鋼こむらがえり【毎週ショートショートnote】
「アンドロイドの心得その一、『主人には嘘偽りをしない』。さあ、本日の報告を頼むよ」
「はい、マスター。私、こむらがえりを起こしました」
「ほう、面白い冗談を言えるようになったじゃないか、ずいぶん成長したな」
「いえ、マスター、冗談ではありません。判別し難いと思われますが、まさに外見には出ないのに痛みがあるという点で、こむらがえりの症状と推察されます」
「痛いって?」
痛覚は身体の異常を感知する重要な機能だ。だから、アンドロイドの鋼鉄のボディにも搭載している。……でも、こむらがえりとは。
「どう痛むんだ?」
「はい。……その、マスターのことを考えると、胸がピリッと引き攣るように痛くなるんです」
それは、こむらがえりじゃなくて――
言いかけて口をつぐむ。アンドロイドの心得その三、『常に公平であれ。特定の人間に特定の感情を差し向けてはならない』。そう、たとえ主人に対してでも。
私は咳払いをした。
「それは――間違いなくこむらがえりだね」