも気持ちを鎮めようとため息をついたが、そんな事をすればするほど頭と心のちぐはぐなバランスが浮き彫りになり、余計に落ち着かなくなるばかりだった。

「たしかあいつ、月が好きだったよな。今夜はちょうど満月だし、あいつのこと飯に誘って、月でも見ながら気持ちを伝えればいいかな。」

 我ながらなかなか悪くないアイディアだった。むしろ世俗を嫌う彼女にとっては、下手に小洒落たプランを立てるよりも、自然な形でのこのアプローチは、ほとんどベストとも言える選択かもしれない。
 そう確信を得たからにはすぐに行動に取り掛かろうと、俺は半ば反射的に携帯電話に手を伸ばした。電話をかけてみると、意外にも少ないコール音で彼女は電話に出た。俺は少し驚きながらも寝起きの彼女に声を掛けた。

「もしもし、おはよう。」
「ああ、うん、おはよう、、おお、まだ朝だねえ。」
「ああ、ごめんごめん、寝てた?」
「半分、、」

「ああ、そっか。なあ今日なんだけどさ、月がちょうど満月みたいだし、夜に飯でも食いに行って、そのまま海辺で月でも見に行かないか?」

「うん、?、月?、ふーん、、」
「今日は都合悪いか?」

少しの沈黙があった。

 沈黙というよりは彼女の思考タイムなのだろう。彼女が何かを考えている時は、ものすごい速度でモーターやタービンが回転しているような轟音が頭の中で鳴り響いているのかもしれない。
 それともまだ寝起きの彼女は、こっそり二度寝を始めようとしているのだろうか。

「いっつも夜空にはさあ、赤い月が浮かんでいるじゃない?」
「え、あ、ああ。そりゃあお月さまって言ったら、赤いよな。いつも」
「なんか、たまには別な色でもいいのに、って思うよね。」



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