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ショートショート『ラッキーフォーム』

 『今日の運勢第一位は牡牛座のあなた。ラッキーフォームはアンダースロー。では今日もよい1日を。』

 買い換えるタイミングを失ったテレビから流れ出る、学生時代、高嶺の花という称号をほしいままにしていたであろう容姿端麗な女性アナウンサーのハツラツとした声が、枕で塞がれていない方の私の耳にゆるやかに届いてくる。

 あぁ今日はアンダースローか。入念にストレッチしてから家を出ないと。念の為先週買った膝のサポーターも着けて行くか。

 脳を活動させずに行われる起床後のルーティンが私は好きだ。気付くと全てが終わっていることになんだか自分が高尚な力を得たような錯覚に陥ることができるからだ。歯ブラシを咥えながら身支度を済ませ、ストレッチで全身の血流の流れを感じることができたところで、私は家の扉を60°開け身体を外に放り出す。ここまでがルーティンだ。

 ドアに鍵をかけ、マンションの隣の部屋の前をふと見ると、昨晩作り過ぎたカレーをタッパーに入れアンダースローでお隣さんへ配る奥さんの姿。そうかこの人牡牛座だったか。タッパーから溢れ落ちた数滴のルーに心の中で合掌しつつ、私は会社へ続く大通りへと歩いて行く。

 街中には「落としましたよ」と声をかけ、拾ったハンカチをアンダースローで女性に渡すサラリーマン。飲み終えた緑茶のペットボトルをアンダースローでゴミ箱へ放り投げる大学生。「あなた最低」と決別の言葉に乗せてアンダースローで恋人の頬を叩くOL。色とりどりのアンダースローで溢れていた。いつからだろうか。ただの娯楽に過ぎなかった朝の占いがその信憑性を増していき、誰もが疑うことを忘れるほどに市民権を得たのは。

 さて今日も一日働くぞ。会社に着いた私は、右手の甲を地面から1cmの位置まで下げることに成功したアンダースローで颯爽とタイムカードを切った。

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