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恐怖の先に答えはあったか『銀と金・有賀編』でみえた森田鉄雄の変化とは

2017年1月より、土曜ドラマ24枠で放送されたドラマ『銀と金』。池松壮亮主演、リリー・フランキー、マキタスポーツ、臼田あさみ、村上淳らが共演する。

原作は福本伸行の同名漫画で、第108話「運命の明暗」を最後に休載が続いている。『賭博覇王伝 零』を含め、私が長年続編を待ち望んでいる作品だ。福本先生、何卒……!

今回は、漫画・ドラマのなかでも、とくに好きなエピソード「有賀編」をピックアップする。


見出す男と、魅入られる男

その日暮らしの素寒貧であった森田鉄雄(池松壮亮)は、競馬場である男に出会う。「銀王」と呼ばれるその男は、裏社会の大物フィクサー・平井銀二(リリー・フランキー)だった。銀次に魅入られ裏社会へと足を踏み入れる森田は、さまざまなギャンブルに巻き込まれながらもその才能を開花させていく。「銀」を超える「金」となれるか、命を賭けた死闘が繰り広げられる。

森田は、銀二によってギャンブルの才能を見出される。それに応えるように、森田は成長していくーー。と言いたいところだが、成長ではなく、もとからあった才能が目覚めただけだと私は思っている。10、20、30とかじゃなくてもう0から100。これまで、多くの金と人間の地獄をかいくぐってきた森田だが、あらたな地獄が待ちうける。第13話では、仲間である船田正志(村上淳)に連れられ、連続殺人鬼・有賀研二(手塚とおる)の見張りにきていた。

「有賀編」は、銀と金の醍醐味であるギャンブルは一切登場しない。心理戦や頭脳戦を抜きにしたこのエピソードは、森田の悪党らしくない一面が顔を出す。


優しさは甘さになり、やがて命をとる

部屋の中で1対1、空の拳銃を突きつけながら有賀を見張る。銀二いわく、これが一番確実な方法らしい。しかし、見張りの男たちは、森田を除いてそれぞれ武器を持っていた。武器で有賀を制するという発想の行き着く先は、殺し合い。嫌な予感は的中する。

有賀が反撃に出たのだ。ナイフを持つ男を殺し、武器を手に入れた有賀はひとり、またひとりと殺していく。まるで袋の中のネズミである。見張りの人たちはみんなヤクザだが、殺人鬼には敵わないらしい。

森田は悪党になりたいというが、ここでは優しさが垣間見える。娘の写真を眺めていた見張りの男に声をかけるシーンからも、それはうかがえた。銀二に「お前はの正体は善か、悪か」と問われているが、森田は善人であろう。しかし、森田は悪党になり、裏社会で生きることを望んでいる。いつしか、自身のもつ優しさに足元を掬われることになりそうな気がしてならない。


森田の心を蝕むのは、善か、悪か

森田は油断により深い傷を負うが、有田の弱点が火であることを思い出す。追い詰める森田だが、再び窮地に立たされる。「嘘だろマジかよ!?」と狼狽える姿は、普通の25歳の青年である。そんな危機一髪のところを助けにきたのは、先に帰った船田だった。森田は、殺された見張りの仲間たちの死に場所を、とむらうようにまわっていく。殺された男の取り分を「家族に届けてください」とお願いする姿は、悪党のあの字もない、ただの「いい人」であった。

「お前、なんか変わったか」と聞く船田は、森田の変化に気づいている。森田は人間の醜悪さをみて、悪党になると決意したか。はたまたそんな人間になりたくないと、善人を選択したか。この出来事が、森田の心に大きな傷を残したことに間違いはないようだ。


表情は語る

森田の意味深な表情で幕を閉じた第13話。その顔には、疲れと諦めがうかがえる。悪党に嫌気がさしたのかもしれない。やはり森田は常人というか、まだモドキだったのだろう。もしくは、悪党になりたい気持ちはまだあるが、自分はなれそうにないことを痛感したのではないか。どちらにしろ、森田にはもうエネルギーが残っていないようだ。

補足をすると、今回銀二の出番はなかったが、原作で森田を助けたのは銀二である。銀二がきたことで、森田は心底安心した表情をみせる。銀二に強い憧れを感じ、その隣を歩く自分に誇りを持っていた。いつか銀二を超える存在になるのだと、前向きでもあった。展開に違いはあれど、一方は嫌気がさし、一方は希望を持つ。その差がまた面白い。

原作漫画のなかで、もうひとつ好きなエピソードに「神威編」がある。神威家四兄弟の権力争いに、森田が巻き込まれていく話だ。「鏖(みなごろし)」がキーワードとなるこのエピソードの映像化は、流石に厳しかったか。

次回は、漫画『銀と金』の魅力についてもお話ししたい。


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