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小さな宅配弁当屋の裏事情  【職場体験シリーズ】

独り暮らしの高齢老人宅に 毎週 月曜日と水曜日、そして金曜日の三回  ¥420/食「おかず、ご飯、味噌ペースト小袋」を 昼食として届けていると… 毎回、家の中から弱々し声で「……???」と、うめき声的な声音が聞こえて来る。
その挨拶の様な話をしている のを 聞き耳たてて 確認すると…その宅配担当の方は 「じゃあ、大丈夫ですねぇ…」って、必ず声掛けしてから その弁当のセットを玄関奥の踏み板に そっと静かに置き、前回 配達した弁当セットの空箱を回収して来ていると、 … 仕事上の事情話を聞かされていたところで、 宅食業界の ある小さな宅配弁当屋の現実に興味深々になり、今回の配達に同行させて貰う事にした。

次のお届け先は、古びた昭和六十年頃から大型ダンプや小型 中型重機を含むディーゼルエンジン系車輌の修理をする工場(こうば)で働いている七十代の老人に届けると言うので 更なる好奇心から ぴったり連らなる様に乗用車で追従した。

そこは街中の細い砂利道を少し入った奥にある工場(こうば)で、全体的に錆と油の染み着いた臭いがする薄暗い建屋だった。

ワンセット¥420/昼食弁当を二つ持って建屋の入口脇にある急で狭い階段を一気に二階建て分まで駆け上がると…工場の様相を更にコンパクトにした様な小さな事務所兼休憩室があった。

余りの混雑した物で溢れかえっている薄暗い部屋の中に独り暮らしサイズのツゥードア型 冷蔵庫があり、その上に毎日届く御飯の入ったプラスチックの容器が重ねると4つから6つ入りそうなホットBOX(電気式)が置いてあったのだ。

当然の様に部屋の中も床も埃と油で汚れきっている。

先に入った宅配担当の方に遅れて部屋の中に入って直ぐに…「ダメ、駄目」と注意される。

土禁だったのだ。
別に海外生活を経験したからでは無いのだが…少し登りきった階段の狭い踊場から一段上がった位で部屋の床も区別が見た目で気付かない位に黒いので…私は靴を脱ぐ必要を全く感じなかったのだ。

そこで宅配担当の方が言うには…以前、いちいち靴を脱ぐ時間が惜しくて、そのまま入って弁当の御飯と おかずの入った容器をそれぞれ決まった場所に入れ置いて さっさと 配達車両に戻る所を見られていて…酷く叱られた経験談 を聞かされたのだ。

つまり、工場で働く老人達にしてみたら明確に 外と中(内側)の違いを感じているので許せなかったのだ。

更に次の宅配先にも お邪魔してみた。
なぜなら、この続きが更に気になったからである…

いったい、日本社会が高齢化と言われて久しいが…この生々しい実体験は私なりに見逃せない気が強くして来たからである。

そんな思いをしながら更に着いた同行先は加工木材を使って木枠や木組みの壁の様な襖の大型化した様な感じの製品を作っている 工場(こうば)で 初老社長と初老パート社員一名がフォークリフトを狭い敷地内で動かしながら、一方でエアーガンの様な釘撃ち機を使って「ガシッ、ガシッ…」と作業をしていたので…ちょっと調子に乗って「こんにちは…」と声を掛けて見ると…なにやら異物を見るように二人から見つめられました。

そんな様子を気にすることもなく宅配担当の方が そそくさと弁当セットを置いて帰ろうとすると…
社長が近くに寄ってきて「お前んとこの社長は変わっているのぉ…」と言い出したのだ。

以前、何か社長同士でトラブルがあった様な感じの話を宅配担当の方にされているのだが…早く、その場を離れたそうにしている宅配担当の方を助ける意味で…「そうなんですが…その社長も最近また入院してて…もうそんなに長くは…だから…」と割って話すと…その社長は急に口を止め作業場に戻って行かれました。

この話は全く嘘では無いのだが…少し先方にはショックだった様な感じがした。
なんだかんだ長年の付き合いの為だろうか…わからないが…

そんな感じて次を急ごうとする宅配担当の方から…「すみませんが今日はここまでで…」と言われました。

なるほど…お昼までに配達し終わらなければ成らない配達先を考えると残り時間が足りなくなって困って来た感じなのである。

ある意味、この世には様々な宅配サービスが存在しているが…毎日の配達ルートが決まっていて、尚且つ配達先の件数が多いと…タイムリミットの12:00までに届けるには立ち止まって話をする数分、いや数秒の積み重ねが 致命傷の前のボディブローの様に効いてくるので…この辺りが限界と考えて言って来たのだ。

毎日が同じ様で同じでない道路事情や天候にドキドキしながら、信号待ちとスピード違反ギリギリを攻めて車を走らせているハラハラした彼らの様子が理解できたところで同行を諦めた。

あらためて感想を述べるとしたら…現代社会が更なるコンピューター化されたシステムへと向かう中で…
安い年金問題と安い人件費での人手不足を補えない孫請工場の人々達には…一食¥420/御飯、おかず、味噌ペースト小袋のセットの宅配サービス付きランチ弁当は大変ありがたい タイムリー サービスなので有る。

今回の同行先を見ても近くにセブンイレブンやLAWSONの様なコンビニも無い所で…老人や工場(こうば)で働く方には時間の節約以上の価値が420円の弁当に隠されているのであった。

つまり、ハイテク作業について行けない高齢者の人々に まだまだ働ける場を残していられるのも、この420円の弁当の力である。

また、取材や新しい事があれば…書きたく成る様な題材です。


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