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おまえの胸にもラブハート:『突撃ラブハート』が現実になった回【マクロス7】

※テレビアニメ版『マクロス7』のネタバレを一部含みます
※『マクロス7<TV未放映話>3話』の内容を多分に含みます
※アニメのスクリーンショットが大量に掲載されています






マクロスシリーズを淡々と見続けて早数か月。全49話+TV未放映話3話という物量から見て見ぬふりをしていた『マクロス7』に手を出し、昨日ようやく49話まで見終わった。まぁこんなもんか、ここからは消化試合と、TV未放映話を見始めること3話、あり得ないほど泣いた。それは、感動の涙でも、感傷の涙でもない。ただ嬉しさ故の涙がとめどなく流れた




マクロスシリーズの異色作『マクロス7』

『マクロス7』は1994年から1995年にかけて放映されたマクロスシリーズの3作目にあたるアニメ作品だ(同時に『マクロスプラス』も94年から95年にかけてOVAとして発売されている)。

マクロスといえば、『超時空要塞マクロス』のリン・ミンメイや、『マクロスF』のランカ・リー、シェリル・ノームに代表されるように、美少女が歌を歌うことで戦争を終結させるロボット戦争もののアニメシリーズだ。とりわけマクロスシリーズの初代『超時空要塞マクロス』のミンメイが与えた影響は大きく、文化を知らない異星人に歌を聴かせ、カルチャーショックを与える戦法は「ミンメイ・アタック」として広く知れ渡るようになる。

リン・ミンメイ
『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』
左:シェリル・ノーム 右:ランカ・リー
Amazonの『ライオン』のCDより

対して男は変形する戦闘機に搭乗し、平和を脅かす敵と戦う。いつの時代も歌姫たちはパイロットに恋をし、愛する人々を守るために宇宙へ飛び立ち、歌を歌う。

パイロット
『 劇場版 マクロスF 虚空歌姫〜イツワリノウタヒメ〜』

マクロスと言えば「歌」「メカ」「三角関係」であり、3作目の『マクロス7』も当然その慣習を踏襲している。そこでマクロス7における歌姫がだれかというと


Youtubeのマクロス公式chより

彼である。


3作目にして早くも「歌姫」をやめ、ロックに生きる青年・熱気バサラが戦闘機に乗り、宇宙にとび立ち、歌を歌う。それどころか熱気バサラは決して敵を傷つけようとしない。そもそも、彼にとっては「敵」という存在そのものが無い。みなが「敵」と呼ぶそれは、バサラにとって「まだ俺の歌を聴いていないやつら」でしかなく、バサラは自分の歌を聴けばどんな生物でも(それが人間であるか、言葉が通じるかに関わらず)戦うことをやめ、音楽に身を委ねると強く信じている。

宇宙で歌うバサラ
『マクロス7』3話

信じられないことにバサラは自前の戦闘機(バルキリー)に搭乗して宇宙にとび立ち、ミサイルではなくスピーカーを相手の機体に射出し、敵味方問わず無理やり自分の歌を聴かせる。当然敵からしたら意味不明で地球人からしても意味不明なので一部の彼のファンを除いて全員から煙たがられる。テレビアニメ版2話にして地球人の有能パイロット・ガムリン(cv 子安武人)からも

「貴様は軍の邪魔をしているのになぜ逮捕されない!?」
(\もうそいつに構うな!/)
「応答しろ!なんのつもりだ!」
「応答しろ!なぜ歌う!」
「応答しろ!」
「なんのために歌っているんだ!!」
「応答しろ!!」
「答えろと…言っているんだー!!!」
「なぜ歌うーーーーー!!!!!!!!!」


とあり得ないほど激詰めされるがその全てを無視して敵の攻撃を避けつつ歌い続ける。


\なぜ歌うーーーーーーーーーーー!!!!!/

なぜ歌うのか知りたいガムリン
『マクロス7』2話

バサラが頑なに戦闘を行おうとせずに、一級の操縦技術を持ちながらわざわざ宇宙まで行って歌を歌うのはひとえに歌で戦いを辞めさせることができると信じているからに他ならないが、誰もその真意には気づかない。というか、気づいたところで相手にされない

しかし「プロトデビルン」というなんかあり得ないほど強い敵に歌が有効だと判明したことで転機が訪れる。統合軍はプロトデビルン(並びに洗脳されている敵兵士)に歌を聴かせ、ひるんでいる隙を付いて猛攻をかける作戦を実戦化するため、宇宙空間で歌を歌うために編隊されたバルキリー隊「サウンド・フォース」を結成する。バサラ、ならびに彼の所属するロックバンド「FIRE BOMBER」のメンバーがサウンド・フォースの搭乗員に選ばれたことで、バサラは遂に公的に敵勢力の前で歌を歌う機会を得る。

サウンド・フォース
『マクロス7』23話

統合軍の頭の中にあったのは35年前の星間戦争を歌で終結に導いたリン・ミンメイの姿だった。前述した「ミンメイ・アタック」は歌を知らない異星人たちに対する有効打としてはたらき、圧倒的な戦力差によって絶望的に思われた戦局を打破し、地球人を勝利に導いた。統合軍がバサラたちに期待したのはミンメイに相当するはたらきに違いがなかったが、最終的に敵を撃墜する作戦とガチガチに固められた軍規に納得のいかないバサラそもそも常識とか社会性とかそういうのも全然ないので幾度となく軍と衝突する。

ミンメイ・アタック
『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』

いくらかの人々の洗脳を解くことに成功し、何度かプロトデビルンを追い返すことに成功するサウンド・フォースだったが、根本的な解決には至らず、敵味方ともに儚く命が散っていく。一方で「俺は歌いたいときに歌うんだよ!」と我を通すバサラの姿に民衆は次第に感化されていく。先のパイロット・ガムリンも例外ではなく、2話で「答えろー!!なぜ歌うーーー!!!」と叫んでいたのに終盤は

「みんなーーーーーーー!!!バサラの歌を聴けーーーーーーーーーー!!!」
「なぜ聴かぬーーーーーーー!!!!なぜ聴こうとしないーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「バサラの歌をみんなに聴かせることが俺の役目なのかもしれない………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

とか言い出す。

バサラの歌をみんなに聴かせることに役目を見出したガムリン
『マクロス7』40話

最終回も間近、なんかあり得ないほど強い敵によって重症を負ったバサラは深い眠りについてしまう。バサラが眠っている間、当初は理解できなかったバサラの行動に反発をしていたFIRE BOMBERのベース兼ボーカル担当のミレーヌが、バサラの意志を継ぎ歌を歌った。ミレーヌの歌は「歌エネルギー」として蓄積され、なんか歌エネルギー使ってプロトデビルン撃退するために作った兵器的なやつの使用を可能にした。

ミレーヌ
『マクロス7』48話

しかし兵器的なやつの力だけでは敵を止めることはできず、人類の存続はバサラに託される。病室に集まり、ガムリンとかがなんか歌うことでなぞに目覚めたバサラの歌エネルギーによってなんか敵が欲しがってた人間の生命エネルギーみたいなの歌で自給自足できそうなことが判明して敵も味方もほどほどに生き残ってマクロス7は幕を閉じる。


TV未放映話こそ『マクロス7』の神髄である

ここまでがあらすじで、ここからが本題だ。

『超時空要塞マクロス』と『マクロス7』の共通点と相違点をみていこう。

超時空要塞ではいくらかの敵勢力が生き残り、地球人との共存を可能にしたが敵母艦の指揮官は地球人および寝返った敵勢力の一斉放射によって命を散らし戦争は終結を迎えた。マクロス7は敵勢力の指揮官に戦う理由がなくなったことで戦争が終結した。両者とも「歌で戦争を終結に導いた」ことに相違ないが、超時空要塞は敵を滅することで戦争を止めマクロス7ではそもそも戦争する理由を消滅させることで戦争を終わらせた。この違いは似ているようで大きい。なぜなら、熱気バサラが1話から最終話まで変わらず望んでいるのは、全ての生物が戦いではなく、音楽で関わりを持つようになることだからだ。

『マクロス7』49話

全3話のTV未放映話の第3話はミレーヌが「愛・おぼえていますか」を歌唱しているシーンからはじまる「愛・おぼえていますか」と言えば、リン・ミンメイが星間戦争終結の折に歌った曲のタイトルである。「愛・おぼえていますか」の起源は数万年以上昔に遡る。当時、異星人の街で流行った流行歌である「愛・おぼえていますか」は超時空要塞当時の技術で再生され、35年(それどころか続くマクロスシリーズで永続的に)経ったマクロス7の時代においても伝説の曲として歌い継がれている。

「愛・おぼえていますか」を歌うミレーヌ
『マクロス7<TV未放映話>』3話

そんな曲をマクロス7のヒロインであるミレーヌが歌っているということが何を意味しているか推察するのは容易い。『マクロスF』でランカ・リーが愛おぼを歌い継いでいるように、愛おぼの歌唱は端的にミンメイによって位置づけられた歌姫の役割の継承に他ならないはずだ。

奇しくも時を同じくして超時空要塞時代に戦争していた女性だけで構成される敵勢力の残存部隊・メルトランディがマクロス7に襲い掛かる。統合軍からは話し合いもなしに敵勢力の全滅を命じられるが、マクロス7の市長・ミリアは元メルトランディの戦士であったこともあり、この命令に強く反発する。しかし参謀・エキセドルはこの命令を受け容れ、気が重い乗組員たちの反応にも意を介さず、敵勢力殲滅のためマクロス・キャノン(めちゃくちゃ強い砲撃)の発射準備の指示を与える。

マクロス・キャノン
『マクロス7<TV未放映話>』3話

戦いを好まないバサラはこれに怒り、サウンド・フォース隊はマクロス・キャノンの発射前に戦闘を止めるために宇宙に飛び立つ。
できることならマクロス・キャノンを発射することなく戦闘を終わらせたい乗組員たちだったが、ミレーヌの歌う「愛・おぼえていますか」を聴いたメルトランディのパイロットたちが、敵司令官の指示も無しに突然飛び出すという異常行動に出たことを受けて「(ミレーヌの歌には)リン・ミンメイとは違う効果が表れたということか…」と落胆する。

サウンド・フォースの周囲を縦横無尽に飛び回る敵パイロットたち。サウンド・フォースのキーボードを担当するレイは「俺たちを挑発しているのか!」と怒りをあらわにする。

サウンド・フォースの周りを飛び回るメルトランディのパイロット
『マクロス7<TV未放映話>』3話

ミレーヌの健闘も虚しく、敵勢力に活動を止める気配は見られない。ミレーヌはミンメイのようにはいかないことを悟り、歌うことを中断してしまう。その間にもマクロス・キャノンの発射準備は着々と進められていく。ついに統合軍からマクロス・キャノンの発射命令が下される。エキセドル参謀はマクロス・キャノン着弾地点の座標軸を乗組員に伝える

マクロス・キャノンの発射準備を進めるエキセドル参謀
『マクロス7<TV未放映話>』3話

単身、敵の母艦に飛び出すバサラ。巨大なスピーカーを母艦に発射し、敵母艦内はテレビアニメ版マクロス7の1話から歌い続けたバサラの『突撃ラブハート』に包まれる。驚愕した敵司令官・クロレは顔を歪ませながら戦闘機に搭乗しバサラの下へと出撃する。軽率なバサラの行動にミレーヌは「なんてことするのよバサラ!ミンメイはこんなことしなかったわよ!」と不平をならべる。

巨大なスピーカーを敵母艦に撃ち込んで歌うバサラ
マクロス7<TV未放映話>3話

しかしメルトランディ軍の攻撃はバサラに当たらない。敵の攻撃は宙を撃ち、無駄な砲撃に終わる。そしてついにマクロス・キャノンの発射準備が完了する。「マクロス・キャノン、発射」エキセドル参謀の指示によって発射されたマクロス・キャノンはしかし敵に当たらないエキセドル参謀が指示した座標軸は敵も味方もいない虚空であった

あさっての方向にマクロス・キャノンを発射
『マクロス7<TV未放映話>』3話

「敵への損傷は0…マクロス・キャノンは大きくそれました…」ときょとんとした顔で状況報告するオペレーター。これを受けて怒り狂う統合軍。「どういうことだエキセドル参謀!」「はて、慣れない操艦でちと目標を見誤りましたかな」と答え通信を遮断するエキセドル。「やれやれ、また艦隊司令の椅子が遠のいてしまいましたかな」。オペレーターたちは「見事な操艦でした!エキセドル参謀!」と絶賛する。

オペレーターたち
『マクロス7<TV未放映話>』3話

マクロス・キャノンの誤射を受けて予想外の好機が舞い込んだメルトランディ軍。そして彼女たちは



メルトランディ
『マクロス7<TV未放映話>』3話

マクロス・キャノンの発射にも司令官の出撃にも目もくれず、バサラの歌に熱狂していた

もはや戦いをしている者は誰もいない。クロレですら満面の笑みで「デカルチャー!バサラー!」と叫び、機体を縦横無尽に飛ばし歓喜している。

満面の笑みのクロレ司令
『マクロス7<TV未放映話>』3話

無数のミサイルが発射され、その全てが虚空を彩る。バサラが『突撃ラブハート』を歌い終わった瞬間、『マクロス7』は本当に幕を閉じる。


お前の胸にもラブハート

超時空要塞、マクロス7ともに結局のところ歌は戦争を終結に導くための道具として利用されてきた。超時空要塞マクロスではリン・ミンメイがこれを受け容れ、終戦のために単身船首にたち歌を歌うことを決意した。対してバサラの中にはもはや「終戦」という意識すらない。「俺は歌いたいときに歌う」「俺の歌を聴け!」。死を顧みず、武装を放棄して戦場のただ中で歌うバサラにとって戦争の勝ち負けどころか、人類の存続、果ては戦争そのものすらももはやどうでもいい。バサラが望むことはただ一つ、俺の歌を聴き、魂を震わせることただそれだけだった。

テレビアニメ版ではついぞバサラの願いは叶わなかった。戦争の終結はあくまで敵勢力に戦う理由がなくなったからにすぎない。バサラが望む悲しみと憎しみを撃ち落とし、二つのハートをクロスさせるまでは至らなかった。しかし、ミレーヌの歌が届かず、異常行動に出たと思われたメルトランディの兵士は、ミレーヌの歌に熱狂し、いてもたってもいられずに母艦を飛び出した。バサラを殺すために出撃し、発射したと思われたクロレのミサイルは魂の躍動の表れだった。マクロス・キャノンは空を割き、ミサイルは手当たり次第に飛んでいき、そして、文化も言葉も違う生物が笑っている。
もう、誰も戦わない。誰も戦争のことなんて考えていない。ただ、目の前に現れた歌を楽しむことしか考えていない。熱気バサラの歌を、楽しむことしか考えていない。

「ミンメイはこんなことしなかった!」バサラは、リン・ミンメイとは違った。ミンメイだけではない、他の誰とも違う。ただ一人、バサラだけが、戦争の終結ではなく、音を楽しむことを願った。1話から数十話、長きにわたって理解されず、ついぞ達されなかったバサラの願いが、TV未放映話最終話ここに来て、まったく完璧な形で叶う「おまえの胸にもラブハート」、1話から歌い続かれた『突撃ラブハート』の歌詞とまったく同じことが、ここにきてついにホントウのことになる

『突撃ラブハート』から抜粋

歌は、望むから歌う。現実を変えるために歌う。

  俺の歌を聴けば 簡単なことさ
  二つのハートをクロスさせるなんて

  夜空を駆けるラブハート
  燃える想いをのせて
  悲しみと憎しみを 撃ち落としてゆけ
  おまえの胸にもラブハート
  まっすぐ受け止めて デスティニー
  何億光年の彼方へも
  突撃ラブハート

『マクロス7』計52話。『突撃ラブハート』が現実となり、ここに幕を下ろす。

『突撃ラブハート』を歌う熱気バサラ
『マクロス7<TV未放映話>』3話

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