スピード恐怖症と『ザ・バイクライダーズ』
ぼくは苦手なものが多い。たとえば「速い動き」もそのひとつだ。
映画を観に行ったその街には、二つの映画館を両側に構える広い道があって、車が通ることもない。
街路樹に隔てられた西側の道を歩きながら、進行方向の先のちょっとしたスペースみたいなところに、たくさんの子供たちが座っているのが見えた。遠足なのかしら、みんなで座って大人の話を聞いてる。
ちょうどぼくがその横を通り過ぎようとしたタイミングで、全員が勢いよく立ち上がった。自由行動なのか何なのかわからないけれど、おそらくその火蓋が切られたようだ。
元気いっぱいの子供たちは、我先にと走り出した。結果として、大量の小さい人たちがものすごい勢いでこちらに突進してくる。ぼくは恐怖で身動きが取れなくなり、息も荒くなった。その場に立ち止まった状態で、天を仰ぎ(速い動きが視界に入るのも目を閉じるのもこわいから上へ視線を逃し)、群れの過ぎ去るのを待った。
その日、映画『ザ・ナイトライダーズ』を観た。シカゴのバイク乗りの話だ。
バイク乗りは、バイクに乗る。バイクは、速い。速いものは、こわい。それに、エンジンのような大きな音も苦手だし、不良とか男社会みたいなものにも関わりたくないと思っている。
だけど、この映画はそういうものを礼賛するような作品ではなかった。
たとえばバイクの走りについて速さを強調するような撮り方はしないし、殴り合いや言い争いも一歩引いたような視点で描かれる。
何よりその構成や物語の展開自体が、ある種突き放すようなものだった。詳しくは書かないでおくけれど、そういうバランスの映画って、あまり観たことがない気がする。
映画を観終えたぼくは、公園へ向かった(その道中で、走る子供達をやり過ごした)。
天気がよくて日差しも暖かかったから、次の映画が始まる時間まで、そこのテーブルと椅子を借りて仕事をすることにした。
だけど少しして、手を止めた。
ぼくは日々、「怯え」のような感覚に襲われている。これもひょっとしたら、ぼく自身の人生への焦燥感からくる「生き急ぐ」気持ちの、その速さに対する恐怖心なのではないか……なんて思った。
リュックサックにラップトップをしまって、代わりに文庫本を出して、深く呼吸をしてから、足を止めるみたいな気持ちでゆっくり本を読むことにした。
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