私のなかの「小さな私」
何度も何度もユウヤを手放し続けた結果、執着が少しずつ薄れ、空っぽになった私。そしてこの辺りからは、私のなかの、傷ついた「小さな私」にアプローチするプロセスへと移っていきます。
■とても怒っていた「私の内なる子ども」
何度目かのカウンセリングの日。
「なんだか心にぽっかり穴が開いたみたいで、何もやる気がおきません」。
そう言って途方に暮れる私に、カウンセラーのⅯさんはこう言いました。
「これまで心の大半を占めていた彼への執着が薄れたので、その部分がいま、空っぽになっているんだと思います。でも大丈夫です。そこにはまた新しいものが入ってきますから」。
☆
この辺りから、私のカウンセリングは、私が置いてけぼりにしていた私自身、心理学用語でいう「インナーチャイルド」を扱うフェーズに入っていきました。
「インナーチャイルド」とは、
幼少期のトラウマや記憶の象徴、
内なる子ども
などと呼ばれるものです。
この「インナーチャイルド」は誰の心のなかにもいて、
この子が傷ついたままでいると、
大人になってからも様々な場面で影響を及ぼすといわれています。
☆
Ⅿさんは、カウンセリングのなかで、私の「インナーチャイルド」にアプローチすべく、イメージワークを行ってくれました。
「目をつぶって、6畳くらいの部屋に、
子どもの天宮さんがいるのをイメージしてみてください」。
そう言われて私がイメージしたのは、
とてもとても暗い部屋でした。
そこにいた女の子の年齢は、4歳か5歳くらい。
部屋の隅っこで、身動きひとつせず、体育座りをしています。
Ⅿさんの誘導でその部屋に入った私は、
少しずつその子に近づいて、
こう話しかけてみました。
「何か悲しいことがあったの?」
「何かに怒っているの?」
でも、その子はうつむいたまま、何も答えません。
あまりに悲しそうなその姿に、近づいて頭を撫でてあげたい気持ちになりましたが、
……できませんでした。
その子に、全身で拒絶されているような感覚だったのです。
その子は、
怒って、悲しんで、絶望しているように見えました。
私はそのことを、Ⅿさんに伝えます。
するとⅯさんは、こう言いました。
「それでは、無理に近づくのはやめましょう。
その子が許してくれる距離で、
ただじっと、そばにいてあげてください」。
私はⅯさんのいうとおり、その子から少し離れた場所に座り
ただじっと、その子のことを見つめていました。
この子は、私です。
私の中にずっといた、私自身です。
Ⅿさんは、
「その子を見て、天宮さんはいまどんな気持ちですか?」
と聞いてくれました。
「ずっとほったらかしにしていてごめんね。
見てあげなくてごめんね」
って思います。
そう答えた瞬間、
なんだかぽろぽろと涙が出てきました。
その子が泣いているのか、
大人になっている私が泣いているのかわからない、
不思議な感覚です。
しばらく泣いていたら、
目の前にいるその子が
少しだけ顔を上げたような気がしました。
そして
「気づいてくれてありがとう」
と、小さな声で言ったような気がしたのです。
私はおそるおそるその子に近づき
そっとその子の頭を撫でました。
しばらくそうしていると、
その子の心が、ほんの少しだけ
ほぐれたような気がしました。
☆
ワークが終わったあと、Ⅿさんはこう言いました。
「今日から少しずつでいいので、その子と会話をしてみてください。
何が食べたいのか、何を飲みたいのか
何がしたいのか……。なんでもいいです。
とにかく、その子の声を聴いてあげてください」。
そして、この日から私は、
私のなかにいる「内なる子」
との会話を始めることになります。
しかし、これは決して簡単なことではありませんでした。