「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」は数百人の変わり者の努力の結晶である。

【あらすじ】
死者の町「ハロウィン・タウン」の住人達は
怖い事や、人を驚かせる事が大好き。
ハロウィン当日、
住人達は大盛り上がり。
だが、「ハロウィン・タウン」の王様である
パンプキン・キング ジャック・スケリントンは、毎年毎年同じことの繰り返しでしかない
単調なハロウィンに虚しさを感じていた。
そんな時、ジャックは森の奥で不思議な
扉の付いた木を見つける。
その一つを開いてみると、恐怖と悪夢に満ちた
「ハロウィン・タウン」とは全く違う
陽気で明るい「クリスマス・タウン」の世界が
広がっていた。
初めて見る美しい雪景色の中、
色鮮やかな電飾で飾られた街全体が祝う
クリスマスに心を奪われたジャックは、
自分達の力でクリスマスを作り出そうと
計画を立てる。

「ティム・バートンの」という謳い文句が
ついており、ティムの世界観を見事に
再現している映画なのだけれど、
実は監督は彼ではない。
このストップモーション・アニメーションの
作成は非常に手間のかかる作業であり、
ティム・バートンは『バットマン リターンズ』の
撮影中で手が離せなかったため、
ヘンリー・セリックが監督を任されたのだ。
この映画は彼をはじめとし、
アートディレクターのリック・ハインリクスや
音楽担当のダニー・エルフマン、
途中参加の脚本家キャロライン・トンプソンなど
偉大なる影の功績者たちの努力の上に完成した。


【以下内容に触れています】

ストーリーを単純にいえば、
『ハロウィンで皆んなを怖がらせるお決まりに
飽きたジャックがクリスマスに憧れ、
真似しようとしたけど、失敗。
でも僕は頑張った!成長した!愛にも気付いた!
ハロウィンもクリスマスも良いものだ!』
という感じ。

ジャックの自己肯定感ってこの世で、いや、
あの世でも、一番かもね。
でもこの他人を振り回す身勝手さこそが
ハロウィンの王なのかもしれない。
散々クリスマスを引っ掻き回した挙句、
「僕はみんなを喜ばせようとしただけ
それが失敗しただけだ
そうさ!まあいいだろう!
僕は精一杯頑張った!すばらしい体験をした!
少しだけど空も飛べた
語り継がれるような物語も残した」
と歌う姿は恐怖そのものだもの。

私が好きなキャラクターはね、
何といってもやはりサリー!彼女は最高。
サンタクロースにも
「この町でまともなのは彼女だけだ」と評される。
愛するジャックのためなら窓から飛び降りる。
バラバラになった身体を自分で縫い合わせる。
そんな大変な思いをしてジャックに
差し入れをしてもすぐに姿を消す。
いつでもジャックのことを気にかけて行動する。
優しく、賢く、勇敢な彼女。
そして強かさも持ち合わせる。
一番好きなのは、自分を束縛する生みの親
フィンケルスタイン博士から逃れるこのシーン。
彼女は博士に毒スープを飲ませようとするが、
怪しまれ、まず毒見しろと言われてしまう。
そこで彼女はわざとスプーンを落とし、
自分の靴下に仕込んだ穴あきスプーンと取り替え
飲んだフリで見事誤魔化す。
子どもの頃から私はこのシーンがすごく好きで
なんて賢いんだ!私もいつか絶対やろう!
と思っていた。
そのいつかは幸いまだ訪れていない。

それにしてもフィンケルスタイン博士は
ゾッとするキャラクターですよね。
自身が作り出したサリーを自分の世話係としか
思っていない。
そんなサリーが反抗的で手に負えないとわかると
最後には別の世話係をまた生み出している。
しかもサリーが娘のような容貌だったのに対し、
今度作り出した人形は妻のよう。
怖。女に自分の世話を押し付けるんじゃあない。

冒頭で述べた、この映画の製作者たちの苦悩は
Netflix「ボクらを作った映画たち」にて
知ることができます。
こちらもめちゃくちゃ面白い。
製作者たちはティム・バートンの世界を
作り出すために2つのルールを徹底した。
『使う色は白と黒とオレンジ』
『建物は垂直禁止』

また、ミュージカル部分を全て製作し、
ジャックの歌唱も担当した
元オインゴ・ボインゴのダニー・エルフマンは
ジャックと自分は似ていると語る。
喝采の中でも何か物足りなかった
あの頃の自分と重なると。
「ジャックが歌うときそれは僕だ」

そして撮影は週に1分を作り出すペースで進んだ。
「今日のノルマは2秒間だ」と。

これはティム・バートンを筆頭に
数百人の素敵な変わり者が作った
ストップモーションの不朽の名作である。


【ナイトメアー・ビフォア・クリスマス/
ヘンリー・セリック】

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