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「ヘルプマーク」を取得するきっかけとなった、割り込みおばあさんとの会話を振り返る
「人を見た目だけで判断しないでください」
咄嗟に出た言葉だった。
少しとがった言い方だったなと、今は反省している。
バス停で割り込んできたおばあさんとの会話で、わたしはヘルプマークを身につけようと決めた。
その経緯を、ここで話してみたいと思う。
━━ショッピングセンターで買い物を済ませたわたしは、足早にバス停へ向かっていた。
乗ろうとしているバスは毎便、乗車率が高い。
バスが発車するギリギリにバス停に向かったため、すでにバスを待っている人が15人ほどずらっと並んでいた。
ショッピングセンター内にまで列が続いており、わたしは最後尾に並び、間に合ったなとひと息ついた。
定刻から数分おくれて、帰路に着くためのバスが到着したようだ。
少しずつバスを待つ人の列が前へ進んでいくのがわかる。
そのとき、一人のおばあさんがわたしの右腕を押してきた。
明らかに横入りしようとしているのがわかる押しのけ方だ。
70代くらいに見える、猫背で華奢なおばあさん。席に座りたくて急いでいるのはわかった。
「みんな順番を守って並んでいますよ」
わたしはおばあさんに、割り込みせず後ろに並んでほしかったので事実を伝えて理解を求めた。
ところがおばあさんは、食い下がってくる。
「年寄りだから座らないとたいへんなんだよ」
確かこんなことを言ってきた。
(わたしだって、両手に袋を携えてしんどい。早く帰りたいし、あわよくば座席に座りたいよ)。
「座りたい気持ちは、みんな一緒だと思いますよ。わたしも座りたいですし」
なるべく角が立たないように、わたしはやさしく伝えたつもりだった。
しかしなお、おばあさんはわたしの前に並ぼうとしたので、思わずおばあさんの腕をギュッと掴んでしまう。
次に発せられたおばあさんの一言に、わたしの心はざわついた。
「あんたみたいに若いもんは良いじゃないか、体力もあって」
これまでわたしは、淡々と会話をしていたつもりだった。
けれど瞬間的に言葉をコントロールできなくなり言い返してしまう。
「人を見た目だけで判断しないでください」
わたしが語気を強めてこう言うと、おばあさんはやっとわたしの後ろに並んでくれた。
・・・
わたしは強度のHSPで混雑した場面が大の苦手だ。過呼吸を起こすこともまれにある。
それに加え、10年前に軽度の自閉スペクトラム症(ASD)と診断もされている。
国が難病に指定しているミトコンドリア病でもあり、人より筋肉が衰えているため疲れやすいのだ。
本当はおばあさんに、わたしの現状を伝えたかった。
でも、マウントを取るようで気が引けた。
だから言わなかった。
バスには乗れたが、わたしは降車するときまで立ったまま。
おばあさんは、後ろのほうに座れたのだろうか?あのときは気にかけるほど気持ちに余裕はなかった。
翌日も「バス停」の一件がぐるぐると頭をめぐり、おばあさんの腕を掴んで割り込みを阻止したことの反省と、きつい言葉がけの言い換えを考えていた。
明確な答えは出なかったけれど、「ヘルプマーク」の存在を思い出した。
ヘルプマークを身につけていれば、自分の振る舞い方も変わったのではないかと思うようになる。
ヘルプマークについて調べてみると、わたしも手に入れられることがわかった。
【ヘルプマーク・ヘルプカードの配布について】
・配布対象
身体障がい、知的障がい、発達障がいのある方(障害者手帳の有無は問いません)。
わたしの場合は、発達障がいに該当する。
ヘルプマークの詳細は、下記のリンクから確認してみてほしい。
各自治体で取得方法が異なるかもしれないので、「ヘルプマーク 〇〇(自治体名)」で検索してみることをおすすめする。
・・・
彼にも、ヘルプマークを取得したことを報告した。
彼の職場で、勤務中もヘルプマークをつけている人がいて、周りの社員はその人に配慮することができたと教えてくれた。
彼は、わたしがヘルプマークをつけることにも賛成してくれた。
今までは、空気を読んでお年寄りを最優先する文化が強いと思っていたが、ヘルプマークを手にした今、そんなことはないのかなと思うようになった。
さあ、わたしには強力なお守りがある。
激混みのバスは、1本バスを見送ったり途中で下車したりするわたし。
明日からは、お守りの力で公共交通機関も乗りやすくなるだろうか。
あの日、おばあさんが列に割り込もうとしてきたことがきっかけでヘルプマークに辿り着いた。
おばあさんの顔も声も覚えていないけれど、感謝したい。
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