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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

なーにが「ドント・ウォーリー・ダーリン」じゃい。

【あらすじ】
主人公 アリスと夫のジャックは
ビクトリーという美しい町に住んでいる。
この町は「ビクトリー計画」という
研究を行うビクトリー社の所有地である。
社員である夫たちは
高級住宅や高級車を与えられ、
妻たちは美しい服を着て
家事を完璧にこなしていた。
「妻は町から出てはいけない」という
ルールはあったが、
平和に楽しく暮らすアリスたち。
しかし、ある日隣人が赤い服の男達に
連れ去られるのを目撃する。
それ以降、彼女の周りで頻繁に
不気味な出来事が起きるようになる。
そしてアリスはこの街に疑問を持ち始めるー。

「ばっかもーん!
何が『ドント・ウォーリー・ダーリン』だ!」
と私の中の磯野波平が雷を落とす。
これは『心配しないで、愛しい人』と言うには
あまりにもグロテスクなエゴじゃあないか。
支配すな。他者の幸せを。

美しい映像で不気味な世界を見せてくれる作品。
特に鏡を使った演出にゾッとする。

【以下ネタバレ有り】


ニコニコ家事をしながら暖かい家庭で
自分の帰りを待っている妻がほしいなら、
そこに幸せを感じる人と結婚しなきゃあね。
もちろん現実世界でね。

『ビクトリー計画』とは、まず参加者の男たちが
妻にしたい女性を勝手に選び、
器具を装着して共にベッドに横になる。
すると精神だけがビクトリーの町で、
参加者の男性の理想の夫婦生活を始める。
朝、高級車で出勤した「夫」たちは
現実世界に戻り、ベッドで眠り続けている
「妻」の肉体を維持するために世話を焼き、
新人勧誘などの仕事をする。そして晩には
再びビクトリーのバーチャルの世界に戻り、
高級住宅に帰宅するというものである。

アリスは現実では研修医であり、
ジャックは恋人だった。
職を失ったジャックを養うために
病院の仕事を増やし、疲れ切っていたアリス。
そんな生活に嫌気が差したジャックは、
アリスに無断でこの『ビクトリー計画』に
申し込んだのであった。

現実世界のアリスは自分自身を犠牲にし、
仮想世界のジャックはアリスの人生を犠牲にし、
『心配しないで、愛しい人』と言うのだ。
皮肉な話よ。

アリス「私の人生を奪ったのよ」
ジャック「違う救ったんだ」
アリス「嘘よ」
ジャック「君は働いてばかり!」
アリス「仕事が好きだったのになぜ?」
ジャック「君は惨めで不幸のあまり
人生を呪ってた!」
アリス「私の人生だったのよ
私の人生!それを奪った!」
ジャック「この人生を与えた!」

この認知の歪みが腹立たしいよ、本当に。

「家事をして夫の帰りを待つ妻」に
憧れる女性もいる。それも立派な夢だ。
だからあくまでも悪いのは、価値観の不一致を
無視して相手の人生を支配するという行為。
むかつくぜ。
でもアリスが勇ましく啖呵を切ってくれるから
少し胸がスッとするぜ。

とはいえ前半の『完璧な生活』には惚れ惚れする。
アリスもジャックも絵画のように美しい。
アリスが家事をするシーンもポップで
楽しいのだが、沢山の鏡がどことなく不安を
煽っていて、絶対この鏡…何か仕掛けが…と
思っていると後半に期待通りの驚きが。

それはジャックに子どもを持とうと提案され
アリスがバスタブで呆然とするシーン。
呆然としたアリスの顔を映す沢山の鏡。
しかしアリスがそのままバスタブに沈んでいくと
鏡の中の一つの顔だけがそのまま沈むアリスを
見ている。
ここね、ものすんごく怖かった。

アリスと一番仲が良かったバニーが
実はここが仮想世界だと知っていながら
受け入れていたことも良い設定だったなと思う。
そういう人もいるよね。
でもバニーはアリスのために行動してくれた。
価値観が違っても協力できる人もいるという
ことを示してくれたのが嬉しかった。

【ドント・ウォーリー・ダーリン/
オリヴィア・ワイルド】

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