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今ここにいる不思議

クロード・モネの絵が好きだった。
光溢れる絵の中に、浸るのが好きだった。

「いつか、モネが生きたジヴェルニーを訪れたい」

その夢を実行に移したのは、大学卒業後に勤めた会社を退職して、数ヶ月経った頃だった。

今でも、その時の感動は忘れない。
モネの歩いた庭に、そして彼の描いた睡蓮の池のほとりに立つ自分がいた。

ここを訪ねることが、フランスへ来た、ただ一つの目的で、エッフェル塔も凱旋門もベルサイユ宮殿にも、まるで興味はなかった。

が…

数日過ごしたパリの街は、私の気持ちをすっかり変えてしまった。歴史的モニュメントや美術館はもちろんのこと、街に林立するアパルトマンにさえ魅了された。フランス語の響きの美しさも、しっかり耳に残った。

帰国後、早速フランス語を習うことに決めた私は、一年後には、その語学学校の受付に納まっていた。

縁あって、このような環境で仕事をさせてもらい、フランス人の先生たちと交流する機会、フランスのことを知る機会も得ることができた。
縁あって、現在の配偶者に出会い、フランスへやってくることになった。
縁あって(わたしはこれも縁[えにし]だと考える)、二つの国籍を持つW(ハーフではなく、あくまでもダブル)の2人の娘達を手に抱く喜びをかみしめた。

こんな未来、誰が想像していただろう?

モネの庭で、100年以上も昔に、ここにいた絵描きを思った私。彼だって、自分の生きた場所に、これほど多くの人が訪れるとは、夢にも見ていなかっただろう。
その時の私も、まさか自分がフランスで暮らすようになるとは夢にも思っていなかった。

人は誰しもそうだろうが、私も後ろを振り返ってみれば、思い描いていなかった、不思議な巡り合わせの中を辿って生きてきた。これからもその中を歩いて行く。もうそんなに長くはないだろうが、その先にも、想像していなかった未来が待っているのだろう。どんなことが私を迎えてくれるのか、それを楽しみに生きていこう。


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