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読書感想:家族がテーマの2作品*

こんにちは、えびです。最近読んだ2作品が割とどちらもガツンときたので紹介します。「家族」を題材にした作品なのですが続けて読んだせいもあってちょっと感情がグルグルしています。ちなみにどちらも面白かったです。

ちょっと手に取るの迷っている方は是非書店でパラパラしてみてください。どちらも書き出しが気持ち良い。

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いずれも有名な作品なのでご存じの方も多いと思います。
内容の細部には触れませんが、感想を語る上でどうしても物語の濃淡の部分などに触れることはあると思いますので、気になる方はお気を付けください。レビューは『くるまの娘』→『幸福な食卓』の順番で書きますが、よりネタバレNGな性質持っているのは後者だと思います。(個人的にはそのその部分が物語の「核」だとは思わなかったのですが、そこの部分を読んだときの気持ちがこの本の面白さだと思う方もいらっしゃるとは思います(と、ぼかしたいあまりよくわからない書き方になってしまった)。)
とりあえず、気になる方は自衛をお願いします。
逆に『くるまの娘』の方はさすがの純文学といったところで、あまりストーリー自体にわたしは重きを置いてみていないですし、色んな人に布教したいのでそこを意識した書き方をします。

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まず『くるまの娘』です。作者は宇佐見りんさん。noteでも取り上げました『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞された方です。宇佐美さんお若いのにすごくしっかりされていてパーソナルな部分も好きです。
『推し、燃ゆ』も好きな作品で3回通読したのですが、今作が私の中では上回りました。芥川賞こっちやろ!とも思いましたが、まぁそれは割とあるあるなんでしょうね。

この作品は、最初読むのには勇気がいりました。まず「家族」というテーマについて。「家族」って往々にして小説のテーマになりがちだと思うのですが、その分心の繊細な部分に強引に踏み込んで来がちなテーマでもあり、覚悟しないと心が大変になることが多い印象を持っています。わたしはストーリーの都合で人がいなくなったり死んだり、逆に感動の再会だったりそういう展開があまり得意ではないというか、ストーリーに人物が動かされているなと思った瞬間冷めてしまって、でも相応に感情は(無理やり)揺さぶられるので心が疲れてしまう、という傾向があります。「家族もの」はストーリー展開としてそうなりがち(偏見かも)と思っているのでよっぽどのものではないと手は出さないのです。

こちらの『くるまの娘』も、掲載された号の文藝も持っているのですが何となく読めなくて、ずっと積んでありました。そのうちに単行本化されて、見るからに苦しそうな内容にうーーーんと二の足を踏んでいたのですが、宇佐見さんのサイン本がいつもいく本屋にあるという情報を見て、これは欲しいぞと思い購入。買って少ししてからふと読みたくなって、読みました。

結果、これはもうあまりにも良かった。
簡単な「泣ける」とか「安易な感動」とかそんなんじゃなくて、家族という狭くて近くてギュウギュウした空気感と”車”という移動する箱の世界観がマッチしていて最初から最後まですごく良かった。
主人公は17歳のかんこで、祖母のお葬式に向かうため、両親と車で車中泊をしながら旅をする話です。かん子の、家を出た兄と弟も出てきます。

表紙の印象から受けるかもですが、手放しにハッピー楽しいストーリーではなくて、全然しんどいのですが、何と言うか、「しんどい」としんどさだけが切り離して考えられるものではなくて、家族の愛情もたっぷりあって、しんどさも含めて「ひとまとまりの家族」という印象を始終受けました。

物語の途中で、かんこはやっぱり傍から見たらしんどい環境にいるので、逃げなさいという人もいるのですが、かんこは一人だけ逃げることができない。できないというか、その発想がない。救うならまとめて救ってほしい、そう思う描写があります。
やっぱりかんこの家は一つの箱で、愛情も気持ち悪さもしんどさも変な絆も他人だという距離も全部まぜこぜになって一つの箱で、家族ってそういうもんなんだろうなぁと勝手に納得しました。

読了後、感想ブログやtwitterを巡っていたら、かんこの親を「毒親」と書いてある表現を見つけてハッとしたのを覚えています。そうか、確かにな、毒親か。ふむふむ。って思った。
自分がそう思っていなかったのにびっくりした。いや確かにとんでもない部分もある親だと思う。でもやっぱり手放しでそうは思えない。それは、その行為を肯定しているわけではなくて、愛情とか繋がりの部分もひとまとまりになっているから自分もその箱の中にいるような感覚になって、客観的に見ることができなかった。それほど、没入してしまった。

ストーリー展開は重視していないという旨を書いたけど、最後のシーンは忘れられなくて読みながらボロボロ泣きました。無理やり泣かされた感がなくて、なんか自然に泣いてしまった。
『くるまの娘』、本当に良かったです。帯に書いてある山田詠美さんの「これやもはやブルース!」が言い得て妙すぎる。
この作品を読んだ後、しばらく心に来てしまって他の物語小説が読めなくなったのだけど、それは「鬱になった」とかそういうのではなく、小説によって心が揺さぶられる飽和状態にグンと達したイメージでした。こういう気持ちになりたくて本を読んでいるよわたしは。
(読了後しばらくはライトなものしか読めず、ショートショートレベルの短編集やちょっとお勉強系の本ばっか読んでいました)

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そしてそんなライトなものを読みたい気分だったので、積読の中から選んだのが『幸福な食卓』。瀬尾まいこさんの作品はこれまで2作読んだことがあり、どちらももれなく良い感じに「読みやすく」「心が温かくなった」ので信頼というか安心していました。だから瀬尾さんへの(勝手な)印象や可愛い表紙を見て、安易に「ほわほわハッピー心あたたまる系のサクッと読める」話だと思って手にとりました。そういう本が読みたくなる日もあるのよ。
あ、ここから、ストーリー詳細には触れませんが、大まかな筋には触れるのでお気を付けください。

で、もちろんさすが瀬尾さん、文章はめちゃくちゃ読みやすくてサクサク読めるしクスクスっと笑えるような描写も随所にあり気楽に読んでいたのですが、読んでいるうちに何となく違和感があり。それは、登場人物である「父」「直ちゃん(兄)」「母」「佐和子(主人公)」は皆面白くて好きになれるキャラクターなのに、どうもチグハグというか、何かハマらない感じがしたんですよね。若干読みながら心がザワザワしていた。全然、不穏な描写とかは無くて、ただ何となく個々がバラバラなような印象を受けて。そしてストーリーの中で、割と衝撃的な事件というか記憶が序盤で挿入されて、まぁその印象も強いのだけど、あぁー…と妙に納得はした。だから噛み合っていないんだね、て思った。
『くるまの娘』では家族が一つの箱の中で混ざり合っていて切り離せない感じがしたのに対し、『幸福な食卓』の家族はすごく個が個として独立している印象を受けました。『くるまの娘』よりもそれぞれの家族仲は良いし家庭内事件も頻発せず、ほほえましいのだけど、こっちの方がバラバラに感じた。ある程度の距離感を保って、個人が個人として立っているように感じた。だからより、お互いがお互いを想いあう描写がわたしは印象に残ったのですが、それはもともとが独立しているからなのかもしれない。
そういう点でこの『幸福な食卓』は結構考えることも多いし、違和感もたくさん感じたし、ともすれば村田沙耶香さんや今村夏子さんを読んでいるような心のザワザワ感もわたしのなかにはずっとあって、あー瀬尾まいこさんってこういうのも書けるんだーと凄いな、と思いました。
だからこそ、わたしはラストの展開はちょっと衝撃が強すぎたー・・・。どういう意図でラストにあの展開を持ってこられたのだろう。どういう意図でこのタイトルをつけられたのだろう。何と言うか、わたしにとっては「あのラストが無くても十分に面白かった」という感想です、すみません。これまでチグハグバラバラしていて、でも各々が自分で自分のバランスを取りながらもお互い歩み寄る危うい感じが明るく描かれていたのが、急にあの出来事で読んでいる感情の方向性をグッと持っていかれた気がした。それを狙っているのかもしれないけれども。
あのラストを含めて『幸福な食卓』なのでしょうね。衝撃をガツンと受けたというのも狙い通りなのかもしれない。あの一文を見たとき思わず「は!?」て声出たもんね。何でなんだー…と、佐和子と同じく受け入れきれなくて、『くるまの娘』とは別のベクトルで心に来しまった。うう…

にしても、こんなに読みやすい文章でここまで心に入り込んでくる瀬尾まいこさんの筆力に改めてびっくりしました。

すみません長くなりました。文章を書くのって難しいですね。
宇佐見さんの方は「名刺代わりの小説10選」をやるとしたら入れたいくらい好きな作品でした。瀬尾さんの方は、ライトなほっこりを想像していったらぶん殴られたような衝撃で、読書でこんなにガーン!となったのが久しぶりすぎて面白かったです。

どちらも、1冊1時間くらいで読みました。何読もうかな、何かすぐ読めるものが読みたいなー…と思う人にお勧めです。読んだ人の感想をたくさん聞いてみたいな。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
他にも最近読んでめちゃくちゃ面白かった本がたくさんあるのでぼちぼち書きたいな~

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