「ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語」は舞台の香りで小説の味がする映画。
【あらすじ】
大金持ちで働いたことことがなく、
相続した財産で賭け事をする
ヘンリー・シュガー。
ある時、目を使わずにものを見ることが
できるという導師の存在を知った彼は
ギャンブルでのイカサマに利用しようと
3年の修行の末にその力を習得するのだが…。
「チョコレート工場の秘密」などで知られる
イギリスの児童文学作家ロアルド・ダールの
「奇才ヘンリー・シュガーの物語」を原作に
「グランド・ブダペスト・ホテル」等の
ウェス・アンダーソン監督が映画化した作品。
書割が動く舞台のような演出で、
心情を口に出す小説のような台詞が続く。
だが、この短編映画はまるで絵本のよう。
淡々と進むヘンリー・シュガーの人生と
凝った美術を楽しめます。
星新一作品や小林賢太郎作品が好きな方は
好きなんじゃないかなと思いました。
まあ、ただ私がそうなのですがね。
人物が右に行ったら右から、
左にいるなら左から、声が聞こえてくる。
細やかな演出が嬉しい。
【以下内容に触れています】
原作はロアルド・ダールの
「奇才ヘンリー・シュガーの物語」
『ヘンリー・シュガーとは仮名であり、
本当の名は別にある。
これはロアルド・ダールが聞いた実話である。』
という設定の物語なのだが、
「ヘンリー・シュガー」はネットで
「実話」や「本名」などのワードと一緒に
調べられていることが多いらしい。
目を使わずに物を見る人や、
その技を知り習得した人が実在するということを
こんな風に信じる人が沢山いる世の中ならば
きっと空も飛べるはず。楽しいね。
具体的にはこんな台詞が登場する。
「これが創作なら、
予想を超える刺激的な結末が必要なところだ」
「小説なら悪くないがこれは実話だ」
「夢なら陳腐だが現実なら?
私なら可能よ」
江戸川乱歩にもこのイメージあるなと思った。
創作の中で「これは実話である」とか
「創作ならこうなるであろう。だがこれは違う」
みたいなことを言うイメージ。
ヘンリー・シュガーは習得した透視能力を
カジノで発揮し、3万ポンドを稼ぐ。
だが簡単に金を儲けたことに空しさを感じた彼は
より効果的な寄付をするため、
世界中を旅し、カジノから金を勝ち取り、
多くの病院や孤児院を設立し
寿命を終えたのであった。
イカサマして稼いでバレて…とか
透視ができなくなって…とか
そんな話ではなくて、
「めでたし めでたし」で
締めくくれそうな話なのが良い。
そして、その言葉で終わらないところが
もっと良い。
【ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語/
ウェス・アンダーソン】
