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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

「マイ・オールド・アス 」で感じるさよならさえも人生と。

【あらすじ】
主人公エリオットは
クランベリー農園の娘。
トロントの大学に進学が決まり、
家を出ていくことを何よりも
楽しみにしていた。
18歳の誕生日、エリオットは
ボートに親友のローとルーシーを乗せ、
湖を渡り島でキャンプをする。
そこで3人は幻覚キノコ入りのお茶を飲み
トリップ。
ローは楽しそうに踊り出し、
ルーシーは眠ってしまう。
そしてエリオットの隣には
なんと一人の女性が現れた。
彼女は、自分は39歳のあなただと告げ、
様々な助言をする。
その中にあった「チャドには近づくな」
という忠告。
同性愛者のエリオットは男になんて
惹かれないと思っていたが…。

まず、「キノコでトリップして未来の自分と
会話する。」という設定をなんじゃそりゃ!と
思う方はこの作品に乗れないかもしれない。
私は、ま、そういうこともあるよね〜と
思う人間なので、物凄く入り込むことができた。
そこが気にならないのであれば、この作品は
あなたの心に安心と自由を与えてくれるだろう。
私は「この先どうなっちゃうのー!」と
3回は口に出た。そのくらいワクワクした。


【以下ネタバレ有り】

登場人物みんな良いよ…。
良い世界だ…。

18歳のエリオットは、目の前の39歳の自分は
トリップにより、自分の脳内が作り出した
幻想だと思いはしゃぐ。
そんな18歳のエリオットが眠った後、
携帯を見つめ微笑む39歳のエリオット。
現実に戻った18歳のエリオットが
気がつくと自分の携帯に彼女の番号が
追加されており、なんと通話ができるように
なっていたのだ。驚き。
でもま、そういうこともあるよね〜〜!

39歳のエリオットの助言のおかげで、
自分が今まで家族のことを大切に思いながらも
いつもないがしろにしていたことに
気がつく18歳のエリオット。
そして口酸っぱく言う「チャドには近づくな」
という忠告も守ろうとするのだが、
2人は出会ってしまう。

エリオット「殺人鬼かもしれない」
チャド「殺人鬼ではない。本当だ」
エリオット「殺人鬼っぽい」
チャド「君は殺さない。それならどう?」

初対面の人に「殺人鬼」呼ばわりされても
ニコニコとした柔らかさを壊さないチャド。
良い子…。
しかし私たち視聴者はこのチャドを
信用することができない。
39歳のエリオットのことを信じ、
言いつけを守って!とドキドキしながら
チャドを怪しむ。
チャドが優しければ優しいほど
「もしかしてあの39歳のエリオットは
このチャドに殺された幽霊なのでは…」と
思ってしまう。
そして一方でチャドに近付いてはいけない理由を
言わない39歳のエリオットに対しても
「もしかしてエリオットを名乗っているこの
女性こそが殺人鬼で、チャドはこの女性から
守ってくれる存在。つまり、彼女からしてみたら
邪魔者なのでそう言っているのでは…」と
疑いが広がる。
ど、ど、どっちを信じたら良いの?!
この物語はどうなっちゃうのー?!?
面白すぎる。面白すぎるよ。夢中である。

そしてラストで39歳のエリオットが明かす
「チャドに近付いてはいけない理由」
それは

「彼は亡くなる。彼に夢中になった後に。
これ以上にない完璧な男の子だった。
しかし止める事はできない。
私は落ち込み、今でもずっと
引きずって生きている。
あなたにこんな思いをさせたくない」

と18歳のエリオットに話すのである。

思えば、匂わせはあったんだよね。
たとえば、
電話中に18歳のエリオットが
「ママより先に死にたいの」と言うと
39歳のエリオットは
「暗すぎでしょ
セラピストに言っとく」と返す。
現在、セラピーに通う理由があるということだ。

そしてこちら。
自分が未来の自分自身だとエリオットに
信じてもらうため、39歳のエリオットが
証拠を見せるシーン。

「9歳の頃トラクターから柵に落ちて激痛だった」
とお腹の傷を見せる。そして
「左胸が右より小さい。
均等にはならないけど慣れるから平気よ
男は気づかない。女は別だけどね」
と続ける。
この時点で、なるほどエリオットは
バイかパンなのだろうなと思った。
が、この瞬間の18歳の彼女は同性愛者であり、
その後チャドに惹かれ始め、
彼が男性であることに対して戸惑いを感じる。
39歳のエリオットは男性、
おそらくチャドと深い仲になっていたので、
やはり恋に落ちたのだなということがわかる。

この物語のキーワードは
「別れは嫌いなの」という
18歳のエリオットの言葉だろう。
それにまつわる印象的な台詞たち。

まずは農園がなくなることについて嘆く
エリオットにチャドが話す

「最後に友達と一日中、
ごっこ遊びをした日って覚えてる?
昔は友達と一緒に自転車で走り回ったろ。
汗だくになって最高の時を過ごした。
でも帰宅後、
自転車をガレージに置き眠りにつく。
そんな遊びはそれが最後だと知りもせずね。
別れを告げないってことはつまり
最後の機会を存分に楽しめないってことだ」
という言葉。

そして旅立つ娘を寂しく思う母が
昔を思い返して話すこの言葉。

「ある夜私は45分ほど
”きらきら星”を歌ってた。
喉が渇いて脚もしびれて
”これ以上は勘弁して”って思ったわ。
でもあなたを揺らし続けた。
それから少し経ったある夜に
あなたは1人でベッドで寝るようになった。
誇らしかった。でもあのとき
もうあなたを揺らすことはないと気づいた」

そして彼女には死という「別れ」もやってくる。
彼女の大嫌いな別れが。
しかし、18歳のエリオットは
それでもチャドと恋をすることを選ぶ。

39歳のエリオットは
「未来のために生きるのは良くない。
過去を引きずるのも不健全。
あんたとチャドが恋に落ちてよかった。
彼を愛することは特別。
彼から愛されることも世界で最高の幸せなの。
だからそのままでいなさい。
うぶでバカですべすべで、
賢くてハッピーで自信満々で勇敢で自己中で
お花畑なあんたのままでね。
湖にお別れ言っといて」
と最後のメッセージを残すのであった。

それを受けて18歳のエリオットは
ボートで湖を疾走する。
悲しみではなく、素晴らしい笑顔のままで。

爽やか…!!!ごめんなさい途中まで絶対に
サイコスリラーだと思っていたよ。
こんなに清々しい気持ちで終わらせてくれて
ありがとう。
友人も家族もみんな愛したくなるキャラクター
ばかりで、壊れないでこの幸せ…と
思っていたから本当に良かった。

特に心に残ったのは友人のこの言葉。
チャドに惹かれ戸惑うエリオットが友人に
相談するシーンにて。
「男が好きでもクィアだよ。
レッテルなんて
意味があるなら使えばいいし、
ムダなら無視しろと言ってたよね。
あんたも自分の心に従いな」

あと、「女の子たちがジャスティンビーバーに
選ばれたがる中で君は彼本人になりたがってた」
から始まるあの華やかなシーンも大好き。

ああ素晴らしい映画だった。
GLAYさんの【さよならはやさしく】が
聴きたくなる夜だ。
【雲ひとついない青い空 出会った頃のよう
見上げては君への想い さよならさえも人生と】
そんなことを教えてくれたね。


【マイ・オールド・アス ~2人のワタシ~/
ミーガン・パーク】

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