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【映画感想】スパイの妻【お見事!】

 新文芸坐での2本目。
 タイトルの「スパイ」が思っていたのと違う→意外とおもしろい!って印象の映画。

 「スパイ」ってのが、ちゃんと特命を受けての本職なのかと思いきや、「僕はコスモポリタンだ」とか言い出したときはどうしてやろうかと思った。が、妻の心変わりあたりから予測がつかなくなってきて、面白くなってきた。
 ところで旅館は四万温泉ですね。行ったことある場所だったのでニコニコしてしまった。

 「聡子」という女の愚かさを、蒼井優が見事に演じ切っている。高橋一生との演技合戦になるかと思いきや、彼女の圧勝ですよ。ちょっと鼻にかかったあの話し方が、下手な役者だと芝居がかって見えるけど、全然そんなことなく。あと当時のお衣装がとてもよくお似合いなので、これもニコニコしながら鑑賞。
 聡子がともかく愚かにまっすぐ、夫を愛する女で、本当にただそれだけ。その想いに疑いがまるでないから、旦那の留守に(幼馴染みと思われる、自分に想いを寄せる)男を「ウィスキー、飲みに来ません?」と無邪気に誘ったりもする…。
 最初、夫がやろうとしていることがわかって、「スパイではないですか!」と罵ったときの、聡子の「目の前の幸せのため」ならば多くの犠牲は構わない、という考え方。これは最後まで一貫して変わってないと思う。そして、彼女にとっての「幸せ」は夫のそばにいること。そのためなら、どんな犠牲も厭わない。可愛がっていた甥っ子をスケープゴートにする程度には。
 夫の真意がいまいち見えないのですが、最後のアレが「妻を思って」にはどうしても考えられない。だって、彼が大望を成し遂げたら、日本は危険地帯となるわけで、そこへ彼女を置き去りにしたのでしょう。フィルムが偽物でも密航の状況は明らかで、いくら知人、妻に懸想している軍人が調査に入ったとはいえ、拷問される可能性もあったわけで。結局、彼の計らいなのか、聡子が気狂い扱いされたからなのかはわかりませんが、五体満足で解放されたようですが。
 …いや、あわよくば、爪の一つでも剥いでもらえばいい、くらいのこと、思ってなかった? ねぇ? そこまで酷い男じゃない?
 満州から連れ帰った女との関係も、聡子はずっと疑っていた。甥っ子の方に気があったと夫は言うけれど、信用できず。しかし、最後にあなたの隣にいるのは私であればいいくらいの気持ちで、聡子は状況を勝ち誇ってすらいる。いや、その女、殺されてっからね?
 逃亡資金を貴金属に変えるくだりなんか、デートそのもので。とても幸福そうな聡子が哀れに見える。
 君は見ていないからわからない、と夫は妻を最初に見限った。フィルムを見ても、それは「本物」ではない。彼らの趣味は映画を撮ることで、フィルムを通したそれが虚構に過ぎないことをよく理解しているだろう。
 だから、夫は妻に「本物」を見せようとしたのではないか?
 おまえが「目の前の幸せ」のために犠牲にしてもいいといった実態を、その目で見ろ、と。
 亡命に際し、拷問される可能性があった。
 戦火に巻き込まれる可能性が高い日本に置いていった。
 この二つだけで、夫の真意を問うなら、それしかないと思うんだけど、聡子は愚直に彼を愛するので、かまやしないんですよ。その可能性には気付かないのです。
 戦後、アメリカに渡ったというオチがつくけど、「サンフランシスコ(だったか、ロスだったか忘れたが)で会おう」の約束を信じて旅だったんでしょうね、彼女は。
 夫婦の騙し合いというか、すれ違いというか、そういう読み方をしてしまう映画でした。

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