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【レールに乗って】ラストマイル【どこまで行く?】

※ネタバレ感想

 待ちに待った『ラストマイル』を見てきました。公開日翌日の土曜日で、遅い回だったのですが、ほぼ満席。
 人気興行の悪いところで、後ろの客から適宜蹴られるわ、隣の客はしゃべるわで最悪でしたが、映画は最高でした!



前提条件①:2つのドラマについて

 脚本の出来が保障されている映画ほど、見るのに安心する映画はない。また、そこに出てくる役者の豪華さに心躍ることも嬉しい。この映画に出てくれて、本当にありがとうございます!!!っていう気持ちしかない。
 ドラマ『アンナチュナル』『MIU404』と世界観を同じくする映画である、という以外は事前情報を一切入れずに鑑賞。
 アンナチュはブルーレイボックスを買って何度もリピートするほどに大好きなのですが、MIUの方が肌が合わず、1~2話で挫折。その状態で見に行くべきか、かなり悩んだのですが──気付いたら、公開3日前に前売り券を買っていました。
 見に行って、めちゃくちゃよかったです!!
 超、超、超! 社会派映画!!

前提条件②:『アンナチュラル』に絡めて

 私は『アンナチュラル』を「お仕事ドラマ」と捉えています。
 法医学、警察、弁護士、検察、葬儀屋……さまざまな仕事に携わる人たちが、自分の仕事を全うする。その結果、一つの事件が解決する。
 逆に言えば、どこか一つでも、「自分の仕事を全う」しなければ、真実の解決に繋がらない。そういう構成を持ったドラマです。
 しかし、2話目にして、仕事にかまけて婚約を破棄されたミコトからわかるように、「仕事に熱中すること」は決して賛美される「だけ」ではない。それでも、主人公のミコトは、同僚の東海林と「休みがない」とぼやきつつも、目の前の「事件」があったら、そのためにプライベートを犠牲にして働く。その気概がある。UDIラボで働く人々は、誰もがそう。それは、倫理的にも正しいことである。だから、見ていて気持ちがいい。
 だが、それは本当に正しいことなのか?というのを、「ラストマイル」は投げてくる。

前提条件③:『MIU404』に絡めて

 1~2話で挫折したのに書くのかよ、という話ですが──そこで得られた情報を元に?
 視聴断念の理由は明確で、主人公陣の職業倫理に関することなのですが、……全話を見たら、印象も異なるのでしょうか? ちなみに、海外ドラマの『24』も無理で、1~2話切りした。
 刑事ドラマを『踊る大捜査線』で育った手前、「大事の前の小事」をないがしろにできないというか──事件解決のためなら、被疑者に加害していいの?と言われると、それは絶対にないし、多くの警官たちはそうした「制約」の中でストレスを抱えながらもどうにかしているわけで、やっぱ、看過できないなーっていうのが、断念理由ですね、明確な。主演の二人も好きなんだけどさぁ……。
 ただ、このドラマの入りである「第4機捜」という概念は、警察組織への、3部体制から4部体制という、労働環境改善の動きからのそれなので、めちゃくちゃ歓迎したいところではある。
 何となく、そうは言っても、「どうせ余った時間に自主的な捜査をするんだろうな」というのが予測できたので、もういいや、ってなってしまったんですよ。その辺が正解だったかはわからんけども。

本題:『ラストマイル』について

 結論から言うと、ギリギリのギリまで舟渡エレナは共犯者だと思っていた。ギリギリのギリというのは、終盤、五十嵐に「私たちは同じレールに乗っている」という台詞を聞くまで。
 筧まりかの自死すら、知らされてなかっただけで、彼女との出会いの後、思うところがあって協力者になっているのではないか、と考えていた。あの爆弾ですら、狂言なのかな、と。
 だって、五十嵐に、というか、本社に交渉するための材料を揃えるにしては、手際が良すぎるというか──まぁ、実際に優秀なのでしょうね、彼女は。いきなりのセンター長抜擢とか、その若さとか。。そのあたりの裏付けにもなる。
 「同じレール」──これ、かなり重いワードですね。このレールに乗って、どこまで行くのかな。という。それは、五十嵐にも、鍵を渡された梨本にも、ずっと付いて回ること。もっと言えば、その流通システムを使い続ける視聴者たる私たちにも返る問題。
 最後の最後に、センター長に指名された梨本が、息を吹き返すように、声を発する。一人、あのたくさん並んだロッカーの廊下で。──あの演出、どこかで見たような気がするんだけど、どこだったかな? 観測者から、当事者に代わった瞬間。
 そこから示される「ラストマイル」は、誰にも止めることはできない光の群れ……。

まとめ:令和版『蟹工船』ってこと?

 視聴者である私たちのほとんどは「労働者」である。同時に、それぞれの道の、それぞれの「専門家」でもある。
 しかし、だからこそ、人の生死に関わる「専門家」たちには、「倫理的行動」を求めてしまう。それが、当人たちに過剰な労働を強いるとしても。
 翻って言えば、「労働者」たる私たちも、またそれぞれの会社の理念によって、社会貢献に繋がるような、錯覚を抱かされている。だから、そのピースがうまくハマって叶えられたとき、その感動を含めたものを、「労働の単価」として見てしまいがちである。
 前提作品である『アンナチュラル』にも『MIU404』にも、その問題をはらんではいなかったか?
 アンナチュで言えば、しあわせのパンケーキの話などが今作に非常に近い。
 今回の映画を見て、じわじわと流通システムに関して思うところがある人が増えているようだ。Xとかでも言及している人を見る。けど、それって個人の意識(再配達を少なくしよう、とか)のレベルでどうにかなることなのか?という疑念が、私にはある。
 そもそも流通業界の問題だけの話ではない。このテーマを、先の2つのドラマと繋げた意味も大きいだろう。警察もその準組織たる法医学も、人手不足や労働問題を抱えている。けれど、人の命が、犯罪が、と言われたら、彼らは動くし、動くしかないような組織に身を置いている。流通業界だって、真っ先に医療関係の発注を優先した。根っこは同じではないか。
 ドラマの主たるメンバーの動きよりも、何徹もして現場にずっと立ち続けている刑事さんたちの方が、よほどに危ないものを感じた。レールの上にいるのは、彼らも同じでは?
 「ストライキ」という手段は大いに結構だが、公務員はその手を使えない。一度乗ったレールの上で、犠牲になるのは、それこそただの「物」ではなく、「人の命」になる可能性が高くなる。
 けれど、それすら飲み込んで、そのレールを止めろ、という話だろうか。いや、むしろ誰も「レールを止めろ」といえない話なのではないか? そして、そういうレールの上でしか成り立っていない社会の問題を指摘こそすれ、その解決策がまったく見えてこないのである。少なくとも、私には。
 最後の梨本の息継ぎには、その苦しさの共感があった。

最後に:惜しい、と思った点

 個人の経験則による印象なのだけど……「主要都市の流通センターが舞台」となった時点で、もっと外国籍労働者のことが出て来るのかな?と思った。一切なかったけど。
 そこが舞台となった時点で、それを使われるテロに関しては、国際問題に発展することなのでは? え、そんな話にまで広げるの──?と思っていたけど、外資に食い散らかされるだけの話で、結局は国内に留まったので、ちょっと拍子抜けした。
 実際にモデルした流通企業のシステムにどれだけ切り込んで取材したのかはわからないけれど、雑音多くなるからあえて入れなかったのかな?と思うほどに、あの日雇い派遣の人たち、日本人のエキストラしかいなかったよね?(中華系は顔の系統が似ているから、ぱっと見はわからないとしても)
 事態はもう少し複雑ではないか。日本が外資企業のシステムに食われていく話ではあったが、その子会社もまた別な国の外国人を食い物にしている。この構造は確実にあって、それを見て見ぬふりしていいのかな、と考えてしまった。

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